可愛さと告白(1)
なんか番外編っぽいですが続きです。
告白はしたこともされたこともない……葉子が他人だとは思えないのは私だけでしょうか。
実は、共学に行ったら告白したりされたりするのは当然なのかな、とか思ったりしてた。誰にも言えない実はな実話(今私、上手いこと言わなかった?)だけどね。二ヶ月過ごして気付いた。気付かされた!世間の厳しい現実に!!
どこでも何でも、好かれるのは美形なんだ……って!いいさいいさ。デブ専がいるんだから、あえて普通の顔を狙う方だっていらっしゃるかもしれないじゃないか!
雪ちゃんはね?もう告白されたんだって。何度も!
別に?悔しくなんてないよ。雪ちゃん可愛いし、可愛いし、可愛いし。大体、ある程度の段階と交流を挟んでから告白するのが普通でしょ。
「一目惚れしました」って。なんてフィーリングな理由。私だって一目惚れされてみたいよ!
……と、まあ長い長い前置きをしてみました。
今?今は寺田さんと一緒にいるよ。いや、まったくの偶然なんだけどさ、雪ちゃんの告白現場を見てしまって。雪ちゃんの告白現場っていうか、雪ちゃんが告白してるんじゃなくて、雪ちゃんはされてる方なんだけどね。
羨ましいなぁ。なんて思ったりして。
掃除のゴミ出しをしてたら、寺田さんが壁に張り付いているのを見かけたの。最近私達、けっこう話すようになったんだ。授業中とか何度も起こしてもらってる。授業中眠くならない人なのかな?
私なんかすぐ寝ちゃうから、寝ない人は尊敬するよ。って寺田さんに言ったら、苦笑いをされた。なんでだろう?
……って言うのはいいとして、そう、問題なのは今の状況だよ。
「一目惚れしました!付き合って下さい!」
と体育会系的な勢いで頭を下げた角刈りの彼。いい人っぽいけど、正直雪ちゃんと並んでお似合いかと問われれば、「ノー」と答えるだろう。あんまり似合わない。天使と農民(べつに農民を馬鹿にしたいわけではないよ!?)な感じ。
雪ちゃんはふぅ、と大人な息を吐くと、腰に手を当てた。
「悪いけど──」
「「佐々木さん!!」」
「!?」
いきなり、合唱のように複数の声が重なって聞こえた。私達がいるのとは反対側から。私達も驚いたが、雪ちゃんはもっと驚いただろう。跳び上がっていた。跳び上がっても可愛いって、一種の才能だよね。
「な、なんだ……?」
「あ、なんか出てきた」
ゾロゾロと出てきたのは、皆頭を角刈りにしたいかにもな「野球球児」だった。
本当に同年代かと思うほどに老けて……大人びた人が多い。彼らに比べたら雪ちゃんに告白したのは小柄なほうだ。
ふと目を逸らし寺田さんを見ると、いつもより格好よく見えた気がした。
「自分、サードの吉田です!!栗田の先輩です!!」
五、六人の集団の中でも特に厳つい人が前にでる。出たぶんだけ、雪ちゃんも後ずさった。
……ん?
「あの人、高二じゃない?なんで雪ちゃんに敬語使ってんの?」
「女に免疫ないんだろ。野球部だからな。気の毒に」
……寺田さんは免疫あるのかな。私には関係ないことだけど……。
「マネージャーとかいないの?可愛い、それこそ雪ちゃんみたいに可愛い女の子で、レモンの蜂蜜漬けを……もが」
「うるさい。見つかるだろーが」
蜂蜜漬けを差し入れるの!と続ける前に、口を塞がれた。
寺田さんって、絶対私のこと異性だと思ってないよね。思ってたら、こんな過剰な接触しないでしょ。
一人で赤くなるのは不本意なので、私も雪ちゃんのほうに神経を集中させた。
「どうか、栗田と付き合ってやって下さい、お願いします!!」
「「お願いしゃーす!!」」いっそ素晴らしいと呼べるようなハモりを見せて、野球部一同(ではないか。私野球のルールって少しも分かんないけど、部員がこんな少ないわけないもんね)は頭を下げた。
「……」
「「……」」
その沈黙は永遠に続くかと思われた時──。
「よ、寺田……と、山瀬さん?それ何プレイ?」
なかなか戻らない私を心配してくれたのか、柚子川さんが現れた。
「ぷれ……?や、山瀬!?」
口を塞がれたまま、強く頷くと寺田さんはすぐに手を離した。
「早く言えよ!」
「口塞がれて、言えなかったでしょ」
「だ、だとしても……っあーもう柚子川!!」
「何」
「せっかく面白くなってきたところだったのに……!」
再び壁から覗き込むと、雪ちゃんとバッチリ目が合った。その目の奥に、安堵の色が見えたのは、きっと私の気のせいじゃない。
「悪いけど、考えさせて」
とだけ栗田くんに言って、小走りで私に向かって来た。
「ゆ、雪ちゃん!偶然だね!!」
「……なわけないでしょ。見てたとしても、怒らないから」
疲れたように、雪ちゃんは笑った。
そして寺田さんや柚子川さんを今初めて気付いたかのように見て、
「……で、誰?」
あれ?雪ちゃんと寺田さんって初対面だったっけ?
とりあえず野球部に会わないように、とのことで、私達はゴミ出しをしてから教室に向かった。どうせだから共に帰りましょうという流れになり(富樫くんは部活だって)、帰りながら寺田さんと雪ちゃんは自己紹介を交わした。
「君が、一昨日葉子が一緒に昼を食べたって言ってた寺田さんか」
女子かと思ってたよ、と余計なことまで付け足してくれる。確かに、昨日雪ちゃんとのランチタイムで聞かれたのだよ。
『へぇ、その寺田さんって女?』
『え!?う……うーん……』
どちらとも取れる返事に、雪ちゃんは女だと思っていたらしい。そりゃそうか。寺田くん、ならまだしも寺田さん、なんだから。
でもなんか、言いづらかった。寺田さんとお昼を一緒に食べたのは事実だし、べつに人には言えないことをしたわけではないけど。……でも。
「そ、それより、雪ちゃん、栗田くんの告白になんて応えるの?」
割り込むようにして私が口を開くと、雪ちゃんは寺田さん話で盛り上がる気持ちはなかったのか、すぐに私の話に乗ってくれた。
「断るよ」
当たり前でしょ?とその美しい顔は言う。
告白されるのも、意外と楽じゃないのかも、なんて私は思った。だって告白って、するのもされるのも疲れそうじゃない?どちらも経験したことないけどさ。
駅に着くと、私は雪ちゃんと別れた(雪ちゃんも所ノ里駅の人だけど、週に二回、遠くの塾に通っているんだよ)。
「帰ろっか」
寺田さんに声をかけると、目を合わさずにこの人は答える。
「あ、ああ……」
……?
なんか最近、寺田さんが変な感じ。なんでだろ。何を聞いても、歯切れが悪いような。
「……でも、雪ちゃんも場慣れしてるよね。もし私が告白されたら、舞い上がって付き合っちゃうかも」
「相手を好きじゃなくても?」
いつも通りに出した話題。なのに、答える寺田さんの声には非難の色が含まれている気がした。
……例え話だよ?
「寺田さんは違うの?……告白されたことある?」
「ん……まあ、一度くらいは」
あるんだ。ふーん。へーえ。
何とも言えない卑屈な気持ちになって、私は黙り込んだ。
「おい、山瀬?」
「……」
「断ったぞ?だってよく知らない女子だったし」寺田さんが言い訳口調なのと、ここが電車内であることを思い出して、私は思わず笑ってしまう。
「なんで。言い訳してるみたいだよ」
「言い訳?」
「そう。寺田さんは、浮気とかしなさそうなタイプだよね」
浮気しない人って、私好きだなぁ。ってか、嫌いな人いないんじゃない?
うん、少女小説のヒーローの第一条件でしょ。
「浮気ねえ。多少の浮気は男の甲斐性って言うけどな」
「私、もし彼氏が浮気したら絶対別れる。」
「──じゃあ……」
寺田さんが何事か言いかけた時、電車は所ノ里駅に到着した。
「じゃ。メルヘンパークによろしく」
「うっさい」
歩きなれた駅のホームを歩きながら思う。
──じゃあ……何?
寺田さん、君は何と言おうとしたの?
続きます。
「お嬢様と侍女の憂鬱」もよろしくお願いします!!(完全に宣伝ですね……)