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隣に引っ越してきた清麗な元アイドルが僕とペアになりたいと寝かせてくれません  作者: 毒島かすみ
第三章 これはデート?いや、ただのお出掛けです
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第二十五話 僕の目の前で女同士、何やら揉め事が……。

[奏視点]


 


 美織ちゃんとの昔話に花を咲かせている間、気付けば結衣は無言で僕達のやり取りを見守っていた。


 そんな所在無さげにしていた結衣に配慮を効かせたのか、美織ちゃんが水を向ける。


「――でさ、結衣ちゃん?だっけ? ちょっと、物は相談なんだけどさ……」


「……え? う、うん」

 

 急に話しかけられた事で結衣の肩が僅かにびくっと跳ね、身構える。

 一体何を言われるのか――結衣の表情からはそんな不安な心情が読み取れた。


「単刀直入に言うね?――奏とのペア、考え直してくれないかな?」


「「え?」」


 美織ちゃんの発したまさかの思い掛けないその言葉に、僕と結衣の声が重なった。


「考え直してって、どういう事?」


 言葉を返したのは結衣。

 すると美織ちゃんはまるで本性を現した悪女のように不愉快そうに眉間にしわを寄せると、結衣の胸に人差し指を突き付け、


「分からないかな? つまり、奏とペアが組める程の実力が、貴女(あなた)にあるの?って聞いてるの」


 と、迫った所でようやく事態の重さに気付いた僕が制止に入る。


「――美織ちゃん!そこまでにして!……これは僕と結衣の事だ!美織ちゃんには関係ない!」


「……ゆ、結衣っ!?(あたしの事は〝美織ちゃん〟なのに……!?)」


 何故か烈火の如く憤怒した表情の美織ちゃんが何やらブツブツいいながら僕を睨み付けてくる。……その詳細は聞き取れないが、とりあえず……そ、そんなに怒らなくても……。僕、何か悪い事言ったかな?


「――じゃあ、将棋で決着(ケリ)をつけましょう」


 声を上げたのは結衣だ。

 先程までの動揺した弱い声ではない。ハッキリと力強く、結衣独特の清涼感を伴った凛々しい声音で。


「は?」


「私と貴女(あなた)とで勝負するの。貴女(あなた)が私に勝ったら奏君とのペア……解消してあげる。……それが貴女(あなた)の望みなんでしょ?」


「……本当に、それでいいのね?」


 結衣がコクリと頷く。


「……分かった」


 結衣の提案に対して美織ちゃんは静かに返事すると無言で駒を並べ始めた。

 この目は本気だ。こういう時の美織ちゃんは……強い。


「……結衣……」


 心配な心持ちで結衣を見ると、結衣は柔らかく微笑んだ。


「大丈夫だよ奏君。私、絶対負けないから!……だから――そこ、どいてくれる?」


「……うん」


 結衣と場所を入れ替わり、結衣と美織ちゃんが向い合う形となる。

 二人の駒を並べる音だけが、パチ、パチ、と静かな道場内に響く。


 何故こうなった?あまりの急展開に混乱していると、僕の脇腹をツンツンと、人差し指で誰かが突ついてきた。


 ……おじさんだった。


「……(君、もしかして奏君やろ?)」


 おじさんは小声でそう言った。……何故小声なんだ?


「そうですけど」


「(やっぱりそうか!大きくなったなぁ。ワシ、覚えてるか?)」


 おそらく僕が幼なかった頃の顔見知りなのだろうが……すいません。覚えてません。でも、


「あぁ〜……はい。覚えてます」


 めんどくさいので知ったふり。嘘も方弁と言うし。


「それにしても、奏君。君も隅に置けないねぇ」


 と、冷やかすようなニンマリとした笑みを浮かべるおじさん。ほっといてくれ。


 ――ん?


 僕はこのタイミングでようやく、この場に居合わせたお客さん全てが僕達を取り囲むようにして、今から始まる女と女の真剣勝負を見守っている事に気付いたのだった。




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