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41. ラウラ、愛しい人のそばに……(エピローグ)


 イザーク様の言葉に、オフェリア公女は眉をひそめる。


「は……? 聖女ですって……?」

「そうだ。ラウラが毒を口にしても助かったのは、身のうちに宿る神聖力で毒を浄化したからだ。夜会に来ていた貴族たちも目撃している」

「そんな……」

「お前は国の重要人物である『聖女』を害した。ただの平民相手なら、公爵家の力で有耶無耶にできたかもしれないが、聖女相手ではそうはいかない。己の愚かさを悔やみながら、刑に処されるのを待つことだ」

「……嫌よ! ありえないわ! わたくしがそんな──」

「公女」


 イザーク様が恐ろしく低く冷たい声で言い放つ。


「俺は今、相当我慢しているんだ。この場で殺されたくなければ大人しく従え」

「……っ」


 ようやく静かになったところへ、いつのまにかアロイス王子が呼びに行っていた騎士たちが駆けつけた。


「オフェリア・ネフヴァータル公女を聖女毒殺未遂の罪で捕縛せよ」


 騎士たちはわずかに驚いたような表情を浮かべながらも、イザーク様の命令どおりに公女を捕らえる。


 公女は先ほどまでの威勢を失い、青褪めた顔をしながらどこかへと連れて行かれた。



◇◇◇



 それから1週間後。

 私はイザーク様と馬に乗って、高台にある花畑へと来ていた。


「わあ、見晴らしもよくて、とても綺麗ですね!」

「そうだな。風も気持ちいい」


 美しい景色にしばらく見入った後、イザーク様が私に尋ねる。


「そういえば、ヴァネサは森に帰ってしまったんだな。もっと滞在しても構わなかったのに」

「ああ、なんだか王宮にいると疲れるとか言っていました。でも、たまに会いに来てくれるって」

「そうか、それならよかった。兄上も寂しがっていたぞ。ヴァネサになら魅了魔法をかけられてもいいだとか馬鹿なことを言っていたが……」

「なんだかアロイス王子らしいですね」


 もしかすると、ヴァネサはアロイス王子の相手が面倒で森に帰ってしまったのかもしれないな、となんとなく察する。


「それにしても、魅了魔法の威力は凄まじかったな……」

「そうですね。あのときの公女様は完全にヴァネサの言いなりでしたもんね」

「ああ、おかげですべて自白してくれて助かったが」


 事件の調査の結果、オフェリア公女が隠し持っていた毒と、私が飲んだワインに盛られていた毒が一致し、公女が犯人ということが確定した。


 公女は夜会で私がドレスの汚れを洗いに行った際、人に頼んでイザーク様を連れ出し、その隙に私の飲み物を毒入りワインにすり替えたらしい。


 そしてイザーク様が言ったとおり、オフェリア公女が『聖女』を害したという事実は、公爵家の力をもってしても揉み消すことはできなかった。


 公爵は国の要職から外され、家門自体も伯爵家への格下げが検討された。

 結局、家門の格下げは回避されたのだが、それは公爵家からのオフェリア公女の除籍と引き換えだった。


 オフェリア様はもう公爵家のご令嬢ではなく、自身が忌み嫌っていた平民となったのだ。

 そして、その罪を償うため、遠くの町にある教会で修道女として仕えることになった。

 

 オフェリア様は『こんな屈辱を受けるくらいなら死んだほうがまし』と言っていたそうだけど、私はそうは思わない。


 たしかに、平民としての暮らしには、今までのような華やかさはないだろう。

 でも、平民だって毎日を精一杯生きているし、慎ましい暮らしの中にも幸せを感じることはいくつもある。


 オフェリア様がきちんと自分の罪に向き合い反省して、いつか小さな幸せを大切に思えるようになってくれたらいいなと思う。


「ヴァネサの魅了魔法ももちろんすごかったが……」


 イザーク様がそう言って私を見つめる。


「ラウラの魅了はもっと強力だな」

「え?」

「初めてラウラに会って一瞬で魅了されてから、俺は毎日お前が愛おしくて仕方ない。この魅了は一生解けなさそうだ」

「イザーク様……」


 イザーク様の綺麗な赤い瞳に焦がれるような熱が宿る。

 その熱が移ったのか、彼の瞳に映る私の顔も朱に染まる。


「前にも言ったが、俺はラウラが聖女だろうが何だろうが関係ない。どんなラウラでも愛おしい。もう、お前のいない人生など考えられない。だから、これからもずっと俺のそばにいてくれ」


 花の香りをはらんだ柔らかな風が、私のほてった首すじを撫でていく。


「……はい、私ももう、イザーク様のいない人生なんて無理です。これからも、ずっとおそばにいさせてください」


 照れ隠しに微笑んだ瞬間、私の身体はふわりと宙に浮き、そのままイザーク様の腕の中に収まった。


「……今のは可愛すぎるだろう。こんなの、キスしたくなるに決まってる」

「えっ、あの……よかったらどうぞ……」

「ぐっ……くそ、心臓を鍛えるにはどうすればいいんだ」


 大真面目にそんなことを言うイザーク様が愛しくて仕方ない。

 思わず彼の頬にキスすると、すぐに今度はイザーク様から唇を塞がれてしまった。


「……ラウラは俺が一生守る」

「私も、イザーク様を一生守りますから」


 今の私には、彼を守って支えられる力がある。

 誰に何を言われようと、もう絶対にイザーク様から離れない。


 私たちは互いの温もりを分かち合うように抱きしめ合ったまま、もう一度ゆっくりとキスをした。






最後までお読みくださって、ありがとうございました!

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