知ってる玉座に知らねー美女が
というわけで。
色々あった末にロメルの森の通行許可を貰い、村へと一泊することになったシークですが。
最初こそ奇異と軽視の視線が鬱陶しかったものの、何だかんだでとてもエンジョイしております。
というのもね?
ここ、水がそれはもう美味いのよ。今世は愚か前世合わせても別格ってぐらいにはさ。
喉を通る清涼感の塊。ひんやりと冷たくも、口と脳が辛くならない絶妙な心地良さ。
これを水と認めてしまえば、今まで飲んでいた水は偽物と言うしかないってくらい。叶うなら一生分の水をここで買ってしまいたいほどだ。
GHでもロメルの森の道具屋で割高で売っていたが、これなら無駄に高い価格にも納得してしまう。
ゲームで同じ効果なら安い方に流れるのは当然だが、本当に使うなら喉を通りやすい方が良いに決まっている。
……そういえば、この世界での回復アイテムの効果ってどんな感じなんだろうな。
日常で使っていた薬草なんかは即時回復なんて出来なかったから落胆したんだが、ゲームでも高性能だったものであれば奇跡の回復を望めるのか。それともゲーム性能とは結びつかないことの多い、世界観補強のためのフレーバーテキストが物を言うのか。
そういう検証は一切やってこなかったけど、いざ確かめる気になったら楽しみだと思えるのは転生者の性ってものなのかね。
そんなこんなで門番のモンブ君のお家にて歓迎され、和気藹々と一泊を果たした後。
水と食料の補給も完了し、エルフへの忌避感も少し和らぐほど寛かせてもらってから、改めてロマンシアへ向かうべく森を発とうとしたのだが。
「さて人族よ。抵抗は認めない、ご同行願おうか」
モンブ君の家を出てすぐ、衛兵っぽいエルフ共に囲まれてしまいましたとさ。ちゃんちゃん。
……いや終われねえよ。俺何もやってねえもん。いくら何でも冤罪はちょっとクソすぎるわ。
しかもこいつらが胸に付けているエンブレム。
どこかで見覚えがあると思ったら森の番人、女王の近衛兵じゃねえか。このまま大人しく連行されたら幽閉から処刑まで有り得るやつだぞこれ。
意外と助け船でも出して貰えるかなと、ついモング君の方を見てしまったが結果はお察し。
ただまあ申し訳なさそうに目を背けてしまう彼を見るに、進んで俺を売ったわけでもなさそうだから責める気にはなれないかな。
……ふがいないのは俺だ。初めてGHらしい名所を前にして気でも緩んだかよ。
ともかくここでの抵抗は無謀。逃走もこうまで囲まれてしまえば不可能だと、素直に両手を挙げて降伏の意を示すしかない。所謂詰みってやつだ。
GHでも戦闘する機会のあるからこそ、断言出来ないものの分かってしまう。
一見よくいるモブ兵士に見えなくもないが、こいつら一人一人がブルーベアンドより強い手練れなはずだ。
ゲームだったら相手の行動パターンが決まってるから腕次第で覆せるけど、残念ながらここはデータではなく現実、どう頑張っても勝ち目はないと諦めるしかない。
あーあー、これで二度目の人生終わりかぁ。
せっかくやる気になれたってのに、こんな所でゲームオーバーとかあまりにも俺らしい末路だなぁ。
……まあ冗談は置いておいて。いや、このままいけば冗談が現実になっちまうけど。
ところで、そこの近衛の中でも偉そうなエルフさんや。
しがないトレジャーハンターこと俺が一つ質問したいのですが、これから何処へ連れて行かれるというのでしょうか?
「口を開くな人族。貴様は黙って付いてくればいい」
あ、はい。さーせん。…………死ね、このヤリチンもどきなキノコヘアーエルフが。
「……何か言ったか?」
いえ何もー? ピューヒュルルー。くーちぶえー。
訝しげに俺を見てくるも、鼻息を立てて前を向き直すキノコエルフ。
しかし如何にも特別感あるキノコヘアーのエルフ……確かいたな、GHにもこんなキノコヘアーのやつが。
……しっかし改めて考えると、なんでエルフでキノコヘアーなんだろうな?
正直笑っちゃうほど似合ってないんだけど、ダサいって言ってくれる友達いないのかな? それとも世界の修正力的なあれでキノコヘアーを強いられてるのかな。もし後者ならお気の毒様だ。
同族であろうキノコエルフに共感と哀れみを抱きつつ、どうせ連行されている間は暇だし、せっかくなので改めてこの森の中を見渡してみようじゃないか。
ゲームより遙かに迫力のありながらもドキドキするような神秘性を、無駄にでかい木に囲まれたツリーハウスの集落。
森の中に生きることを至上としたエルフにふさわしい住処。まあGHでのこいつらは草や果実だけじゃなくて平気で肉も食べるタイプだけどね。
そうしてぼけーっと観光気分で森を歩いていると、やがて見えてきたのはロープウェイとそれを止めている駅のような場所。
あれ、あそこってまさか王城へ続くあのクソ長ロープウェイ……やべっ、まじか。
見覚えのありすぎる場所に、この期に及んですら楽観視していた脳がいよいよ覚醒してしまう。
GHを嗜んでいた者で、このロープウェイを知らない者はいないだろう。
ロメルの森と王城を繋ぐロープウェイ。その通称、四十六秒のクソ長ロードロード。
基本良ゲーと言われるGHだが、世界観を守ろうとスタッフが全力を注いだからか、ゲームとしてはコアなファンでさえ擁護できないクソ要素がいくつも存在する。
そのうちの一つはいくつかの場所に異動する際、必ず発生してしまうロードである。
もちろんそこもこだわっており、ロード画面に遊び心を持たせてプレイヤーを飽きさせないための工夫はしているのだが、残念ながらそれでも誤魔化しきれない長さがある。
このロープウェイはそのうちの一つ。
通る度に四十六秒の消費を強制されるくせに、メインとサブ含めて何度も訪れることになるGHでも断トツにクソと呼ばれる場所だ。
もちろん、所要時間だけでここまで言われているわけじゃない。
ここがそんな不名誉な場所扱いされている理由の大元は、向かう先にあったりするのだ。
しかしやっぱすげー景色だなぁ。
神秘的な大樹ばかりな森の葉を掻き分けながら進み、やがてはこの国の中心たる王城へ。
画面の中でしかなかったプレイ当時はすごいなで済むけど、現実にに変わるとこうも目を奪われるんだから絶景ってのは素晴らしいものだ。
……しかし現実になると長いなぁ。
ゲームでは四十六秒だったが、現実ではもう十分以上かかってもまだ上に出ない。一緒に乗ってるエルフ達は一言も喋ってくれないし、こんな空気じゃ気まずさで堪能出来ないよぉ。
そんな満喫しきれない気持ちのまま、それでも窓の外から目を離せずにしばらく経つ。
ついに緑の天井を抜け、目に入るのは、雲に並ぶほどの背丈である大樹の中でも抜きん出た一本の樹。
幻想大樹。
GHでも屈指とされる人気スポット。すべてのエルフの頂点に立つとされている女王のおわす居城である。
「おい人族。なにをしている、早く降りろ」
幻想大樹の迫力に固まってしまっていると、いつの間にかロープウェイは停止しており、キノコエルフが早く出ろと槍で突いてくるがどうでもいい。
こんなにも心がぴょんぴょんしてしまっているのだから、頼まれなくたって降りてやるとも。むしろ降ろさせて下さいって土下座したいくらいですよ。
だってよぉ、あの幻想大樹が目の前にあるんだぜ!? それもゲーム以上の迫力でさぁ!!
全国のグラホラーにとって聖地!! それを目の前にして俺が浮かれなくて誰が浮かれてやればいいんだよ!?
……本当ならロマンシアで迎えるべき感動だったんだが、まあこれはこれで乙なもの。
興味はあっても用はなく、招かれることもないから縁もないだろうと思っていた場所に来られたのだ。
ゲームみたいにフォトモードが欲しいなぁ。バシャバシャと写真撮って宝物にしたいなぁ。
どうして俺にはチートがご用意されていないのだろう。チート系じゃない転生者って世知辛いもんだよなぁ。
持たざる者である自分に落胆しつつ、キノコの案内で幻想大樹の中へ。
あ、あの無駄にでかい初代女王の肖像画!
玉座に座る女王の命が尽きぬ限り火を灯し続ける黄金の燭台!
ゲームでも正規プレイでは開くことの出来ない、初代女王の黒歴史ノートの入った宝箱!
すげえすげえ! どれも本物じゃん!
前世では人気コンテンツだとよくあった、テーマパークとの再現コラボでもお目にかかれないくらいの出来じゃん! まあ本物だから当然か!
ねーキノコぉ?
一時間くらい自由行動にしない? あの部屋とかあの部屋とか……探索しちゃ駄目かな?
どうせ集合は謁見の間だろ? 時間までには合流するからさ、お願いだから自由時間くーれーよー?
「馬鹿なことを言うな。謁見前に殺されたいのか?」
何て冷たく鋭い目なんでしょう。目つきだけで俺を刺し殺してきそうなほどで泣いちゃいそう。
まあ言ってみただけよ。お堅そうなキノコに職務放棄されたら逆に困惑するわ。
まあ生殺与奪はあっちが握っているのだし、これ以上ふざけるのは自嘲してやろう。
別に見学ツアーなんて企画せずとも歩いてるだけでも楽しいからな。これ以上を求めるのは野暮ってもんかね。
しかし謁見、謁見と来たか。
となれば今から会わされるのはエルフの女王、あのローゼリア・リタリス・コングラシアなのかな。
GH人気ランキング第十位。
金の髪につるぺったんな胸、幼女ボイスでお馴染みなあの声優と詰め込まれた子供体型。
そして性能においても魔法系最強と名高い、制作スタッフが二物どころか十物くらい与えたであろうあの少女。
……あれ、でも確かローゼリアって本編だと十五、主人公と同い年じゃなかったっけ?
少し幼かったニャルナから考えるに、メインシナリオがあるとしても開始前なのは確かなはず。
この世界の成人は十五歳だから本編では大丈夫だったけど、それより前なら……。
……ま、いいや! どうせ俺には関係ないし、面倒い考察はなしでいこう!
そもそも興味がなさ過ぎて、エルフ関連の細かいことはほとんど覚えてないから考えても無駄。
それより今は、せっかく中には入れた幻想大樹を全力で堪能するべき!
あ、でっかい螺旋階段! あったあったこんなんも! 螺旋ベッドダイブとかいうネタに全振りしたバグ技もあったよなぁ! 懐かしい!
さっさと思考を放棄し、浮かれポンチ全開で城を見回しながら、キノコの後に続いていく。
階段を上り、ややこしすぎる構造の城を進んでいくと、ついに見覚えのある場所まで到着した。
重く厚い、装飾こそないものの厳かな木の扉。
概算だが、大きさは平均的な人族の大人二人分ほどだろうか。
だが扉の大きさ以上に、ここから先は更なる特別であるのが一目瞭然な迫力に、思わずごくりと唾を呑んでしまう。
……この先が、あの謁見の間。
GHでもエルフの女王が君臨した、えらく雰囲気のあった部屋の入り口か。
「くれぐれも無礼を働くなよ。少しでも長く生きていたければな」
うるさいわい。そう望むのなら道すがら、謁見時の作法くらいは教えてほしいものだよ。
誰の手も借りずに開いていく扉の前で、大きく息を吸い、吸った以上に吐いて己を整える。
心臓が弾けそうなくらいバクバクだが、まあ気楽に行くとしよう。
元より作法なんてさの字も知らないんだから、今更取り繕ったって無駄でしかない。
大丈夫。もし最悪の状況になっても、いの一番に謁見の間から出ればワンチャンくらいはあるはず。
正面突破とか無理だし、ゲームの中だけだったら詰みだが賭けるしかない。要は行き当たりばったりだ。
キノコエルフに続き、謁見の前へと足を踏み入れる。
呼吸を一回するだけで緊張を実感出来てしまうほど、厳かで神聖な空気。
汚れ一つすらない、玉座まで一直線に敷かれた深紅の絨毯。
天井に開いた穴から零れ出し、謁見の間を優しく照らす木漏れ日。
そして中央に置かれた木製の玉座に座る金色髪の美しきエルフと、玉座の奥に飾られた一本の枝。
これぞまさしくの幻想大樹の最奥、謁見の間。
初見の際、感動と畏怖の両方を突きつけてきた、俺がGH沼に更に深く嵌まったきっかけの一つだった。
「王の御前である。人族。膝を突き、頭を垂れて平伏せ──」
「ならん」
たった一言。
息を吐くような静けさで、頬杖を突きながら女王の一言で、謁見の間は尋常ならざる緊張に包まれる。
美しく、けれど恐ろしいほど力ある女王の声。
頭を下げたい。膝を突いてしまいたい。今すぐにでも、この場から逃げ出したい。
楽になれる手段はいくらでも思いつくのに、そうするために体が動こうとしてくれない。動けば命はないと、全身に警鐘が鳴り響いてしまっている。
これがエルフの女王。前世にはいなかった、本物の王の威光。
ローゼリアのように幼き身で国を任されたわけではない、長きに渡り人の上に君臨し束ねる者か。
「マッシュ。国の恩人へ平伏を強制させるとは、貴様は我に恥を塗りつけたいのか?」
「そ、そのようなことは! どうかお許しを、女王様!」
「なれば去れ。此度は我と、恩人たる人族のみの語らいだ」
あれほど尊大な態度だったキノコエルフが、縮こまり、一目散に謁見の間から去っていく。
正直ちょっと羨ましい。ここにいるだけで心臓が一生分跳ねちゃいそうだし、我も一緒に帰りたい。
どうすることも出来ず、その場に固まってしまう俺を見下ろしてくる女王様。
下から上へ。俺の全てをくまなく舐るようにじっくりと、いつまでも。
「……ふむ。中々どうして、そそられる色の魂だ」
そうして女王様は玉座から腰を上げ、ゆっくりと段差を降りて俺の下へと歩いてくる。
女王様が同じ高さに立ったことで、ようやくまともに姿を目にすることが出来る。
後ろでまとめた、黄金を変えたかのような艶やかな髪。
翡翠の瞳に泣きぼくろ。豊満で嫋やかな胸部。扇情的な腰回りに、すらりとした長い手足。
全ての人間に性欲を植え付けるであろう、そんな極上のエロボディを隠すのは透き通る翡翠の撃薄ドレスのみ。
自らに絶対の自信を持つ、エロというエロを詰めたと言っても過言ではないほどの美女がそこにはいた。
エッッ!! エッッッッロ……!!
何この女!? 何その格好!? エルフの女王ってのは痴女か何かかよッ!?
いかにエルフ嫌いな俺でも、これは男として唸らずを得ないほど圧倒的なボン・キュ・ボン!
こんなの歩くハニートラップだよ。見てたら勃っちゃう、勃ったら不敬、不敬で処刑の確定三コンボだよ。俺死んだわ。
「ふふっ、滾るほどの熱さを向けるでない。あまりに素直すぎて、今すぐにでも愛でてしまいたくなる」
「え、は、はい、どうも……?」
呆然としていた俺の眼前まで寄ってきた女王様は、女神とばかりに優しく微笑みながら、その美しい手で俺の頭を撫でてくる。
先ほどまでの緊張などどこへやら。
頭を、頬を、首元を撫でる女王様の手に恐怖など抱かず。むしろひんやりとした冷たさで、体温の上がった体には気持ちいいとすら思えるほど。
……え、何のご褒美ですか? もしかして俺、今人生全ての幸運を使い切ってる感じですか?
「此度の礼の前に、まずは名乗り合うとしよう。其方の名はなんだ?」
何分、何秒、そうしてもらっていたか。
女王様はゆっくりと手を放しながら、微笑みを崩すことなく俺に名を尋ねてくる。
もう少しされたかったなぁ。……ああ、はい! 俺はシークと申します!
特別な力も隠し名もない自称トレジャーハンター、他称無職で村人Cでお馴染みなシークです! 宜しくお願いします!
「トレジャーハンター? ふふっ、それはまた夢見がちな……まあよい。しかしシーク、か。実に耳障りのいい、余好みの名だ。シーク、シーク……ふふっ」
しどろもどろになりながら、途中でやり直したいと思えるほど恥ずかしくなりながらも、間違いなく今までで一番下手くそであろう自己紹介をやり遂げる。
そんな黒歴史でしかない自己紹介にもかかわらず、女王様はお気に召したと微笑んでくれる。
今日ほどシークという名前でよかったと思った日はないね。心の底からありがとうだよ、今世の母よ。
「ではシーク、心して拝聴するがいい。我が名はシヨルル。ロメルの森の七代目女王、シヨルル・リタリス・コングラシアである。親しみを込めて、シヨちゃんとでも呼ぶがいい」
ほーん。シヨルル・リタリス・コングラシアねえ。それは実に素敵なお名前ですね。
……んいや誰ぇ!? そんな名前、ゲームでも聞いたことないんだけどぉ!?