二つ目の夢
玲華は一度、そこで目を覚ました。
――どうして私がこんなことに……。そうだ! きちんと説明すればわかってもらえるはずだ。私には、現に双子の姉妹がいるのだから。
少し安心すると、途端に玲華は二度目の眠りに就いた。
また同じ夢が始まった。小学四年生のときに母が離婚、父に捨てられた母と子。
しかし、夢の中で玲華の持っていたノートには、松玲華ではなく、伊東華子と書いてあった。
そのあたりから夢の内容が急に変わっていった。高校を中退する。そしてバイト先で六歳年上の太った男の人に会う。華子は家を出てその太った人のもとへ転がり込んだ。その人とは将来の結婚を約束する。華子はその人のことを『太っちょ』と呼んでいる。二人と愛猫『みー』の生活は、貧しいけれど心満たされるものだった。
「華子。俺は画家になる夢をもっているんだ。風刺絵というか、まあ漫画をぎゅっと一枚の絵に詰め込んだようなやつさ。あとね、ミュージックバンドも組んでみたいと思ってるんだ」
「太っちょ。味噌汁は合せ味噌よりも赤出しがいいわよねえ」
「俺は合せ味噌派なんだけどなあ……。あとねえ、俺は小説も書いてるから、本も出版したいな」
「太っちょ。みーが最近食欲ないの。トロまぐろしか食べない」
「それって食欲ないのかなあ。あのね、華子。おまえ俺の話聞いてくれてる?」
「聞いてるわよ。私、明日からまた働くよ。バイト先決まったんだ。太っちょの夢が細くならないよう、私も働かなきゃね!」
そこへ夢の中へ突然現れる兵頭という男。兵頭はギャンブラーで競馬で大穴を的中させ金だけはたらふく持っている。早速華子はその兵頭という男にたかり始める。返すあてもつもりもない金を、偽名で借用証を書き借りる。そのお金を、さも真面目に働いて稼いできたようなふりをして愛する太っちょへ渡す。
「華子。ダメだよ贅沢しちゃ。お金は将来の結婚や子供の為にちゃんと貯めておかないと……」が太っちょのいつもの口癖だった。
華子は借金を返さないまま、兵頭の前から姿を消す。
兵頭は騙されたことに気付き、探偵社をつかって華子をついに見つけ出す。そして、金を返せと華子に強く迫る。そしてついには殴る蹴るの暴力だ。
「おまえの旦那に伝えろ! 貸した金を返さないとおまえを監禁するとな」
華子は隙をみて兵頭から逃げ出す。
そしてある日華子は、兵頭が一人で駅のホームの最も線路側に立っているところを偶然に目にする。そして……。兵頭はホームに入ってくる電車にはねられ死亡する。華子は逃げる。逃げる。そして逃げ切る。
――ああ。私、とうとう、人を殺しちゃったあ。
その後、華子は太っちょの所へ帰り、殺人の事実を告白する。太っちょは二人で外国へ逃げようと言う。しかしそれには金がない。
そこへ現れる富岡という男。昨日夢に出てきたホテルだ。富岡からお小遣い十万円を貰う。そしてまた、華子は返すあてもつもりもない五十万円の借用証を書いて富岡へ渡す。
昨日の夢と繋がったところで、玲華は目を覚ました。
玲華には、わけがわからない。いえ、理解はできるが、何故そんな二つの夢を見たのかがわからなかった。