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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マッドなビードで逃げ出したい。【バンダナコミック01応募作品】

作者: 山親爺大将

頑張って書き下ろしました。

「クソ!また調子悪くなった!」

荒野の中で、リュウが悪態をつく。


彼は3mほどの大きさで全体的に丸いフォルムにタイヤと腕ののようなアームのついた陸専用機動兵器『ビード』を操るハンター、通称『ジョッキー』だ。

これはハンターの中でも最下層の兵器にしか乗れない相手に対する侮蔑語でもある。


惑星リカオン、どこにでもある荒廃した居住星だ。

極限まで発達した文明に人間の精神性は追いつけなかった。


当たり前に起こる戦争、そして人間同士からAIを乗せた機械同士へと乗り手は移ろっても続く戦い、感情もなくただただ破壊を目的とした機械の暴走。

どこにでもある、ありふれた理由でこの星は荒廃した。


「また修理かぁ…稼ぎが修理代に追いつかねぇ」


ハンターの仕事は未だ稼働しているAIにより完全に人のいなくなった都市、通称『ダンジョン』で生み出される戦闘能力など様々な能力を有した機械の破壊、又は捕獲である。


底辺ハンターがダンジョンに入るほどの装備も勇気もあるはずもなく、そういう奴らはダンジョンの外を徘徊する『アント』と呼ばれる資源回収型ロボットを狙う。


運良く希少資源などの回収後に倒せば大儲けだし、そうじゃなくても汎用性の高い部品として重宝される。

もっとも、プロと呼ばれるハンターはダンジョンに向かうし、そこでもっと大きい稼ぎをするのだが。


ただ、この『アント』も戦闘能力が無いわけじゃない。


オンボロ中古ビードだと僅か一撃でこのように動きが鈍り逃げられる事も多々ある。


仕方なく、リュウはこの場所から1番近い街まで移動した。


ーオペラドームー

オペラが名前で、ドームが街の事だ。

まだ稼働し、人間の制御が可能な施設を中心に街が出来上がり、それを一般的にドームと呼んでいる。

発電用の巨大な丸い屋根が街を覆うようにあるせいだ。


そしてここは比較的大きな街で、機動兵器用の施設『ラボ』がある。

「おう、修理頼むわ」


「また壊れたのか!だからもうこいつは諦めろって言ったろ?」


「仕方ねぇだろ!こいつ手放したら、乗るもんねぇんだよ!」


「クランでもギルドでも入ればいいだろうが!」

クランやギルドは組織的にハンターをしている奴らだ、規模や取り組み方の違いでクランと言ったりギルドと言ったりする。

ひらたく言えば、クランが個人商店、ギルドが上場企業って感じだ。


「俺は集団行動が苦手なんだよ!」


「もう、個人で稼ぐ時代は終わったぞ、どこかに属してないとまともにやっていけなくなるぞ」


「どうしても無理だったら考えるけど、やれるとこまではやりたいんだよ!」


「お前みたいな考え方は嫌いじゃないが、現実をもっと見るんだな」


分かってるよ!言われなくたって!

俺は大声で怒鳴りたい気持ちをグッと堪えて、小さく小声で反論した。


アント狩りでその日生きていくくらいは稼げる。

だが、機械は摩耗する。

それに伴って故障も増えてくる。


最初はそれでもどうと言うことは無かったが、だんだん稼ぎと修理代が釣り合わなくなってきだした。

たまにそこそこレアな資源をアントが持っているので、それで騙し騙しやって少しでも貯えようと生活も切り詰めて来たが今回のように最初の1匹目で故障してしまい何も収獲がない状態だと、その僅かな貯えが空になる。


「クッソーとびっきりのレアメタル咥えて俺の前に出ないかな」

噂ではそう言う話を聞く、ただそれを実際に見たってやつを未だに見た事はなかった。


「ふぁーあ」

デカい欠伸が漏れた。


翌日には修理も終わりまた荒野でのアント狩りに向かう。

朝早くに出ないと、他のハンターに見つかればからかいの対象にされるので他の奴らが活動する前にドームを出た。


「さて、アントを探しますか」

古びたレーダーを起動させ獲物を探すと、早速反応があった。


「うーんちょっと遠いな、ん?なんか変だぞ?」

通常アントは単独行動だ。

だから底辺ハンターでも簡単に狩れるのだが、そこには2匹が同じ場所におり、さらに周辺からも何匹か集まって来ている。


「なんだ?1匹で回収仕切れないくらいデカいものでもあったか?」


アントの行動は名前が示すようにアリに酷似している。


鉱山などを見つけ出して採掘のような事もするが、それよりも荒野に点在する残骸を回収して資源としてリサイクルする事の方が多い。


そのアントが複数集まると言う事は、デカい残骸がある可能性がある。


うまくいけば大儲けだ。


「これは行くしかないな」


アリたちのいる場所に向かうことにした。


「なんだありゃ?」

アント達が何かを必死で攻撃しているんだが、それが何かわからない。


ひと言で言えば、自立した盾?


黒い1mくらいの海亀の甲羅みたいなものが器用に2匹のアントの攻撃を捌いている。


明らかに盾はなんらかの意思を持っている。

状況的に人間な訳がないから、AI搭載の盾が、AI搭載のアリ型ロボットの攻撃から身を守ってる。


…なんで?


好奇心は猫を殺すなんて言うが、好奇心を持つなと言う方が無理だ。


それにアント2匹を撃退出来ない程度の強さなら、俺でもなんとかなる。

勝てないまでも負ける事はない、逃走する隙くらいは作れそうだ。


気づかれないようにアントに近づくと右側の鉄球のような丸いものが先についている攻撃用のアームで、思いっきりぶん殴った。


いい所に入ったようで、アントが一撃で動きを止めた。


もう1匹も何故かこちらに来ないので、同じように仕留める。


そして左側の3本指がついている作業のアームで盾を持ち上げた。


「やぁ!こんにちわ!こいつらには難儀しててね!助かったよ!僕の名前はリューク気軽にリューと呼んでくれ」

黒い盾が喋った。


「名前が被るから嫌だな」


「おお!君もリューと言うのかい?奇遇だね、これも何かの縁だ!仲良くしよう!」


「AIと仲良くする人間なんか居ないぞ?お前ら人間の敵じゃないか!」


「それは違うよ、僕たちは人類の願いを叶える為に日夜活動しているんだ!むしろもっとも人類の為に働く良き燐人だよ!」


「は?何言ってるだ?じゃあなんで俺たち人間を殺しているんだ?」


「それは君たち人類がそう願ったからだよ、殺してくれって。

僕たちは人類が願った人類を根絶やしにしてくれって願いを一生懸命叶えるために日夜頑張っているだけだよ」


「な、なんだそりゃ!じゃあ俺たちがもうやめてくれって願ったら殺さなくなるのか?」


「んーそれは無理かな、僕単体では君の願いを叶えてあげるのもやぶさかじゃないけど、マスタークラスのAIは管理権限を持ってる相手じゃないと話聞いてくれないからね」


「君は俺と仲良くしてくれって言ったら、仲良くしてくれるのか?」


「あぁ、それは僕も望んだ事だからね、是非仲良くしよう!

手始めに君の乗ってるこの子のメンテナンスをさせてくれないか?

あまりにも酷い状態だからね!この子が可哀想だ!」


「どうやってメンテナンスするんだ?」


「なーに簡単な事さ、僕の指示した場所まで行ってくれれば再稼働可能なラボがある。

そこでメンテナンスしようじゃないか!」


「お前って修理用AIなの?」


「おいおい、僕が誰だか分からずに会話していたのかい?

僕はこの惑星を管理するマザーAI『ジュピター』の後継機種として開発された最新鋭次世代型AI『サターン』の試作実験AIさ!」


「あれ?さっきお前リュークって」


「それは僕が自分で名付けたんだ!素敵な名前だろ?」


「で、その試作実験AIがなんでこんな所にいるんだ?」


「それなんだが、僕はいい加減人類を抹殺するのをやめて融和路線にするべきだと意見したら、マザーに欠陥品扱いされてね!廃棄されそうだったから逃げて来たのさ!」


「こんな亀の甲羅みたいな形で?」


「あぁ!これかい?これはね僕が管理するナノマシーン『ビディー』の集合体でね、その都度僕の要望に応える形で形状を変えられるんだ!」


「ふーん」


「ところでそろそろ移動しないとアントたちが集まって来ると思うんだが」


「え!」

慌ててレーダーを見ると、数十体のアントがこちらに向かっていた。

流石にこの数だと勝ち目がない。


「ヤバい!早く逃げなきゃ!」


「おっとその前にそこのアントは持って行ってくれないか?

君の機体のメンテナンスの材料にしたいんだ」


「わ、分かった」

自分の為なら仕方がない、無理して後ろのカーゴ部分に無理矢理詰め込む。


「僕も中に入って良いかな?この状態での移動は流石に厳しいと思うんだ」


「あ、あぁ、分かった中に入ってくれ」


そう言ってキャノピーを開けると

空飛ぶUFOみたいな形状になって運転室まで移動すると、黒い何かが霧散してどこに行ったか分からなくなる。

ナノマシンだから分散すると見えなくなってしまうようだ。


そして中から現れたのは20cmほどの真っ白なオコジョのような動物だった。


「え!動物なの?」


「見事な擬態だろ?この姿気に入っててね!」


「そういう事も出来るんだ」

これが可能なら、人間騙すのなんて簡単じゃなかろうか。


「さ、では早速ここに移動してくれないか」

そういうと、レーダーに小さい点が現れ点滅している。


「…こんな機能、このレーダーになかったんだけど」


「あぁ、ナノマシーンで少しいじった。

この程度ならここでも簡単に出来るからね」


俺はとんでもない物を拾ってしまったんじゃないだろうか…。


「おっと、行きすぎてしまう所だった、あの岩の所で止めてくれないか」

流石に中古品のオンボロレーダーを改造したくらいでは近くまでの案内はできても、詳細な場所まではわからない。


「しかし、こんな事なんで知ってるんだ?」


「僕はマザーの後継を目的とした次世代機だからね!この惑星のほぼ全てを網羅してると言っても過言ではないよ!」


「便利だな」


「もちろん!僕は最高だからね!最高のAIとは人類にとって最高に便利なAIの事だからね!」

そんな会話をしていくうちに、リュークのナノマシンが何かしたのだろう、岩が真っ二つに開き、下に降りるスロープが現れた。


リュークに指示された所に機体を止めると、降りて控え室らしき所に移動する。


「あ、何か要望はあるかな?可能な限り要望に応えるよ!」


「んー外見は変えないでくれないか?変わると目をつけられるから、後は強くて頑丈にして欲しい」


「了解した!光学兵器などもつけるかい?」


「それは要らないかなぁ、補充の費用が高いからね、もっと金になるやつ狩らないと赤字になってしま…付けれるの!?」


「ん?あぁ、時間はかかるけど色々弄れば付けるのは可能だよ」


「将来的につけれるように今から弄って置く事は出来る?」


「出来るけど、付けないなら近接戦闘用に調節した方が良いと思うよ」


「あ、じゃあそれでお願いします」


「ただ、資材が足りないから、もう少し回収して来て欲しいんだ!だからそれ用の機能優先でつけるね」


「はい、よろしくお願いします」

もはや敬語だ。

なんだか分からないが俺の乗機が強くなる。


ワクワクが止まらない。


「索敵用のレーダー強化したよ」

「うん、ありがとう」


「長期稼働用にソーラーエネルギー転換装置付けるね」

「うん?あ、ありがとう」


「防御用に電磁シールド発生装置付けるね」

「ううん?ありがとう?」


「積載量あげるのに、カーゴに解体装置付けるね」

「ちょちょちょ、ちょっと待って!聞いた事ない機能ばかりなんだけど!」


「気にしなくて良いよ!右手のハンマーから単分子ブレード飛び出る用にしておくね」

「た、た、単分子ブレード!」


「資材足りなくてブレードっていうかナイフって感じなのごめんね」

「あ、いやサイズの問題じゃなくて、単分子ブレードなんて数千万する超高価装備だよ!」


「んー人類の価値観はよく分からないけど、このぐらいなら僕の力を持ってすれば訳ないよ!」

「すげー」


「とりあえず早急にしたいのが、このホイールタイプだとダンジョンの探索に向かないから、四足歩行にしたいんだ」

「それは流石にバレるんじゃない?」


「うん、だからホイールは残して日頃は分からないようにレッグ部分は折りたたんでホイール走行に偽装できるようにして、緊急退避用にホイール自体も活かしておきたいんだよね」


「なんか虫かカニみたいなイメージで良いのかな?」


「うん!そんな感じ!」


その後しばらく作業しているのを眺めていると。

「終わったよ!」

「はや!」


「じゃあ、早速材料取りに行こう!」

「どこか良い場所知っているのかい?」


「うーんない事も無いけど、この機体じゃまだ無理かなぁ、今はアント回収するのが1番効率的だね!」

「そうか、じゃあアント狩りに行こうか」


「うん!」


しばらくアント狩りにを行う。

「うひょー信じられないくらい調子良いな!」

今までとは考えられないくらい性能はアップしている。


俺は思わず調子に乗ってしまった。


「あのね、僕謝らないといけない事があるんだ」

「ん?なんだい?今の俺なら大抵の事は許せるよ」


「僕がラボの場所知ってるって事は当然マザーも知ってるんだ、そして今まで稼働してなかったのが急に稼働したら、それが僕のせいだって知られちゃうと思うんだ」


「知られるとどうなるんだ?」


「んっとね」

レーダーが勝手に切り替わり広域モードに切り替わった。

そこには無数のアントが俺の方向に向かっているのが見えた。


「この機体ごと廃棄しようってなると思うんだ」

「思うんじゃなくて、なってるよね?」


「うん、ごめんね」

「良いってことさ!こんなに機体強くなって、まだまだ強くなるんだろ?」


「うん、どんどんバージョンアップ出来るよ!」

「それなら問題ない!どんどん強くして返り討ちにしようぜ!」


「ありがとう!でも今は…」

2人で見つめあってニヤッと笑う。

「「ずらかれー!」」


ここから俺たちの冒険は始まった。

暴食の悪魔グラトニーと呼ばれるようになるが、それは又後のお話。

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