第3話 ログイーター
空が赤く裂けていく。
俺は覚えている。
このあと、この街が半分消える。
⸻
ダンジョン入口は騒然としていた。
兵士が叫んでいる。
人が逃げている。
「立ち入り禁止だ!」
「ダンジョンが暴走している!」
俺は止まらない。
「ここから地下に行く」
俺は言った。
エリシアが横で聞く。
「ダンジョン?」
「ああ」
王都の地下には巨大なダンジョンがある。
王国が管理する魔物発生源。
普通は問題ない。
だが時々――
暴走する。
そして街が消える。
「今回の原因は?」
エリシアが聞く。
「ログイーター」
俺は答えた。
エリシアは少し目を細める。
「それ、もう出る?」
「出てる」
俺は即答する。
「このタイミングなら」
エリシアは楽しそうに笑った。
「やっぱり全部覚えてるんだ」
俺は答えない。
覚えている。
731回。
この事件で王都は半分消えた。
「止まれ!」
兵士が剣を抜く。
「止まらない」
兵士が怒鳴る。
「死ぬぞ!」
俺は答えた。
「知ってる」
そのまま入口を通る。
兵士は一瞬迷った。
その隙に俺は地下へ降りていた。
エリシアがついてくる。
「強引だね」
「急がないと街が消える」
石の階段を降りる。
空気が変わる。
冷たい。
腐った魔力の匂い。
「いるな」
第一層。
床が黒く染まっている。
崩れた壁。
魔物の死骸。
そして中央に――
それはいた。
黒い塊。
煙のような体。
形が安定しない。
周囲の空間が歪んでいる。
ログイーター。
世界の“記録”を食べる魔物。
エリシアが小さく言う。
「ほんとに出た」
ログイーターが動く。
速い。
俺は一歩横に動く。
黒い体が石壁にぶつかる。
壁が削れる。
俺は剣を振る。
一閃。
ログイーターの体が裂ける。
だが再生する。
エリシアが言う。
「普通の攻撃は効かないよ」
「知ってる」
俺は床を見る。
黒い魔力の流れ。
核。
場所は覚えている。
俺は踏み込む。
ログイーターが再び襲う。
だが止まらない。
剣を振る。
黒い体を裂く。
奥へ。
さらに奥へ。
そして――
剣を突き刺す。
空間が歪む。
ログイーターが震える。
黒い霧が崩れ始める。
「……終わりだ」
魔物は崩壊した。
黒い霧が消える。
ダンジョンが静かになる。
エリシアが小さく拍手した。
「さすが」
「早いね」
俺は剣をしまう。
「731回やってる」
エリシアは少し首をかしげる。
「でもね」
「今回は少し違う」
俺はログイーターの消えた場所を見る。
床に黒い亀裂が残っている。
その奥。
赤い光。
俺は息を止める。
「……違う」
ログイーターじゃない。
この魔力は――
1026回には存在しなかった。
ダンジョンの奥で、
何かが動いた。
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