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転生して十年経ちますが

 グランドホライゾン。

 そんな名前のアクションRPGゲームを俺は知っている。

 

 舞台はユトランディアと呼ばれる広大な世界。

 『星の紋』という特別を宿した主人公が『星』を完成させるために世界を巡り、共に旅する仲間を集め、紆余曲折の果てに一度は崩壊するも、なんやかんやで滅びの厄災を打ち破り世界を救う。そんな王道的、言い換えればありきたりなストーリーのゲームだ。

 

 ただ評価されているのは作り込みの方。売り物失格、なんて呼ばれることもあるくらい。

 魅力的なキャラデザに、予算度外視なCV(キャラクターボイス)

 世界観に噛み合ったパーフェクトな音楽の数々に、数多豊富なアクションが深めてくれる没入感。

 

 噂ではある金持ちの超天才が企画し、超天才の熱意に人生を捨ててもいいと集まった天才が、一切の加減なしで好き放題やった結果らしく。

 けれど作りきったことで満足したのか、宣伝が絶望的に下手だったり値段が馬鹿だったりと様々な悪因が重なり、売り上げは出来に反比例していると言っていいくらいには散々たる赤字で終わってしまったゲームだ。


 まあ、ゲームについては置いておくとして。

 何故いきなり好きだったゲームに思いを馳せているのかと言えば非常に単純。

 つい昨日、このGH(グラホラ)みたいな異世界に転生して十周年を超えたから、つい感傷に浸りたくなってしまった。それだけだ。

 

 残念ながら死んだ理由は覚えていないが、どうせ俺のことだ。

 趣味だったゲーム配信で二徹でもして寝坊し、バイト先へ走っていた最中に事故に遭ったとかそんな感じだろう。多分。

 

 まあ無価値でしかなかった男の、死んだ瞬間の詳細なんてどうでもいいことだ。


 元々内定なしのまま大学を卒業して、お先真っ暗だった現実からトンズラしたかった所。

 別に死んだって悲しむ人間なんていなかったし、むしろ一人分世界の空気が綺麗になる……ならないか、流石に自意識過剰だな。恥ずかしい。

 

 どうでもいい俺のことなんてとっとと隅にでも置いておけ。

 ここがGH(グラホラ)みたいな世界だと、そう思っている理由はそこそこ存在している。


 GH(グラホラ)内に出てきた道具や植物がそのまま存在したり。

 更には魔法や獣など、前世にはなかったファンタジーがそこらかしこに存在したりと色々だ。


 まあ違ったのなら、それならそれで構わない。

 所詮は今の所ってだけ。村の外に出れば赤が青だったくらいには全然違うかもしれないのだから、そうかもなで片付けるしかないわけだ。

 

 さて。

 転生なんて摩訶不思議な体験を経て、シークという名で新生した俺がなにをしているかと言えば、別に何もしているわけでもない。


 母がくれた激重な真っ黒棒で木を叩き割り。

 村の周りに出る、GH(グラホラ)でも見覚えのある獣を狩り。

 たまに村へ訪れる行商人から、村では手に入らない物や母の薬を補充するだけ。


 それだけの日々。

 それしかない日々。

 それ以外する気にならない日々。


 まともな娯楽のごの文字もない、つまらない日々が続くだけ。

 

 自分で言うのもあれだが仕方ないと思う。

 何せこちとら生きる希望なんてなかった身、二度目の生なんて欠片も望んでいなかった。

 そんなメンタルで生まれ変わったとしても、心機一転なんて気力が湧くはずがない。


 村で唯一魔法を扱える婆さん曰く、魔法の才は可もなく不可もない程度。

 前世より身体能力は上がったけど、それがなんだって話。

 ゲームみたいにステータスが覗けるわけでもないし、スキルツリーで特殊な能力やアクションを解放出来るわけでもない。

 

 パソコンもない。

 ゲームもない。

 甘い炭酸飲料(シュワシュワ)もないし飯だってまずい。

 

 ないない尽しの異世界生活。よその転生者って適応能力すごいよねと拍手したくなるほどの退屈生活だ。


 せめてもの救いと言えば、風呂の習慣が前世と近いところか。

 流石に清潔感まで昔スタイルで、風呂でなく川で体を流すとかだったらもうそれだけで自殺の理由にしてしまえたところだ。ま、それでも男も女もほどほどに臭いんだけどさ。


 あーあ、せめて前世の記憶は消してほしかった。

 それが駄目なら、せめて細やかな特別な力(チート)でも恵んでくれればまだ楽しめたかもしれない。何が悲しくて二回もモブの人生をやらなきゃならないんだろうね。

 

 こんな俺だけど、今の母が生きている間は死なないように頑張ろうとは思っている。

 

 俺が産まれてすぐに行商人と浮気され、村から出ていったクズに捨てられた気の毒な女。

 それでも女手一つで俺を育て、その結果病で床に伏してしまった損な女。

 そんな様になってまで育てた子供の正体が、こんな性根の曲がった子供もどきであった哀れな女。

 

 歩んだ生の何一つも報われず。選んだ男と子供で最低最悪を引いてしまった母親。

 育てられた恩はあるが、俺としては親子としての情を持てず、母親として見ることが出来なかった。

 

 別に前世の両親が好きだったとか、今も忘れられないとかそういう話ではない。

 むしろあんなゴミ共には、今の母親の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらい。

 単純に俺が家族になりきれていないだけ、それだけの話だ。

 

 それでも、そんな人でなしの俺でも一角(ひとかど)の情くらいは抱いてる。

 例え俺が母として見ていなくとも、母にとっての俺は腹を痛めて産んで育てた一人息子なのだ。

 

 だからせめて、母の命が尽きるそのときまで、俺は母の一人息子として生きると決めた。

 母から本物の子供さえ奪ってしまった人でなしが、人であるための最後の一線が今の生活だ。


 こんな木を切るだけの人生が、果たしていつまで続くのか。

 誰に聞いたって答えなんて返っちゃ来ない。そもそもの話、聞く相手なんていやしない。


 今日も痩せ細った母との朝食を済ませ、相棒片手に日課の木こりへと向かおうとしたのだが。

 どうにも村の中が騒がしく、何かあったのかと少しだけ気になってしまう。

 

 何もないナシ村が騒ぐ時というのは限られる。

 年に一度の収穫祭、GH(グラホラ)でもお馴染みだった銀勇祭。後は外から客人──母の嫌いな行商人でも訪れたときくらいだ。

 

 だが今日は祭りの時期などではなく、行商人は数日前に来たばかり。

 自ら訪ねて母の薬やらここらでは取れない薬草やらを買ったのだから、記憶違いはないはずと信じたい。


 ならば必然、答えはそれ以外に絞られる。

 幸いなことにせっせとこちらへ走ってくる、出来の良い方と囁かれているメスガキが答え合わせをしてくれるはずだ。


「シーフみた!? ぼうけんしゃ! ぼうけんしゃのおねえさん! なんだって!」


 ほれ見ろ。別に聞いてもいないのに、子供らしい良い笑顔で教えてくれた。

 冒険者。今やファンタジーの定番職で、GH(グラホラ)にも登場する職業(ジョブ)の一つだ。


 初期に選ぶ職の中で最もくせが強く、その分自由度も難易度も人によって変わる職。

 何も知らなかった初見の俺は響きだけで選んで一週目を進めたが、シナリオを楽しみたい初見で選んでしまえば、難易度が一つばかり上がるだろうなって程度には地雷職だ。


 けれども利点は大きい。

 GH(グラホラ)には絆を築いた仲間との結婚システムがあったのだが、冒険者を選んだ場合に攻略出来るキャラがどれも人気の高いキャラばかり。


 実際過去にGH(グラホラ)公式で行われた人気ランキング。

 十位以内に入ると特別イラストが描かれるからとがっちがちの戦争だった投票の上位五人が冒険者ルートのキャラだったのだから、それだけで人気具合が窺い知れるだろう。

 ゲームのモチベを上げたいのなら、共にあるキャラを難易度よりも重要視すべきというのが持論だ。ちなみに俺の最推しも冒険者のキャラだった。


 ……大分本題から逸れた気がする。所詮はもう、プレイヤーではないモブの与太話だ。

 例えここがGH(グラホラ)と同じような世界であり、特別である彼ら彼女らも存在したとしても、俺には何の関係もないことだ。


 大体GH(グラホラ)のメインシナリオは覚えていても、詳しい年月までは覚えていないのだ。

 今が本編の何年前かも知らないし、下手すれば本編後の可能性だってある。そもそもシナリオなんて存在しない、形だけの世界な可能性だってあるわけだ。


 ……ま、結局は考えるだけ無駄って話でしかない。

 俺は神様に役割を与えられたわけでもないし、この世界を好き勝手に出来るチートを授けられたわけでもない。

 母が死ぬまで村で生き、母が死んでからは死ぬまでの暇潰し過ぎない今世で、主人公のように深く考える必要などないだろう。


「えへへ……あ、ちょっとー!」


 いつも通りにガキの頭を軽く撫でてから、少し離れて適当な木に登ってみる。

 まあ興味がないと言ってもだ。冒険者が村に立ち寄るなんてイベント、俺にとっても初めての経験だ。

 せっかくだし記念に顔を拝んでやろうと、木の上から村人に案内されている話題の冒険者とやらを覗いてみた。


 

 ──そこにいたのは、脳みその奥底で錆び付いていた、あるキャラクターと瓜二つの女性。

 


 雪を固めたような白い髪。背中に背負う彼女の背丈と大差ない、無骨で荒い骨の大剣。

 そしてごつい得物に反したえっ……身軽な防具に、古めかしい色褪せた赤のベレー帽。更には腰に巻き付けた長い白尾。

 遠くなのでよく見えないが、恐らく瞳はルビーのような赤。そして恐らく、頬と首元に一筋の傷があるなはずだ。

 

 知っている。知っているとも。

 例え俺でなくとも、GH(グラホラ)プレイヤーであれば知らないわけがない。


 だってその女性は、ついさっき縁がないと切り捨てた特別の一人。

 公式ランキングの第四位に上り詰めた、まさしく本物の人気者なのだから。


 彼女をそうだと認識した瞬間、俺という無気力な盆暗の歯車が動いた音がする。

 遠くからの目視だというのに俺の視線に気付いたのか、興味深げにこちらへ視線を向けてくる女性。


 彼女の名はニャルナ・ジッハ。

 殺風と大変格好いい二つ名を与えられながら、ネットではエロマゾ猫と大変不名誉な愛称を付けられた冒険者がそこにはいた。

読んでくださった方へ。

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