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終わりよければすべて良しってね?

 というわけで。

 無事王女様へのアプローチを成功させ、穏便に森へと帰ってもらえることになりました。

 

 いえーい! シークくん大勝利ー!

 始まる前から不安山盛りだったし、色々なものを失った気がするけれど、それでもこの場は乗り切った! だから大勝利いえーい!

 

 ちょっと想定外だったのは、告白が随分とガッチガチになってしまったことか。 

 まあ恨まれるかもしれないが、大丈夫でしょう。

 王女様も今は本気にしているかもしれないが、聡明な彼女なら女王に即位する頃には気付くだろう。あの日の告白なんて、所詮は子供同士の口約束でしかなかったのだと。

 

 こういうのは男側は嫌というほど覚えているが、女側は成長と共に捨て去ってしまうもの。

 前世でもそうだったからね。幼馴染だと思っていたあの娘へ久しぶりに声を掛けたら、あっちは存在すら忘れていた苦い初恋……思い出すと泣きそうになっちゃうからここまでにしよう。うん。


 それに罪悪感こそあるものの、別に騙そうとしているわけではない。

 何か大仰な告白になってしまったが、要は強くなってから出直してきます。告白の返事はそのときまで保留にして、どうか森へと帰りお待ちください。……あ、俺のことなんて遠慮なく忘れてていいんだからね! としか言ってないからな。

 

 俺なんぞじゃ、どう逆立ちしようとエルフの女王の隣にあれる功績なんて積めるわけがなく。

 その上二度とロメルの森に来る気もないんだから、再会なんてあるわけがない。

 ある人族(ヒューマン)はエルフの王女様に恋をしましたが、凡人の短い一生では隣に立てるほどの大成などするはずもなく、告白の答えを受け取る機会など訪れませんでしたとさ……最低だな、俺って。


 申し訳ないとは思いつつも、俺のためなので決して譲ることはなく。

 心の中で手を合わせながら、来た道を戻り、ついに俺達は地上へと帰還を果たすことが出来た。


 夜の帳は失われ、鮮やかな朝焼けに、暗闇に慣れた俺の目は奪われそうになる。

 

 陽の光。吹く朝風。澄んだ空気。

 ああ、これこそ生還の快感。冒険を終えて生き残った勝者に贈られる、もう一つの宝か。


「本当に、本当に大丈夫ですか? 一度森へ帰り、ちゃんとした治療を受けた方が……」


 ああ、いいっていいって。

 ほら見て、ジャンプできるほどピンピンしてるからさ。


 いや本当は一回跳ぶ度に全身痛いけど、それを顔に出したら本当に森へ連行されかねない。

 そうなれば、今までの苦労は全部水の泡。俺は何のために、人としての道徳と尊厳を売り払ってまで、ロリへガチ告白とキスをしたのか分からなくなる。

 それを思えば、今更こんな虚勢の一つなんて屁のカッパ。今なら火の上でだって涼しい顔で……ごめん盛った、流石にそれは無理かも。

 

「……これ以上は野暮というもの。分かりました。このローゼリア、旅立つ夫の覚悟に口を挟みはしませんとも」


 俺の本音を見抜いているのか、そうでないのか。

 どちらにせよ王女様はぎゅっと口を閉じ、目を潤ませながらも俺の意を肯定してくれる。


 納得してくれたようで何より。

 しかし夫と呼ぶにはまだ五百歩くらいは早いんじゃねえかな? 

 ほら、これから俺なんぞより遙かに魅力的な男が森へ訪れるかもしれないよ? 具体的には今から五年以上後、『星の紋』を宿したエルフと他種族の架け橋となる人族(ヒューマン)がさ?


「……あの、あなた様。最後に一つ、わたくし(ローゼリア)めのお願いを聞いて欲しいのですが」


 ああうん、何かなハニー? 

 騙したつもりはないけれど、それでも後ろめたさはあるし、可能な限りは応じるつもりだよ?


「どうかわたくし(ローゼリア)に、あなたの名前と別れの握手をくださいませんか?」


 王女様は少し恥ずかしそうな上目遣いで、指を合わせてもじもじとしながらお願いしてくる。


 名前……ああ、そういや自己紹介なんてしてなかったね。

 俺はGH(グラホラ)やってるから知ってたし、王女様は女王様から聞いてるだろうから

 共に死闘を乗り越えて、その場限りとはいえ告白までした仲なのに、なんかちょっとおかしいや。


 ──申し遅れました。

 俺の名はシーク。気ままに流離うトレジャーハンターであり、あなたに恋した人族(ヒューマン)でございます。


 正面へ向き合い、気障ったらしくそれっぽい礼と共に名前を名乗り。

 それから利き手である左の手を差し出すと、王女様は柔らかな両の手でぎゅっと握りしめてくる。


「シーク、シーク。嗚呼、わたくし(ローゼリア)好みの素晴らしいお名前です……」


 王女様は手を握りながら、何度も何度も、噛み締め刻み込むかのように俺の名を繰り返す。

 

 ……こっちから放すのもあれだし、せめて満足いくまではこのままでいよう。

 

 そう思っていた矢先だった。

 微細ながら不思議な感覚が王女様の手から伝わり、そのまま全身を巡ったような感覚に陥ってしまう。

 

「あなた様にわたくし(ローゼリア)の祈りと精霊の加護を。どうかあなた様の旅路が、健やかであらんことを」


 お、おう……? まあ害するものでもなさそうだし、別に気にせんでもええか。

 

「──さて! それでは、わたくし(ローゼリア)はここでお暇させていただきます。……わたくし(ローゼリア)


 満足したのか手を放し、俺の頬へ軽く唇を落とした王女様。

 突然すぎる不意打ちに呆然としながら、無意識に唇の触れた頬を触ってしまう。

 そんな俺に王女様は、まるでいたずらが成功したと、そんな年相応の微笑みながら淡い緑の光に包まれていく。


緑の精よ(シルフィ)運びなさい(ファストラベル)


 王女様が唱え終え、淡い緑の光は強く輝いた直後に吹き抜ける突風。

 あまりの風に目を隠してしまい、収まったと同時に再び前へと向くも、既に王女様の姿はなかった。


 ……転移魔法使えたのかよぉ。確かにGH(グラホラ)にもあったけどさぁ……。


 目の前で起きた超現象の答えへすぐに辿り着くも、全身から力が抜け、その場にへたり込んでしまう。


 GH(グラホラ)にも存在した転移の魔法、風移動。

 緑系の上級魔法で、地上であればいつでも発動できるファストトラベル。ゲームプレイ中でも非常に重宝した魔法だが、そんなことはどうでもいい。

 転移魔法が使える。言い換えれば、王女様はその気になればいつでも帰れたということだ。

 

 どうやって穏便に帰ってもらおうとか。

 合意を得たとして、森の前のどこ辺まで送ればいいとか。

 もう朝だし、既に大事になってないかなとか。


 色々考えていた懸念の一切を薙ぎ払う、今宵のほとんどが徒労でしかなかったという圧倒的現実を突きつけてきやがった。


 だってそうだ。

 わざわざ森に帰って欲しいなんてお願いせずとも、朝になれば王女様は魔法で森へ帰れたのだから、一連のプランは壮大で滑稽な一人相撲だったわけだ。


 ……ほんと敵わねえなぁ。流石はチートエロリフ、ロメルの次の女王様だ。

 

 いくらエルフ嫌いな俺と言えど、流石に敬服せざるを得ない。

 尻もちを突きながら、青空を眺めつつ、今頃くすくすと笑っていそうな王女様を思い浮かべながら、乾いた笑いがこみ上げてしまう。

 

 ああちくしょう、前世でも未消化な、二十弱プラス十年ものな貞操だったのに。

 いくら美幼女といえど、まさか十歳のエルフに持っていかれるとはなぁ。人生ってのはわからんもんやわぁ。


 男の初キスなんて埃一つの価値すらないだろうに。

 それでも思いの外心にダメージを負ったのか、すぐに立ち上がる気にもなれず。

 気の抜けたまま呆けていると、ふと今日唯一の戦利品を思い出し、懐から取り出して眺める。


 翡翠女王(コングラシア)の涙。

 柔らかな朝の日差しで一際輝く、透き通る翡翠の宝。

 夢にまで見た百財宝(レジェンダリー)の一つが手にある充足は、二度の人生の仲で得たどの達成感よりも甘美でパンチの効いたもの。


 己の中のある、何でも満たされることのなかった空洞。

 その中へ一つ、確かな欠片(ピース)が埋め込まれたと、そう思えてしまうほどだった。

 

 ──これが俺の手にした、最初の百財宝(レジェンダリー)

 何も得ることなく死にながら、のうのうと二度目の生を送る俺が唯一持てる価値の証明。


 うへへ。うへへへへっ。……うへへへへへへっ。


 俺の宝。

 俺だけの宝。

 何も為せずに死んで生まれ変わった、愚かな俺の始まりの一歩。

 

 いつまで経とうが収まろうとしない、到底人に聞かせられない醜い浅ましく汚い笑い。

 けれど良いじゃない。所詮は俗物なのだから、こうしてげすな三下みたいに頬も口元も緩ませたってさ。


 だがまあしかし。

 ここは目的達成で迎えたエンディングの最中ではなく、所詮は小さな冒険の一区切りなれば。

 所詮旅はまだまだ序の序でしかなく。

 なればこそ。いつまでも──それこそ次に獣が襲ってくるまでの間、宝を見つめて歓喜に浸っているわけにもいくまいて。


 雫形の宝石をしまった直後、待っていたとばかりに存在を誇示してくる腹の虫。

 ……とりあえず、必要なのは朝飯と水だな。人の墓の上で死ぬのは流石にごめんだからね。


 どっこらせと立ち上がり、朝日を拝みながら、痛む体を無理矢理に解していく。


 さあて、次はどの宝を目指して進もっかな。

 

 南の楽園海岸に眠る砂の城、それを支え続ける黒い珊瑚か。

 このまま東の果てを目指して、伝説の白いカラスことホワイトクロウの羽根で拾いにいくか。

 或いはひとまずの第一目標、中央のロマンシアへの歩みを再開するのもいいかもしれない。

 

 進路は無限。選択肢は自由。全ては俺の決断次第。

 なにをしようと考えても心が弾む。──人生ってのがこんなに楽しくなるとは思いもしなかったよ。

 

 うーん、うーーん……おっ、じゃあこうしようっと。


 ふと湧いてきた思いつきは、まさに青天の霹靂と。

 俺の脳みそをそれはもう褒めちぎりながら、真っ黒なを相棒を手に取り、ゆっくりと地面へと立てて手を放す。

 

 そうして相棒が示してくれたのは、三日月形の湖の奥──北であろう方角。

 なるほどね、相棒は北をご所望かい。

 いいね北。寒いだろうけど欲しい宝はたくさん眠っているし、観光したい名所はいっぱいある。相棒らしいセンスの詰まったナイスチョイスだよ。


 進路は決まったと。

 相棒を拾い上げ、最後に暴いてしまった墓に会釈をしてから、ゆっくりと進み始める。


 最初の冒険は上々。けれど俺の人生を賭けた宝探しはまだまだ始まったばかり。

 

 待っていろGH(グラホラ)世界。待っていろ百財宝(レジェンダリー)

 メインシナリオやキャラの事情なんて考えず、俺は俺のために必ず手に入れてみせるからな。


 百の宝を追い求める生涯を掛けた宝探し、トレジャーハンター道はまだまだ始まったばかり。

 あえて言うとするならば、俺の冒険はここからだっ!! ……ってね?

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