秘密の場所
「帰りたい」
ため息まじりにそう呟く。いつもよりリュックが重たく感じる。校門の目の前なのに、学校に来た瞬間帰りたくなる。
足をなんとか動かして、2年B組の教室に向かった。窓際の席にぽつんと座る。周りではみんな友達と談笑している。
僕なんて、いてもいなくても変わらない。
僕は、特別な人間じゃない。
勉強ができるわけでも、運動が得意なわけでもない。
高校に入ったら漫画みたいな青春ができると思っていた。でも、現実はそうもいかないらしい。
僕はいわゆるぼっちで、高校に入ってから楽しい思い出がない。人と話すことが苦手だからだ。
楽しそうな人を見るたび、僕とは住む世界が違うんだなと思う。
夏休み直前だっていうのに、わくわくしない。理由なんて、分かりきっているんだけど。
論表、英コミ、地理、現文……。授業はあっという間に終わり、昼休みになった。
ほとんどの生徒が教室で弁当を食べる中、僕は教室を出る。
昼休みになると僕はいつも屋上に行く。教室にいるより、風に当たる方が心地よい。
立ち入り禁止のテープを無視して、ゆっくりと階段を上がる。
ドアを開ける。
--そこには、少女がいた。
長い黒髪が風になびいている。彼女は青空を眺めていた。自分でもよく分からないけど、気づいたら声をかけていた。
「君、ここで何してるの?」
彼女はこちらを振り向いて、にっこりと笑った。
「景色見てた……空、綺麗だなーって思って!」
彼女は子どものように目を輝かせている。
いつも屋上に来ている僕にとっては、当たり前の景色なのに。
「君の方こそ、どうして屋上に?」
「僕はお弁当を食べに……いつもここで食べてる」
「いけないんだー! ここ立ち入り禁止なんだよ?」
「君もね」
「ふふふ」
彼女はいたずらっぽく笑った。やっぱり子どもっぽい。
「ここで食べてるんだぁ〜いつから?なんで? 一人?」
急に質問攻めをくらった。彼女は興味津々といった様子で聞いてくる。
「入学した時からここで食べてる……なんか落ち着くから……ここ好きなんだ」
「僕にとっての秘密の場所的な?」
「いいね!それ!なんかわくわくするね!」
顔をぐいっと近づけてそう言った。近い。
「じゃあこれからは、“二人”の秘密の場所だね!」
「えっ?」
「これからはお昼一緒に食べよ!」
「うん」
僕の夏が始まった。




