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8月31日
初投稿です。拙いですが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
――プロローグ
夕焼けが校舎の窓を鈍く光らせていた。
昼間の熱を残した屋上は、まだ少しだけ夏の匂いがする。
フェンス越しの空は、薄い橙から群青へゆっくり溶けていく途中だった。
風が吹くたび、金網がかすかに鳴る。もう、蝉は鳴いていない。
ここに立つのは、今日で何度目だろう。
足元のコンクリート。壁の小さなひび。落書きの消えかけた跡。
何も変わっていないのに、隣にあったはずの気配だけが、きれいに消えている。
あのとき、同じ空を見上げながら、何かを言いかけて、やめた。
言葉にしなくても、伝わる気がしていた。たぶん、それがいちばん甘かった。
夕陽が沈む。影が長く伸びて、やがて足元に溶ける。
屋上は静かだ。風だけが通り過ぎる。僕はフェンスから手を離した。
金網の冷たさが、やけに残る。
ほんの少しだけ息を吸い込んで、何も言わずに空を見る。
今日で、夏が終わる。
扉を開ける前に、もう一度だけ振り返った。
そこには、夕焼けに染まった屋上があるだけだった。
それでも、ここで過ごした時間は、きっとどこにも行かない。
“あの日”のことは絶対に忘れない。




