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嘘みたいなバカみたいな語尾ばかりな里

 ダンディボイスの猫の民、シガナシの懇意に甘えて泊めてもらって早数日。

 ご機嫌に相棒をブンブン出来るくらい復活した俺はリハビリがてら、数泊分の恩を返すべく、彼や猫姉弟の日常を色々と手伝っていた。


「行ったニャ! 思いっきりかっとばすニャ、シーク!」


 それでただ今、ニャニャとニャタロウの猫姉弟と共に狩り真っ只中。

 相手は白い猪ことホワイトチャボア。北の栄養源ともされる、チャボア種の中でも中々強い部類の獣だ。


 北は一部を除き、大体全土で雪の積る白い大地。

 過酷な環境故、当然獣も住人も強く生きている。暑かったり寒かったする場所はゲームでも中盤~終盤が常、故に弱くないわけがない。


 だが問題なんて皆無。

 復活を果たした今の俺の肩慣らしにはいい相手。その上二人にご丁寧に構えている場所に誘導してもらってるんだから、これで負けるなんて弱音吐く方が難しいだろうよ。


 気分はバット一本で世界を取るメジャーリーガー。

 迫る特大ストレートに握りを強め、気合いを込めて……打った、多きく伸びる伸びる……ホームラン、ゲームセットォ!!


「ナイスニャ! 流石は脳筋シーク、獣狩りには抜群ニャ!」

「ないすにゃ。流石はパワー馬鹿にゃ」


 ホワイトチャボアが空を舞い、ドシンと大きな音を立てて墜落し戦闘不能。

 勝利とばかりに駆け寄ってきた二人とパチンとハイタッチを交わすが、こいつら強すぎて手がヒリヒリしちゃう。


 しかし勢いよくハイタッチしておいて何だけど、それで褒めてるつもりなのかね猫諸君?

 脳筋だのパワー馬鹿だの、人を二足の猪としか思ってないんじゃないか、まったく。

 

「パワーとスピードは恐ろしいのに動きはてんで素人。どういう生き方したらそうなるにゃ?」


 この相棒で木を切って、たまに獣を狩って、木を切っての繰り返し的な?


「ま、猫闘術(キャットアーツ)と共に育つ我ら猫の民に脳筋が敵うわけないのは当然ニャ! 恥じることないニャ! ニャーッハッハ!」


 心の底から悔しいけど、実際こいつらの言うことが正しいのは事実。

 この前リハビリがてらに手合わせしてみたら、一発も当てられずにボロ負けしたもん。強すぎニャ。

 

 ……対人戦、昔から苦手なんだよなぁ。

 あの独特の睨み合いと重ね合いの連続。対獣とはまるで異なるそれは、体感的には本能アクションよりも思考のパズルを刹那で延々とやらされている感じに近い。墓守プルーフとのときみたいに既にパターンを組んだ後ならやれなくもないが、初見の手練れとやると露骨に駄目になってしまう。

 

 今世の母が元気だった頃に軽く指南されもしたが、たった数日で才能なしと呆れられてしまった程だ。

 それでも村を出る気がなかったから改善せずに今日まで生きてきたが、こうして必要な局面を迎えれば嫌が応にも突きつけられてしまう。泣けるね。


 それに相手は猫の民。

 ニャニャも言う猫闘術(キャットアーツ)──猫の民が脈々と受け継ぐ武術を、里に住む全員が日常レベルにまで染みこませている、まさしく武と共に生きる種族だ。


 移動。構え。呼吸。

 洗練された一挙手一投足は、人族(ヒューマン)よりも優れた身体能力も相まって非常に脅威。

 ちょっと腕に自信があるだけの人族(ヒューマン)が相手であれば、子供でさえ土を付けられるほどと言ったら大体伝わるだろうか。誰にだ。


「ニャーッハッハ! さあ凱旋ニャ! また大人共の驚く顔が目に浮かぶニャ!」


 俺が猪を引き摺り、ニャニャが声高々に叫び、ニャタロウがやれやれと首を振る。

 数日で仲良くなった二人と駄弁りながら、のんびりと里へ帰還する。

 

 ネコ里。

 木造の家を主とした里は詰まっており、雪の地である北ながら温かく活気に満ちた里だ。

 右を見ても左を見ても猫の民。猫、ネコ、ねこ、猫カフェ顔負けのニャンニャンパラダイス。猫アレルギーには地獄、猫吸いたい系にとっては天国すぎて逆に地獄。俺にとっては普通の里でしかないけどね。


「おおニャニャにニャタロウ、今日は一段と大きいのを狩ってきたニャア」

「流石は里長(さとおさ)の娘ニャイ。次の猫演舞(キャッツダンス)、期待出来そうだニャイ」

人族(ヒューマン)の坊ちゃんもパワフルニャナ。今度手合わせしてくれよニャナ、な?」


 道すがら、気さくに声を掛けてくる住民達に挨拶しながら里を歩いていく。


 大体みんな良い人だし、名物猫鍋含め食事も美味しいし、ハンモックは寝心地良い。

 難点と言えば毛玉が多いことと北だから寒いこと、それと十人十色とも言えるほど個性的な語尾を付けるので、たまに零れそうになる笑いを堪えなければならない所くらいか。結構あるな。

 まあどっかの森の、囲んで連行して城に軟禁してくるエルフ共に比べたら誤差レベル。諸々加点要素はあったけど、エルフはやっぱりエルフなんだ。


猫演舞(キャッツダンス)、ニャ……」


 しかし良きな気持ちを抱いている俺とは対照的に、さっきまでの元気は何処へやら。


 なあなあニャタロウ。どうしてニャニャは少しテンション落としてるんだい?


「お姉ちゃんな、あれで結構繊細なんにゃ。次の猫演舞(キャッツダンス)里長(さとおさ)の娘だからってえらく期待されてるんだにゃ」

「う、うるさいニャ! わたしは恐れてなんかないニャ! む、武者震いってやつニャ!」


 ニャタロウがそう言えば、ニャニャは図星と教えてくれるように声を荒げてくれる。


 しかし猫演舞(キャッツダンス)、ねえ。

 確か一年に一度だけ開かれる、村の長を決めるために有志一同で行われる戦いの儀式だったはず。


 エルフの女王様の病だったり、何かとイベントが重なるとは思ったがここでもとは。宝探しがしたいだけなのに、面倒臭いこと極まりないなぁ。


「グニャーニャニャ! 誰がチャボアを狩ったと思えば長の孫、ニャニャ様じゃないかグニャ」


 ズシンズシンと、猫には合わない足音で近づいてくる人影。

 実に低い、最早個性を通り越して悪ふざけの領域であるダミ声と共に現れたのは紺色毛の猫の民であった。


 十歳ボディな俺より大きく、丸く、やはりでかい、ふくよかな成人男性くらいはあろう猫。

 まるで猫の王様。飼い主に散々甘やかされた結果、それはもうふくよかになった飼い猫のそれとしか思えない猫の民だが、俺はこいつの声と語尾と容姿に思い当たりがある。

 

 こいつは恐らくグニャーラ・ジッハ。

 GH(グラホラ)においてこのネコ里の長であり、こんなナリでも仲間キャラでもあった男だ。


「……グニャーラ、何の用ニャ! わたしはお前の相手なんてする時間ないニャ!」

「グニャニャニャ! 相変わらず威勢だけは一流グニャ。弱い猫ほど健気に鳴く、まさにその通りグニャ」


 サイズ差を物ともせずに食ってかかるニャニャだが、グニャーラは憎たらしいにやけ面で見下すのみ。

 傍から見れば少女をいじめる歳上の三下だが、これで十五の同い年なのだから恐れ入る。

 

 ……しかしGH(グラホラ)プレイ中も思ったが、実物を見るとあれだ、噛ませ臭全開だな。

 

 こんなんでも、人気ランキングでは意外と順位高かったんだよなこいつ。

 ぱっと見でっかい猫だし、言動の割に意外と卑怯なことはしなかったり、デレ出したり個別ルート入ったら模範的ツンデレだったりであざとい要素満載でギャップがある。少なくとも種族単位で高慢ちきなエルフよりか遙かにマシ、全然俺も嫌いじゃなかった。

  

「まあ次の猫演舞(キャッツダンス)で『ジッハ』を得て、新たな里の長になるのは俺様グニャ。その日その時まで、小佐野精々でかい顔してるといいグニャ。グニャーニャニャ!」


 言いたいことだけ言い終えて、高らかに笑い声を上げながらグニャーラは去っていく。

 ああそうなんだ。一応過去だしまだジッハを得ていない、ただのグニャーラな頃なんだ。


「……くそニャ」

「お姉ちゃん、元気出してにゃ。お姉ちゃんの方が弱いのは事実にゃ」

「うるさいニャ! ニャタロウはいちいち口が悪すぎ、もっと労れニャ!」


 割と本気で悔しがっているニャニャ。

 そんな姉に対し、非情なニャタロウがわざわざ追い打ちかました結果、無事ニャニャに抱きつかれ頭グリグリの刑に処されてしまう。


 うーん仲睦まじいねこの姉弟。弟の方がまじで嫌そうな顔してるのがますます姉弟っぽくていい。

 しかしこのニャニャが雑魚猫扱いとは。

 恐るべしネコ里。ニャニャにすら叩きのめされた俺って一体何なんだろうにゃあ……。


「元気だすにゃ。シークは確かにお姉ちゃんにこかされる程度の脳筋だけど、脳筋には脳筋の良さがあるにゃ」


 フォローありがとうニャタロウよ。

 だが忘れてないかニャタロウよ。俺の方が一つ歳上だぞ、わざわざ姉の腕をすり抜けて、肉球で頭ぽんぽんしに来るでないわ。


「ンニャー! こうなりゃ更に特訓ニャ! 次の猫演舞(キャッツダンス)、絶対負けられないニャー!」

「げぼっ、お姉ちゃん、首根っこ掴むなにゃ……」

「いーくーニャー!」


 弟の首根っこを掴み、帰ってきたばかりだというのに里外へと駆け出していくニャニャ。

 実に元気で微笑ましいね君達。子供らしくて良いと思うよ、そういうの。


 けれど取り残された俺はどうすればいいんだろう。

 まあいいや。とりあえず、この猪をシガナシの所まで運むとしましょうか。猪鍋、超楽しみ♡

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