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砦の街〈バルグレア〉 03

砦東門の戦場は、すでに混沌としていた。


地面は裂け、魔力障壁はひび割れ、倒れた魔物と人の血が混じっていた。 それでも、群れは止まらない。


「後方、補充班急げ!前衛、崩れるぞ!」


指揮官の怒号が飛び交い、第二陣の冒険者たちが前線へと駆けていく。 だが、誰もが気づいていた。 この群れの動きには、中心がある。 ただ逃げてきたわけではない。何かに導かれている。


黒猫が肩の上で毛を逆立てた。

「……来たわ。群れの中心。異常個体よ。魔力、濃すぎる。」


森の影から、ひときわ大きな魔物が姿を現した。 体躯は他の個体の倍以上。 甲殻は黒く光り、脚には魔力の紋が浮かんでいた。 その目は、明らかに知性を帯びていた。


「変異核……かも。普通の魔物じゃない。 群れが逃げてきたのは、こいつが動いたから?」


砦の防衛線がざわめく。 魔術師たちが一斉に術式を展開し、弓兵が狙いを定める。 だが、異常個体は動じない。 一歩踏み出すたび、地面が軋み、魔力が空気を押し潰す。


彼女は無言のまま、杖を構えた。 魔力が集まり、空気が震える。 術式が描かれ、光が彼女の周囲に浮かび上がる。


黒猫が低く呟く。

「……本気でやるしかないわね。あれは、砦を壊す気よ。」


異常個体が咆哮を上げた。 その声は、魔物のものとは思えないほど濁っていた。




異常個体の咆哮が響いた瞬間、群れの動きが変わった。 それまで散発的だった突撃が、一斉に揃った。 まるで指揮を受けているかのように、統率された動きだった。


「前衛、下がるな!――くそっ、押し返せない!」


突進型が盾を弾き飛ばし、跳躍型が城壁を飛び越えてくる。 魔力障壁が悲鳴を上げ、ついに一部が砕けた。


「障壁、破られた!東門、突破されたぞ!」


怒号と悲鳴が入り混じる中、スタンビードの群れが砦の中へなだれ込んだ。 市街地の石畳を蹄が叩き、逃げ遅れた市民の叫びが夜空に響く。


ギルドの前線も崩れ始めていた。 彼女は無言のまま、後退する冒険者たちの背後に回り、術式を展開する。 地面に描かれた光の紋が、魔物の足元を縛り、動きを止めた。


黒猫が肩の上で叫ぶ。

「街の中に入られた!中央区画まで行かれるわよ!」


彼女は表情を変えず、次の術式を構築する。 空中に浮かぶ魔力の線が、複雑な陣を描き始める。


「……時間を稼ぐしかない。あんたの魔法、ここで見せるときよ」


ギルドの建物から、負傷者を抱えた回復班が飛び出してくる。 後方では、第二陣が急ぎ陣形を整えていた。


「中央広場で迎撃を!市民の避難がまだ終わってない!」


砦の中が、戦場になった。 火の手が上がり、魔力の閃光が夜を裂く。 彼女は杖を掲げ、静かに魔力を練り上げる。





中央広場は、避難誘導のために設けられた最後の防衛線だった。 石畳の上に魔力障壁が展開され、ギルドの魔術師たちが詠唱を重ねていた。 だが、東門を突破したスタンビードの群れは、すでに市街地を荒らしながら迫っていた。


「市民の避難、まだ終わってない!迎撃班、前へ!」


冒険者たちが広場に集まり、陣形を整える。 彼女はその後方に立ち、杖を構えて術式を描いていた。 空気が震え、魔力が広場全体に広がっていく。


黒猫が肩の上で低く唸る。

「……異常個体、来るわよ。群れの動きが変わった。 あれが指揮してる。砦の中で暴れる気よ。」


異常個体が広場の端に姿を現した。 他の魔物を押し分けながら進み、魔力の波を放っていた。 その一歩ごとに、地面が軋み、障壁が揺れる。


「魔力障壁、限界です!崩れます!」


叫び声とともに、障壁が砕けた。 異常個体が咆哮を上げ、群れが一斉に突撃する。


彼女は無言のまま、術式を完成させた。 杖の先端から放たれた光が、広場の空間を包み込む。 重力、風、光――複合式の魔法が展開され、突撃してきた魔物を弾き返す。


黒猫が叫ぶ。

「今よ!押し返して!」


前衛が突撃し、魔物とぶつかる。 広場は戦場になった。 火球が空を裂き、剣が閃き、魔力が爆ぜる。


異常個体は、術式の中心に向かって突進してきた。 彼女は一歩も動かず、次の術式を描き始める。 その目は、ただ敵を見据えていた。


黒猫が低く呟く。

「……あれを止めなきゃ、街が終わる」





中央広場の防衛線は、すでに限界を迎えていた。 魔力障壁は砕け、火の手が上がり、瓦礫が散らばる。 スタンビードの群れは広場を埋め尽くし、異常個体がその中心に立っていた。


その体躯は他の魔物の倍以上。 甲殻には魔力の紋が浮かび、脚からは黒い靄が漏れている。 目は、明らかに人を見ていた。


黒猫が肩の上で低く唸る。

「……あれ、知性あるわ。魔力の流れ、完全に制御してる。 普通の魔物じゃない。変異核、確定ね」


異常個体が一歩踏み出す。 その瞬間、周囲の魔物が一斉に動いた。 まるで命令を受けたかのように、統率された突撃。


「来る!広場、持たない!」


彼女は無言のまま、杖を掲げた。 空気が震え、魔力が広場全体に広がる。 術式が空中に描かれ、複雑な陣が幾重にも重なる。


黒猫が目を見開く。

「……三重式?風、重力、光。あんた、やる気ね。」


異常個体が咆哮を上げ、突進してきた。 その速度は、他の魔物とは比べ物にならない。 前衛の盾が弾かれ、魔術師の詠唱が中断される。


彼女は一歩も動かず、術式を解放した。 風が渦を巻き、重力が空間を歪め、光が閃光となって異常個体を包み込む。


黒猫が叫ぶ。

「直撃!でも、まだ動いてる!魔力核、壊れてない!」


異常個体が術式の中心から飛び出し、彼女に向かって突進する。 その瞬間、彼女の足元に新たな紋が浮かび上がった。


黒猫が低く呟く。

「……あんた、最初から狙ってたのね。 あれは、封印式。魔力核を直接狙うやつ。」


異常個体が術式に踏み込んだ瞬間、空間が閉じた。 光が収束し、音が消え、広場が一瞬、静寂に包まれる。


そして――


爆ぜるような音とともに、異常個体が吹き飛ばされた。 甲殻が砕け、魔力の紋が崩れた。




異常個体が吹き飛ばされた瞬間、広場に満ちていた魔力の圧が霧のように消えた。 それまで統率されていた魔物の群れが、一斉に動きを止める。 咆哮も、突撃も、ぴたりと止まり、魔物たちは混乱したようにその場で蠢いた。


黒猫が肩の上で目を細める。

「……指揮が切れた。もう、ただの群れよ。烏合の衆」


その言葉を合図にしたかのように、冒険者たちが一斉に動き出した。 前衛が盾を捨て、剣を抜いて突撃する。 狩人たちは高所に移動し、次々と矢を放つ。 魔術師たちは詠唱を短縮し、攻撃魔法を連打した。


指揮官が声を張り上げる。


「右側、掃討完了!残り、十体以下!全員、最後まで気を抜くな!」


彼女は無言のまま、術式を再構築する。 今度は攻撃特化の陣。 火と雷の複合式が空中に浮かび、次々と魔物を焼き払っていく。


魔物たちはもはや連携もなく、ただ暴れるだけの存在になっていた。 冒険者たちは連携し、確実に数を減らしていく。 広場の隅で、最後の一体が倒れたとき――


静寂が戻った。


煙と血の匂いが漂う中、誰かが剣を地面に突き立てた。 その音が、戦いの終わりを告げた。


黒猫が肩の上で、ぽつりと呟く。

「……終わったわね。今度こそ、本当に」


彼女は何も言わず、杖を下ろした。 その目は、空を見上げていた。


夜の帳が薄れ、空の端がわずかに白み始めていた。 砦の塔の上に、朝の光が静かに差し込み始める。 長い夜が、ようやく終わろうとしていた。

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