特別の翌日(2)
今回は葉子が出せました。
少しだけ、恋愛色が濃い、かな?当社比で。
柚子川と教室に入ると、散々冷やかされた。もちろん、皆俺と柚子川の関係(メルヘンパーク仲間だ)を知っているヤツらなので、こちらも冗談で返すことができる。山瀬サンはまだ来ていなかった。残念に思いつつもホッとして、俺は端の席に移動した。鞄をかけてぼーっとしていると、徹が来た。
「おはよ、明文。聞いたよ」
「おう。……何を?」
「昨日、山瀬さんと帰ったんだって?」
「おま、それ誰から……!?」
徹は俺の質問を軽く無視して、徹はにこにこと博愛主義者っぽい笑みを浮かべる。
人類皆友達さ、と書いてあるポスターの中心にでもこいつの写真を貼ったらけっこう良いんじゃないか?
徹は窓に寄ると、俺を引っ張った。
「あ、ほら山瀬さんだよ」
窓を開けて、徹が指を指す。無駄に長い指の先に、なるほど山瀬サンらしき人が。隣には山瀬サンより少し背の高い男子生徒。二人は楽しそうに会話をしていた。
「……山瀬サンだな」
なんだか心が急速に冷えていくのを感じながら、二人を見る。昨日の山瀬サンは、あれほどの笑みを俺に見せただろうか?
いや、自問するまでもない。見せなかった。
悔しいと思うよりも、感じたのは脱力感だった。
「山瀬さーん!」
友達の友達は皆友達、をモットーとしている徹は、何の躊躇もなく手を振った。校門を通る生徒が一人残らずこちらを見る。
恥ずかしい。非常に。柚子川といい、どうして美形は目立つことをいきなりするのか。
キラキラした目で俺を見るのは、俺もやれ、と言いたいのだろうか。
正直なところ、すごく嫌だった。
しかし山瀬さんとその隣の男子(ネクタイを見ると、中等部だった)がこちらを見たので、俺も仕方なく手を振った。
山瀬サンは少し驚いて、控えめに返してきた。確かに、ここで大きく返したりでもしたら、かなり目立つよな。
「………」
あ、なんか……嬉しい。ただ手を振り返されただけなのに。
すると山瀬サンの隣の男子がこちらを指差して何かを言う。山瀬サンは怒ったように男子に言い返して、手を振るのを止めてしまった。
物足りなく思った。徹もそうだろうと思い横を見ると、しかしヤツはそうでもないらしかった。
「ははは、返してくれたね」
楽しそうに笑っている。
「隣の中学生、誰だろうな」
「彼氏じゃない?」
俺もそう思った……。
彼氏かー。友達よりも先に彼氏ができる。順序逆じゃないか?余計なお世話だと言われればそれまでだが。
窓の外を見ると、すでに山瀬サンは校舎に入ったらしい。見えなかった。
「富樫くん」
未練がましく窓を見つめていると(何への未練かって?何だろうな。俺も分からん)、軽やかな声がした。聞いたことのない声音で、呼ばれた徹よりも先に振り向く。見覚えのない女子だった。初めて山瀬サンを見た時と同種の見覚えのなさだ。外進かな。
「ああ、佐々木さん」
そして女子は可愛かった。柚子川が「美しい」だとしたら女子……佐々木さんは「可愛い」だ。
徹と並んでもよく似合うこと。
「どうしたの?」
「今日、お昼休みに図書館に集まるように、と司書に言われたの。五十分かららしいから、絶対に来てよ」
やたら横柄に言うと、ニコリともせずに、もう用は終わりだと言わんばかりにクルリと踵を返す。
「あ、ありがとう。佐々木さん」
「伝えるように言われただけだから」
佐々木さんが教室から出るのを待って、彼女が教室の扉を閉めてから俺は、
「可愛いのに変なヤツだな」
と正直な感想を漏らしたのだった。徹はそうだね、ともそんなことないよ、とも言わずに頭をかいた。朝のHRギリギリに山瀬サンは教室に入ってきた(後で聞くところによると、友人に会ったらしい。事実かは知らないが)。
気まずさを思い出して目を逸らした俺とひ違い、徹は無駄に爽やかに山瀬サンに声をかけた。
「おはよう、山瀬さん」
「……おはよ。富樫……さん?」
「はは、どうせなら、くんにしてよ。さんじゃなくてさ。隣のクラスに同姓の女子がいるんだ。紛らわしいでしょ?」
「あ、ああそうなの。じゃあ、富樫くんで」
スマートにさん呼びを避けた徹に、俺は羨望の眼差しを向けた。
その後、里中が教室に入ってきて、俺は山瀬サンと挨拶を交わしていなかったことに気づき──後悔に似た感情を胸に抱いた。
次は……一応葉子視点の予定。
まだ「特別の翌日」ですね。一日が長いのなんのって。