無限ループって怖いね
再び玉座へ帰るも、何故か俺を膝に抱えて撫でながら話す、圧倒的エロボディな女王金髪エルフ。
聞けば彼女の名はシヨルル・リタリス・コングラシアと言うらしい。
こんな美女なのだから、当然GHでも人気キャラ……というわけでもなく。
はっきりいってまったくの他人。それどころか、生憎記憶にすらございませんって感じの美女だ。
とはいえ、流石に一応の推測くらいは出来る。
順当に考えるなら、恐らくこの方はあのチートエロリフことローゼリア・リタリス・コングラシラの母親その人なのだろう。
……しかしなぁ。まじで何にも知らねえんだよなぁ。
これでも一応はGHクリア済み、それも一周じゃなくて周回しているくらいの身。
完全なガチ勢ではないし、街のモブや壁の染みの数とかは忘れても仕方ないが、流石にメインキャラの、それもあのローゼリアの母親だったら記憶から抜けないと思うんだけどなぁ。
もしかしてあれかな。
スタッフがサプライズとか言って三日前に限定百部とコミケ発売を宣伝し、専用板で戦争まで招いたあのクソ厚ファンブック(税抜9800円)にでも書かれていた設定なのかな。
もしもそうだったのならお手上げ、戦争に負けた俺には分かりかねることだ。
勝者の連中が勝ち誇りながら匂わせだけして、書かれていた情報のほとんどを秘匿しやがったからな。実際殺害予告で逮捕者すら出たほどの痛ましく残当な事件だった。
まあでも、今更深く考えても無駄か。
この世界はGHみたいな世界ではあるが、完全にそのままというわけではない。
ステータスやスキルツリーみたいなゲーム的なシステムだってないのだから、知らない人がいるのは当たり前。むしろ登場キャラなんて少数派もいい所なのだから。
むしろ、この場合は喜ぶべきか。
いくつかも分からないロリが必死に統治している姿なんて、現状無職の俺は見たくなかったからね。就職出来なかった前世を思い出して鬱になってしまいそうだ。
まあ女王様についてはそれでいい。
墓を擽るインモラルな体臭とかちょうど頭に当たる二つのお山とか膝吸い込まれるようにフィットする膝とか色々あるけどそれは気合いで置いておこう。
俺が女王様すら差し置いて注目すべきは、あの玉座の奥上に飾られた一本の透明な枝の方。
玉座の奥の壁に立て掛けられた、この玉座の間の中でも別格と言えよう神秘を醸す枝。
あれが、あれこそが。
触れただけで溶け落ちてしまいそうな儚い透明でありながら、絶対の存在感を発する枝こそが。
──水晶枝。俺が生涯の目標と定めた百財宝、その一つだ。
「……ほう、余より我らが至宝か。中々に見る目があるようだが──少し、妬けてしまうな」
刹那、女王が俺を抱く力を少しだけ強めながら発した威圧に、全身が重圧に心が締め付けられる。
目の前にある百財宝に心を奪われてしまい、すっかり抜け落ちてしまっていた。
ここはエルフの頂点、女王のおわす御前。
例え俺に非がなくとも、女王が対等であれと願えど平伏し、命を乞わねばならない絶体絶命の状況。
喰われる立場である俺が気を緩めるなんて愚行、絶対に許されていなかったのだ。
「ふふっ、そう怯えるな。其方は恩人、取って食おうなどとは思っておらぬ。……本当だぞ?」
冷や汗かきながら、声を震わせながら謝罪すると、女王様は慈しみと艶を優しく頭を撫でてくる。
そらまあ取って食うには肥えてませんからね。肉も魔力も、地位も身分もお財布も。
しかし助かったからいいけど、なんでこんなに気に入られてるんだろ……もしや俺、拾ったペット扱いされてる?
けれどさっきの圧一つだけで、嫌が応にも理解らされてしまった。
例えそういう意図はなくとも、そこにあるだけの魔力で理解してしまう。ため息一つ、撫でる手一つ、微笑む声一つで魂の芯まで実感させられてしまう。
この人は美女の器にあるだけで、本質は正真正銘の化け物。
戦おうとか逃げだそうとか、会話でその場を乗り切ろうとか思ってはいけない、何かでしかないのだと。
不安から相棒に頼りたくなるが、そこはぐっと堪えてしまうが我慢。
騙されるな。あれは美女なだけの化け物。エッチで優しいだけの化け物化け物モンスターモンスター……あれ、何か悪いことでも?
「……嗚呼、愛いのう。実に愛いやつよの」
はい?
「このまま貴様と戯れるのも悪うないが、ひとまずは本題を早々に済ませるとしよう。用件は宰相めから聞いておるか?」
何か誤魔化された気がするけどまあいいや。
それで説明でしたっけ? 宰相がキノ……マッシュ様であらせられるなら、何一つ説明なくこちらまで招待されたのでまったくもってって感じです。
「やはりか。彼奴も人が悪いのう。ま、適当に罰しておくが故、それで手打ちにしてやってくれ」
あ、はい。
エルフがくそなのは百も承知なので別に処罰なんかしなくても……いや、やっぱ書類仕事二倍とかでどうっすかね? 出来れば残業代なしで。
まあそんな戯言を宣える立場にはないので、実際の口からは何も出てきてくれやしないのだが。
あー早く帰りたい。とっととこの森出てロマンシアへ向かいたい。
あそこの名物串焼き、ゲームでも唾飲んじゃうほど美味しそうだったから食べてみたかったんだ……。
「今回其方を招いたのはな、余の命を救ってもらったことへの礼を言いたくてな?」
ほえ、命とは?
「余の患っていた琥珀症、その特効薬にブルーベアンドの爪と瞳が必要不可欠でな? 希少故森に在庫などなく、発見すらままならない。我らエルフの天敵とも言える病に打つ手をなくしていた所に、其方がこの森へ現れたというわけだ」
あー琥珀病。
そうそう、確かそんな名前だったなぁ。
皮膚に琥珀色の斑点が現れるのも初期症状とし、次第に全身に広がり、やがては死に至る。エルフのみがかかるとされた、呪いとも形容される病。
具体的なことは忘れていたが、名前を出されると一気に思い出せるってもんだ。
それにしても、まさかあの熊で人の命を救えるとは妙な偶然もあったもんだなぁ。びっくりだ。
「そういうわけで、其方に礼をと招いたわけだ。質問は?」
ないです。非常にシンプルだったので。
「善き哉。なれば欲せよ。余の名と誇りを懸けて、可能な限り求めに応じよう」
そっすか。
じゃあ旅に必要なの水と食料とエルグ(この世界のお金)を五千ばかり……あ、せっかくだしアイテムボックスなんかを都合していただければと。
「何? それだけで良いのか?」
ええもちろん。
むしろたまたま拾ったベアンドを差し出して貰えるものとしては、あまりに破格すぎますって。
けど端金みたいに言うけどさ、素寒貧な俺にとっては五千でも大金よ?
別に無償でも良かったのだが、それだと一つの貸しにされてしまうかもしれない。エルフに、それも王族に貸し借りとかまじで勘弁だわ。
「……欲がないな。我らの先祖が故郷たる輝き森より唯一持ち運び、女王のみが振るうことを許された至高の一杖。それ自体は流石に無理だが、近しい価値の宝ならくれてやれるが?」
いらないです。正直めっちゃ欲しくはあるのですが、貰った後を考えると割に合いません。
女王様は困惑を向けてくるが、俺にはさして関係のないこと。
だって俺が欲しいのはあくまで百財宝。それを求めると決めたあの日から、それ以外の宝にはさして興味を示せないわけで。
ああでも、宝物庫自体はGHでも入れないから覗いてみたくはある。
水晶枝については代替案があるのでここで揉めてまで求める必要はない。そもそもそれはローゼリアの最終装備になる(予定)の特別品であって、厳密に言えば百財宝ではないからね。砂糖と塩くらいには別物なんだ。
そういうわけで、お金とお水をちょーだいな。
そしたら互いに笑顔で一件落着。何事もなくこの森から旅立ち、いい思い出でハッピーエンドよ。
「……ふふ、ふふふっ。フーッハッ八ッ!!」
そのまま本音を告げた数秒後、女王は何故か高らかな笑いを玉座の間へ響かせる。
何故笑うんだい? 俺の要求は真っ当だよ? あ、お胸が揺れてすっごいことになってる。
「のうシーク。其方、歳はいくつだ?」
え、はい。この前十になりましたけど。
「おお! それはそれは、実に数奇なものよ! ……シーク、余の娘と契る気はないかえ?」
……はっ? ちぎるとはなんぞ? 千切る……まさか、契る?
「余は其方をそれはもう気に入った。本来であれば余の夫にし収める所だが、まあ立場上今は叶わん。そこでだ。世の娘であるローゼリアと婚約し、この森に永住というのはどうであろうか」
どうであろうと言われても、突拍子もなさすぎて、さっぱり意味が分かりませんが。
「其方と同じ十の齢ながら、眠る魔法の才は余以上。多少浮き世離れしており、気立ても良く聡明故、其方を立てる良い女になろうぞ。嗚呼、ただしあの娘は大樹に宿された子故、体つきまで似通うかは定かではないがな?」
まるで通販の目玉商品みたいな気軽さで、己の娘を売りに出してくる女王様。
うーん意味が分からない。
まず大樹に宿されたって何? 俺の知らん単語を常識みたいに話さんといてくれるかなぁ?
というかさぁ? そういうのってまず娘さんの意志が大事だと俺は思うなー。
王族なら歳関係なく婚約もするんだろうが、自由恋愛の一つもないなんて高貴な方々はこれだから。あーやだやだ、一般市民にはついぞ理解出来ませんよ。
大体あのローゼリアが、真の仲間である彼女が主人公以外に熱を上げるわけがないじゃないですか。
解釈違いにも程があります。そんな理解度じゃGH検定初級(非公式)すら取れませんよ?
「同意なら問題ない。あれは余の娘、番の趣向も似通うだろう。どうだ? それを報酬とせんか?」
嫌どす。
俺は所詮、誰かの人生を背負う器量のない人でなし。それは前世だけでも十二分に理解してしまっていいるわけで。
シモについてはちょっとグレードの高い店を巡るだけで十分幸せ。最期の瞬間、隣にあるのは人ではなく集めた宝であればそれで結構なのだ。
そういうわけで、その話はなかったことにでお願いします。
「……それは困った。余の名案、まさか断られるとは思ってなかったからのう……」
自分の中で相当譲れなかったのか、あんなに怖かった女王様の申し出にかかわらず即答。
まさか断られると思っていなかったらしい女王様は、俺を抱く力を少しだけ強めながら、露骨に悩む素振りを見せ始めてしまう。
あのー悩んでる所悪いんですが、そろそろ帰らせてもらってよろしいですかねー?
抱っこされてる羞恥を誤魔化せなくなってきたし、そろそろ外の空気吸いたい頃合いだからさー?
「困った困った。たかだか宝物の二つ三つで次期女王の命の礼を済ませてしまえば、我らエルフの沽券にかかわってしまう……おおそうだ! シーク、其方には数日この城にて歓迎を受け、報酬として相応しい物を見定めてもらおう。それならば我らエルフの面子も保てるというものよ。名案だろう?」
女王様は取って付けたように、まるで良案だとばかりにとんでもないことを提案してくる。
あかん、これはまずい。さてはこれ、このまま帰してくれないやつだ。
どうせすぐに解放されるやろと高を括り、日帰り観光気分だったのが徒となっちまった。
というか女王様、絶対今思いついたわけじゃないだろ。
何が狙いでこんなしょうもないことしてくるんだ? 今は宝なんて一つも持ってないし、こんな持たざるガキ一匹を囲い込む利点なんてないはずだけど。
「どうだろうか? 余としても、其方と今日だけの関係になどしたくはないのだが」
嫌です。
「……駄目か?」
駄目です。首撫でられても駄目です。
「…………本当に?」
本当に。そ、その柔らかなお山で誘惑しても頷かないんだからね!
「………………その首、縦に振ってくれると余は嬉しいのだが」
……無限ループって怖くね?
子供の遊びに付き合う保育士みたいに聴き続けてくる女王様、俺は折れざるを得ないと頷く。
俺の返答に笑う女王様と勝ち目はないと嘆く俺。勝者と敗者は一目瞭然。
嗚呼、やっぱり情けって自分の為にならねえな。寄らなきゃよかったぜ、こんなエルフの森なんかよ。
読んでくださった方へ。
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