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第95話 敵は性懲りも無く

 さて、こちらの工作は上手くいった。『リューム・ナアド神聖国』の高司祭バスール・オイゲンドが上手くこちらの思惑に乗って、コンザウ大陸南岸諸国領の奪回・解放作戦を立案してくれたんだ。


 そして『リューム・ナアド神聖国』は、内陸国家故に軍船を持っていなかった事もあり、前回のアーカル大陸攻略作戦の大艦隊に、ほとんど兵を出していなかった。音頭は取ってたけどね。まあその分だけ、今回は陸続きだからって、主導的な立場としてかなりの軍勢を出して来ている。これで鉄之丞と死霊軍団をその撃滅に回せば、鉄之丞も満足してくれるだろ。


 まあ全部が全部、予定通りに進んだわけじゃ無い。こちらが危惧していた事も、同時に起こった。




 こともあろうに『リューム・ナアド神聖国』の阿呆ども、ついに新勇者を召喚して南岸諸国解放軍の先陣に置く、と発表しやがったんだ。




 これにはアオイもミズホも鉄之丞も、怒ったのなんのって……。召喚された新勇者は、『リューム・ナアド神聖国』の公式発表では、タケル・アカギと言う名前らしい。魔道軍団の間諜(スパイ)によれば14~15歳程の少年で、なんと言うか、そのだな、ちょっと……。その年齢に相応しい精神状態らしい。


 どんなのかって言うとだね。……妙にカッコつけたり。正義に酔ったり。無意味にポーズ付けて喋ったり。うん、わたしは自分の過去の記憶はほとんど無いんだけど、そんな時期が自分にもあったのは、なんとなく感覚として覚えてる。チューニ、という奴だ。だが15歳近くと言うなら、そろそろそう言うの卒業しても……。


 それは置いといて。さて、どう対処するべきかね……新勇者タケル。そう言う性格であるならば、『リューム・ナアド神聖国』側としては扱いやすいだろう。それにタケル君側でも、『リューム・ナアド神聖国』の正義を疑わないんじゃないかな。


「……よし。どうせだから鉄之丞と死霊軍団だけでなく、親衛隊も出そう。魔王親征だ」


「やるんですか?元々は『カンザ・アド王国』を攻略する際に、そことの戦いで親衛隊を出す予定だったはずですが」


 ザウエルが眉を(ひそ)めて言う。うん、予定を変更するのは正直あまり褒められた事じゃないと思う。だけど、勇者クラスの相手だとねえ……。


「召喚直後と言えど、勇者が相手だ。鉄之丞クラスの力量ならば絶対に負けないとは思うけれどね。だけど他の上級不死怪物(アンデッド)あたりを倒されでもしたら、死霊軍団にとって大打撃、大損害だ。

 それに軍勢には、『カンザ・アド王国』の軍も含まれてるからね。まあ、完全に予定から外れると言う訳でもないだろう。とりあえずわたしの存在で、勇者タケルを上手く(おび)き寄せて、なんとか捕らえる。その様子を見せれば、敵軍の士気はガタガタだろう」


「ふむ……。了解です。ですけど、今回は親衛隊副長殿の時みたいに……ミズホ殿の時みたいに、丁寧に策を(ろう)したりしないんですね?」


「そうしようかと思ったけれど、今回は時間が無い。ミズホのときは、彼女とパーティーメンバーがバルゾラ大陸にやって来るまでたっぷり時間があった。それに今回は、小規模戦闘じゃなく軍勢対軍勢の、大規模戦闘だ。そこでわたしが敵を騙すために倒されたフリでもしよう物なら、味方の動揺が怖い」


「……安心しましたよ。魔王様が冷静でおられる様で。単なる思い付きじゃなく、熟慮の上であるなら、僕からは何もありません。

 まあどっちかと言うと心配なのは……。魔王様よりも、親衛隊長殿と親衛隊副長殿だったんですけどね」


 そう言うザウエルの視線の先では、アオイとミズホが激しい戦闘訓練を行っている。アオイ単独に対し、ミズホは親衛隊印の戦闘ドロイド2体の支援の下で戦っており、それでなんとか互角……いや6対4ぐらいで、まだアオイ有利だろうか?そんな感じで、アオイ対ミズホチームでの実戦さながらの戦闘訓練が続けられていた。


「アオイとミズホも問題ないよ。まあ、今は頭に来てるみたいだけれど、彼女たち自身で、自分が頭に血が上ってるってのを理解してる。だからああやって、ちょっとやり過ぎなぐらいに身体動かして、頭を冷やしているのさ」


「なるほど」


 そう言っている間に、アオイの片手半剣(バスタードソード)がミズホの片手半剣(バスタードソード)を打ち上げる。よろめいたミズホの喉元にアオイの片手半剣(バスタードソード)の切っ先が突き付けられた。


「ふう、強くなったわね」


「3対1でこれじゃあ、そう言われても……」


「いえ、本当に。前ならば、わたしは汗ひとつかかなかった。でも今は、ひやっとする事が何度もあったもの。

 ……魔王様!」


 アオイがわたしを呼んだ。わたしは視線をそちらに向けて、聞く姿勢を取る。


「なんだい、アオイ?」


「コンザウ大陸の南岸諸国解放軍に、死霊軍団と共に親衛隊を充てる事を進言する。そして、敵勇者との戦いで、ミズホに一騎打ちをさせるべき」


「うん。わかった」


「「ええっ!?」」


 ザウエルとミズホが、驚きの声を上げた。2人に向かい、アオイが説明をする。


「ミズホは今回の新勇者召喚で、相当なストレスを受けてる。本人は平気そうに見せてるけど、わるいけどバレバレ。だから新勇者を殺さず捕らえる事に貢献させてやる事で、それを解消してもらう」


「アオイはミズホの救出作戦で、心理状態についても自分の物として、経験があるからね。ちゃんとわかっているのさ」


「なるほど……」


 ザウエルも頷いた。わたしはまだ目を白黒させているミズホに向かい、口を開いた。


「親衛隊副長ミズホ・クオン。……貴官に命ずる。敵『リューム・ナアド神聖国』が召喚した勇者、タケル・アカギを一騎打ちにて討て。その際、可能ならばでかまわない。相手を生け捕りにせよ。勇者の命さえあるならば、相手の手足の7~8本は潰してかまわない。

 ……出来るかい?」


 最後に優しく付け加えた一言に、ミズホはだが、ごくりと(つば)を飲み込んだ。そして彼女は、力強く頷く。


「は、はいっ!」


「よし、任せた! ザウエル、早急に魔王親征の準備を整えてくれ。それと、わたしが居ない間の諸々、一時任せるよ。何かあったら、すぐに『ゲート』の魔法陣か、そうでなかったら超音速で飛んで帰って来るから」


「お任せください」


 そしてザウエルは、微笑みつつ言った。


「けれど、勇者タケルの手足を7~8本潰してもいいって話でしたが……。人類種族には、しかも人間には普通手足は4本しか無いですよね?」


 いや、比喩表現だから。そのくらい分かってくれ。って言うか、わかって言ってるだろうザウエル。

 また『リューム・ナアド神聖国』は、性懲りも無く勇者を召喚しました。まあでも、1レベルとまではいかないでしょうが、少なくとも初期レベル勇者の前に出現する気、満々です、この魔王様は。まあ、今回はだいたいミズホに任せるつもりみたいですけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ( ̄▽ ̄;) チューニ病な勇者……説得は難しいだろうね。 きっと「夢の異世界召喚だ!!」などと喜んでいるに違いない(ォィ
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