話題提供者の悩み
段々葉子がキャラ変わってきたような。
気のせいかな?
気のせいですよね!
今回も葉子視点です。登場してんの二人だけなのに、寺田さんの影が薄い……
山瀬です。
ただいま、寺田さんと下校中。
まあ、分かってたんだけどね!うん、予想外じゃなかった。多分、てか絶対そうだろうなと思えた。だって、無趣味が趣味な私と今日初めて存在を(お互いに)知ったような寺田さん。そんな私達が、和気あいあいと話せるはずがないのだよ。
つまり、こんな回りくどい言い方を止めると。
話題がない!
意外かもしれないが、私は沈黙が苦手だ。誰かといて、話題がなくなり沈黙になったりすると是が非でも話題を作り提供せねばという気持ちになってしまう。だって気まずいじゃん。そしてそれは、家族とか親友相手にでも思う。「心地の好い沈黙」など存在しない!とは私の持論である。
大体さー、誘ったの寺田さんじゃん。そっちから話題を提供するのがスジってものでしょ。なんで私がこんな必死に話題探してんの?
仕方なく、私は最もポピュラーな下校話題に手を出すことにした。
「寺田さんさ、どこ住んでんの?」
「え、お、俺!?」
そんなに驚く話題でもなくない?そうだよお前だよと言いたいのを我慢して、私は大きく頷いた。けれど彼はなかなか答えようとしない。
なに、私のこと警戒してんの?誰も寺田さんにストーカー行為とかしないから。大体若い女性ならともかく、男が最寄り駅聞かれてビクビクすんなっつの。それとも何、秘密主義?私が心のホームで内弁慶さをさらしていると、なんと、寺田さんは質問を質問で返してきた。
「お前こそ、どこ住んでんだよ」
相手がどう返そうと、話題を五倍に膨らます準備はできていた。
それなのに、変化球をくらった気分である。
「私?」
……。
いざ自分が聞かれて、私は初めて答えづらい気持ちが理解できた。別にストーカーとか秘密主義とか関係なく、私は寺田さんに答えるのに躊躇してしまった。
でもね?ぜひ言い訳をさせてほしい。
私はこれまで女子校だったのだよ。
漫画ほどドロドロしてないけど、女の楽園といえるほどには楽園でもなかった女子校に。お恥ずかしい話ですが。
私は男子と二人で下校するのが初めてです。
「……私の最寄り駅は所ノ里駅だけど」
結局、私は答えた。
「え!?嘘だろ、所ノ里!?」
嘘じゃないです。てか、ほんとよく驚くよね寺田さん。
「寺田さんは?」
私に答えさせておいて、自分は黙秘を決め込んだりしないでしょうね。そんな心の声が聞こえたのか、寺田さんは小さな小さな声でボソッと呟いた。
「……小狐公園駅……」
「!!」
噴いた。小狐公園駅!!私の駅の一個後の駅です。けど、それは噴く理由じゃない。
小狐公園は、その愛らしい名前から、「メルヘンパーク」と呼ばれているのでした。可愛い!可愛いけど寺田さんには似合わない!!
今週最高のツボだった。
「あははははは!!」
全力で大爆笑し始めた私に、寺田さんはびくりと肩を揺らした。
なるほど、彼はストーカー行為を恐れていたのではなく、もちろん秘密主義なわけでもなく。
「め、メルヘンパーク……!!」
駅の名前を言いたくなかったのだね。
納得です。
寺田さんは私の笑いようを恨めしげに見ていたが、駅に着いたことで肩を落とした。私も一人でニヤニヤするわけにもいかず、頑張って笑いを堪えた。
ICのカードで改札を抜ける。蜘蛛の巣みたいにいろんな線路がこね駅から出ていて、初めてきた時は迷った。さすがにもう迷わないけど。私と寺田さんはまっすぐ同じ方向に歩いていく。
うーん、本屋行きたいなぁ。でも下手なこと言って、「一緒に行くよ」的展開なるのは避けたい。だって、寺田さんだって乙女チックな、表紙の半分がピンクな本の売り場に行きたくないでしょ?私は来てほしくない。
電車に乗り込み、ガタガタと揺られている間中、再び私達を沈黙が包み込む。でも、今回は好都合だった。盛り上がっている時に「私本屋寄るから」とか言ったら空気読めない女の典型みたいになるけど、気まずい空気の中だったら、別に途中抜けたって構わないでしょ。
少しして、私がいつも贔屓にしている大きな本屋がある駅に止まった。私はサッと鞄を肩にかけ直して、寺田さんに手を振った。
「私、この駅に用あるから降りるね。じゃあまた明日」
「え?」
寺田さんが目を丸くしている内に、私は途中下車をした。
いきなり同乗者に降りられた寺田さんの気持ちなど考えぬまま、私はウキウキルンルンと本屋の少女小説コーナーに向かったのだった。
次は……一応寺田さん視点の予定です。
一応。