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キキミミズキン

作者: N(えぬ)

朝早く青年が海岸を散歩していると波打ち際に小さな亀が腹を上にしてジタバタしていました。

青年は亀に近づき、表に返して海のほうへ押し戻してやりました。

青年は何も言わずに亀が沖へと泳いでいく姿を見ていました。

亀も何も言いませんでしたが、1度だけ青年のほうを振り向いたように見えました。

それから波が覆って亀の姿はもう見えませんでした。


青年は、またある日の朝に海岸を散歩しました。

歩いていると上から何かが落ちてきて頭にパサリと落ちました。

青年が上を見上げるとトンビが一羽飛んでいます。

「なんだ、トンビの落とし物か。なんだろう」

青年はそう言いながら頭に落ちてきたものを手に取ると、それは紺のニット帽でした。

「なんでこんなものをトンビが?」

そう思いましたが、帽子はきれいだしとても手触りのよいいいものでした。

それで青年は帽子を持って家に帰りました。


青年は部屋で早速、手に入れたニット帽をかぶって鏡をのぞいてみました。

「なかなかいいな。かぶり心地もいい」

青年は、この帽子が先日の亀がお礼にくれたもののように思えて気分がよくなりました。

それで帽子をかぶったまま、なんとなく朝のベランダに出てみました。

外はまだ静かで朝の空気が漂っています。

そばの電線に沢山の鳥が飛んで来て、並んで止まりました。

すると青年の耳になにか、小さな話し声が聞こえてきました。

「なんだ?」

そう思ってベランダから身を乗り出して辺りを見ましたが、人の姿はありません。

「おかしいなぁ」

人の姿は見えなくても声だけは聞こえてきます。

声の方向を探ると、電線に止まる鳥だけです。

「まさか、な」

思いながら、鳥をよく見ると、それは鳥ではありませんでした。

「本だ。みんな本なんだ」

羽をばたつかせて毛繕いをしたりしながら、チッチと鳴いているのは、ずっと見知らぬ鳥だとばかり思っていた青年は、驚いて目を見張りました。

ばたつかせているのは羽ではなく、本のページでした。

電線の上の本たちは、互いに寄り添ってページをめくったりしながら、自分の体に書いてある物語を読み上げたり、隣の本のページを声に出したりしているのでした。

それを見ていた青年は、ニット帽を取ってみました。

すると、電線の本はみんな、よく見る普通の鳥たちに変わり、鳴き声もいつものチッチになりました。

それでまたニット帽をかぶると、鳥たちは本に変わるのでした。

「なるほど。これがほんとの『文鳥』だな」

それらの文鳥は、それぞれ違う物語を口ずさんでいましたが、そのうちの一羽に、

「おまえの話を聞かせて欲しい」というと、その文鳥が最初のページから読んで聞かせてくれました。

以来、青年は毎日、小さな文庫から固い表紙の新刊、ときには色鮮やかな参考書、上下巻の大作など、世界中の様々な本を読み聞かせてもらって楽しんだということです。

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