玲華(レイカ)
松玲華は東京駅で母の妹である叔母の登志子と待ち合わせをしていた。玲華は今年でいよいよ三十歳になる。病気がちな母と二人の家庭で育ったこともあり二十歳を過ぎる頃から家事を半分以上担っていたので、この年になるまでほとんど男性と付き合った経験はなく、いまだ独身である。
待ち合わせ場所の『銀の鈴』は、わざわざ『待ち合わせ場所』と書いてあるほど人と人との待ち合わせに使われることが多く、その日も多くの人で混みあっていた。
とんてんしゃん。よーっ。玲華の携帯のメールの着信音である。
==玲華ちゃん。今どこ? 私は八重洲中央口から出てちょっと迷っています。
玲華は早速返信した。
==ここよ。ここ。もう着いてる。
「…………」
玲華は相変わらずの天然である。彼女が婚期を逃しているのはあながち家庭のせいだけでもなさそうだ。
暫くしても登志子が待ち合わせ場所に来ないので、玲華は痺れを切らし電話をかけた。
「叔母さん。私ここにいるって言ってるじゃない。早く来て」
「ここここって、わからないわよ。銀の鈴にいるのよ。あなた目いいんだから見つけて頂戴」
「逆よ逆。叔母さんこそ老眼でしょ。遠くはよく見えるでしょ」
「まったく。あんたって人は相変わらずね」
二人は身を乗り出し人混みの中からお互いを捜す。登志子がふと気がつくと人一倍顔を乗り出している女性が隣にいた。玲華だ。隣にいたのでは、いくら目を凝らしてもお互いに見つかるはずがない。
登志子の話は玲華のお見合い話だった。玲華は特に今すぐ結婚したいというわけでもなかったが、俗に言われる三十路という言葉の響きは女性にとってセクハラ紛いに聞こえるもので、良い人であったなら結婚を考えようと思いその話を受けることにした。