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『結婚』  作者: 大輔華子
3/15

泥棒!

 お見合いも無事(?)終わると、玲華は逃げるように自宅マンションに戻りため息をついた。


――だめだ。あいつと話してると息が詰まって酸素欠乏になる。男ってみんなあんなふうなのかなあ……。


 玲華はわざわざ遠くから自分を気遣ってくれ紹介してくれた登志子には悪いと思ったが、丁重にお断りのメールを送信した。理由はよくありがちな、『自分には勿体ないような方で、ご立派すぎて付いていく自信がありません』という社交辞令付きで。

 しかし、メールを送ったあと、母の体が弱いことなどを考えて心に少し迷いが出てきた。そうこうしている時、窓の外のベランダで洗濯物がひらひらと不自然に揺れるのに気が付いた。玲華のマンションは一階である。


――泥棒?!


 カーテンの隙間から明らかに人の姿が見える。玲華は緊張した。そして遠い昔福島に住んでいた頃、遠足で行った先の会津若松で買ったおもちゃの刀を持ってきた。刃渡り四十センチ。ただし、おもちゃだからふにゃふにゃのビニールに銀箔を貼り付けた代物である。泥棒は家に入ってくる様子はない。洗濯籠を手に持っていて、乾しているもののうちどうやら下着などの衣類だけを取り込んでいるようだ。 念の入ったことに、籠は泥棒本人の『マイ籠、持ち込み』である。三日間ほどためていたものをまとめて洗濯して乾していたので、最低でもブラとショーツ六セットを乾していたはずである。今回は特に一着一万円を超える高級ブランド品が含まれている。


――あいつ。まさか全部持っていくんじゃないでしょうね。だったら許さないからね!


 恐れていた通り、その泥棒はタオル以外ほとんどの衣服を綺麗にたたんで『マイ籠』に入れてバルコニーを越えて行った。玲華は怖いのを通り越して頭にきて玄関からおもちゃの刀を持ったままとび出した。曲がり角のあたりに泥棒の姿が見える。

「コラー泥棒!」

 泥棒は妙な格好をしている。上下肌色の厚手の下着に薄茶色の腹巻姿。頭に薄手の手拭いを被り鼻の下で結んでいる。手拭いに隠れていてよくわからないが、おそらく格好からして禿げ頭で、丸めがね。左手には黄色い洗濯籠、背中には泥棒定番の唐草模様の一反風呂敷を背負っている。足袋を履いていて、歩き方はいわゆる抜き足差し足というやつだ。


――こっ、これは完璧なマニアだ。趣味の世界に入ってる……。


 その姿に圧倒され、唖然としているうち、玲華は泥棒を見失ってしまった。近くに交番があるので、被害届けを出そうとして中にいた警察官に盗まれたものと泥棒の格好を説明した。警官は呆れた顔をしながら言った。

「あのねえ。奥さん。そんな変な格好をした泥棒はいないと思いますけど。それじゃあ、私は怪しい人です、って言ってるようなものですよ」

「いえ、本当です。ドリフのカトチャンスタイルというか。その……。ちょび髭もあったかもしれません。あと、それから、私、奥さんじゃありません。まだおねえさんです!」

「ドリフの何ですって?」

 若い警官なのでカトチャンスタイルを知らない。しかも『おねえさん』のくだりを完全に無視された。頭にきた玲華は持っていたおもちゃの刀を構えた。

「あの。ここ警察ですから……。おもちゃでも刀はやめたほうがいいです。逮捕されちゃいますよ。それから、奥さん。サンダルが逆ですし、夜中にジャージの上にスカート履いてうろうろしないほうがいいと思います。近所中の犬が吼えてますし……」


――なっ、何ですって?! 失礼な。くう。悔しい……。やっぱり、『私の夫は刑事です』とか、『警察署長です』とか言ってみたい! ちょっとそこの警官! 頭が高いよ! とか。やっぱり信之さんと結婚しようかなあ。だいいち、泥棒は怖いし家の中に男性がいないっていうのは怖いよ。世の中物騒だからね。


 玲華は被害届けを諦め、再びマンションに戻ってから改めて登志子へ『やっぱり信之さんと結婚を前提にお付き合いをしてみたいです』とメールした。


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