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頑張ってね、俺は観るだけ

 かくして俺と猫姉弟の二人による、目に物に見せてやろう同盟の足掻きは始まった。 

 とはいっても、勝算もなく根性論全開の熱血トレーニングなんてする気はない。

 「修行中は家出ニャ!」と、頑なに家に帰ろうとしなかったニャニャと共にシガナシの家に夜を明かした後、俺達は里を離れてネコランマ梺の門へと訪れていた。


「それで私の下へ訪れるとは。さてはシーク君、中々というか相当に強かですねニャナ?」


 そう言わんといてーな、ニャナナはん。

 ほらこれ、ネコ里特製ネコまんまボールやけん、どうか懐に収めたってや。堪忍なあ?


「……仕方ありません。立ち話もなんですのでお入りくださいニャナ」

 

 賄賂のせいか、それとも若者の頼みを無碍に出来なかっただけか。

 いずれにしても、小さくため息を吐きながらひとまず中に入れてくれたニャナナに感謝しつつ、門の中へと進んでいく。


「……わたし、シークが特訓してくれると思ってたんだけどニャ?」


 何言ってんの? お前にすら勝てない俺が何かを教えられるわけないじゃん。

 俺は特訓に付き合ってやると言っただけで、直接お前を強くしてやるとは一言も言ってない。だからそっちが勝手に勘違いしただけですー。


 それにこの人、当たり前だけどむっちゃ強いんだぜ?

 この前は俺がざこざこざーこ過ぎて見せてくれなかったけど、猫闘術(キャットアーツ)の七秘奥とかいう強力な敵専用技の一つを持つ、猫の民の中でも強者なんだからさ。


「小賢しいニャ。……なによ、脳筋のくせに」


 より良い方法を提示してやったというのに、ニャニャは露骨に不満げにそっぷ向いてきやがる。

 何が不満なんだか。コーチ見繕っただけ感謝して欲しいもんだよな、まったくもう。


「ふふっ、仲が良いですねニャナ。他種族との交流は互いにとって良き刺激となりますニャナ。……もっとも、あの娘にとっては枷でしかなかったかもしれませんがねニャナ」

 

 俺達を見たニャナナはくすくすと、何かを思い出すように小さく笑いながら振り向いてくる。


「ではニャニャさん。まずお尋ねしますが、貴女は自分に足りないものは何だと思いますニャナ?」

「えっと、鍛練の量? 才能……?」

「違いますニャナ。身体能力で言えば他者に劣っておらず、むしろ優れてさえいると一目で察せられますニャナ。それでも落ちこぼれと呼ばれてしまう所以、何が足りないかは……そうですね、一つ実践してみましょうニャナ」


 ニャナナはそう言うと、ニャニャだけに手招きして自身のそばへと呼びつける。


 一体何するつもりで……え、まさか俺をサンドバッグにして、タコ殴り実践するおつもりで……?


「今から私とニャニャさんで同じ技を披露します。シーク君はそれを見て、思ったままの感想を言っていただければ十分ですニャナ」


 そう言って軽やかに、後ろ一歩分ほど跳んだニャナナ。

 ニャニャは戸惑いをみせるもやると決めたのか、大きく息を吸いた後に吐いてから技を放つ。


 猫闘術(キャットアーツ)、二足払い。

 姿勢を低くし、尾または足をしならせて二足同時に払い転ばせる、猫闘術(キャットアーツ)の中でも基礎技の一つ。GH(グラホラ)でも当たれば確定で転倒させられる、絵面は地味だが汎用性の高い技だ。


 試練の際に俺がニャニャから食らい、理解すら追いつかずにこかされた技。

 外から見ているせいか、それとも使い手の故か。どちらにせよ、ニャニャの二足払いははっきりと視認することが出来た。

 

「……なるほど、そういうことですかニャナ。では、次は私の番ですねニャナ」


 次は自分の番だと。

 何か納得したように頷いたニャナナは、ニャニャと交代するよう一歩前に出て、静かに一呼吸置き──次の瞬間、彼の姿がブれる。


 ……速っ。ニャニャには悪いけど、同じ動きとは思えないくらい根本から違うや。


「さてシーク君。見比べてみて、どう思いましたか?」


 まあ求められたんで本当に正直に言いますけど、全てが雲泥の差でしたね。

 でもぶっちゃけ能力差を考えたら、同じ技でも速度や力に差があるのは当然のことでは?


「実は今のは同じ速さ、力加減に調整したものですニャナ。ですがこうも見え方が異なる……ニャニャさん、この意味が分かりますかニャナ?」


 思ったままを言ってみると、満足気に頷きながら否定してくるニャナナ。

 まるで教師のような口振りのニャナナに尋ねられたニャニャは、少し考えた後、分からないと静かに首を横に振る。


「正直でよろしいですニャナ。私とニャニャさんが放った同じ技。その違いはずばり、冴えですニャナ」


 答えられずに俯きかけたニャニャ。

 だがニャナナはそんな少女を咎めることなく、優しい声色で、たった一言と簡潔に答えを提示した。

  

「どんなものであれ、動きというのはただ力強ければ、速ければいいというわけではありませんニャナ。冴え、キレ、淀みなさ。全てに意味と価値があり、故に一つ異なれば根本から別物になってしまいますニャナ」


 そうしておもむろに、武について語り始めるニャナナ。

 何か難しそうな話だと思いながらも、真剣なニャニャに悪いので一緒に傾聴ことにする。


 それにしても、冴えだのキレだの言われると、前世のスポーツである野球を思い出す。

 まあ俺は野球でもサッカーでもなく、隅っこで空気になる派だったけどね。出来ないとは言わないが、体育まで本腰入れてくる部活勢が怖くて仕方なかったよ。


「武術は大仰な括りで飾られていますが、本質は動きの重ね、所作でしかありませんニャナ。どれほど才能がなくとも、積み重ねさえすれば一定水準には必ず至れる型のある動き。言ってしまえば言葉や歩行、日常で当たり前に行う数多と同じなのですニャナ」


 ほーん、想像以上にしっかりしとんなぁ。

 ゲームだとその辺スキルツリーポチーだからなぁ。そういうの考えた事なかったわ。


「じゃ、じゃあわたしは、才能以前の問題ニャ……?」

「そう悲観することはありませんニャナ。ニャニャさんが持つ粗さ。今はまだ欠点でしかありませんが、極めればむしろ長所になるかもしれないものですニャナ」


 悲観しそうになるニャニャに、ニャナナは微笑みながら首を横へと振る。


「例えば私や里の手練れが貴女を真似ようとしても、見かけだけの半端な粗さにしかなりませんニャナ。幼い頃から日常の中でさえ猫闘術(キャットアーツ)を育む猫の民。誰しもが成人を迎える頃には粗さは削り取られ、洗練された型が大きく崩れることを許してくれませんニャナ。貴女のように鍛練を積みながらも粗さを滲ませたまま、というのは非常に稀なのですニャナ」


 あーなるほど? 分かるようで分からないような……どういうこと?


「もちろん粗いだけで技にすら至れていないというのであれば、それはただの欠点でしかないですニャナ。ですが貴女は違いますニャナ。先の話に倣うのであれば一定水準には達成した状態、にもかかわらず粗さを損なっていない。猫の民としては摘むべき悪癖でしかありませんが、一闘者としては誇るべき才能の片鱗ですニャナ」


 へー。


「もしも貴女が粗さを失わぬまま冴えを手に入れ、自在に操れるようになれば……或いはあのニャルナにさえ並ぶかもしれませんニャナ」

「……っ!!」


 ほとんど理解した気で聞き流していると、急に知った名が出てきたので心臓が驚いてしまう。

 ニャルナの名を聞いて、俺よりも驚きを露わにしたニャニャ。

 拳を握り、尻尾を僅かに揺らしながら、何かを決意したと目に強い意志を宿らせる。

 

 ……どうしてそこでニャルナの名前が出てくるんだろうか。


 この里に着いてから改めて実感したが、俺がGH(グラホラ)キャラについて知ってることなんてそこまでないんだな。

 あくまで俺が知っているのはゲームに出てきた範囲、興味ある部分だけな歯抜けで当てにしていけない情報。

 こんなことならエンジョイで終わらせず、もっとガチガチのガチ勢として沼に浸かるべきだったか。まったく、前世の俺ってのはとことん半端で空虚なカスだったよ。


「私も歳でしょうかね、面白い逸材を前に少し疼いてしまいましたニャナ。どうですニャニャさん? もしも貴女が望むのなら、一月の間、私が本気で指導しても構いませんが……いかがしますかニャナ?」

「お願いしますニャ! わたしを強くしてくださいニャ、ニャナナ先生!」


 俺が自虐もとい前世虐を心の中でやっていると、いつの間にか話は纏まっていたようで。

 頭を下げるニャニャにニャナナは笑顔で頷いて、すっかり二人の師弟関係が誕生していた。


「では早速、今日は軽めの手合わせを百本ほどしましょうニャナ。シーク君、貴方は観ていてくださいニャナ。しっかりと、集中して、目を離さず。……この意味、貴方なら分かりますねニャナ?」


 勝手に盛り上がる二人を遠目に頷きながら、同時にちょっぴり疎外感も抱きつつ。

 やることがなくなった俺は何しようかなと思っていると、ニャナナはそんな俺に視線を向けて指示を出してくる。


 見てるだけ。ニャナナは俺なら分かると思っているらしいけど、正直まったく分からない。

 まあこの人は信頼できるし、大人しく従っておけば損はないだろう。

 それに付き合ってやるって約束しちゃったからな。何もしてはやれないけど、近くで応援くらいはしてやるのが筋ってもんだろう。


「では始めましょうニャナ。言っておきますが、私は少し厳しいですからねニャナ?」

「お、お願いしますニャ! ニャナナ先生!」


 武舞台を降りて、修行を始めた二人を眺めながら、ちょうど良さそうな石を見つけたので腰掛ける。

 うーん、それにしても尻がちべたい。尻に毛なんて無いんだし、これじゃ風邪引いちまう。

 出来れば俺も体を動かしたいんだが、本当に見てないと駄目……駄目か、しゃーないな。辛いわ。

読んでくださった方へ。

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