第93話 画期的な出来事
どうやら『ヴィザー・ル新王国』は、その全域を支配下に置く事に成功した。今ガウルグルク率いる侵攻軍本隊は、引き続き隣国の『ヴィザー・ク王国』を攻撃している。同時に大量の幽霊船と輸送艦、強襲揚陸艦を使って、別動隊として死霊軍団を率いた鉄之丞が、南方に浮かぶ島を支配している『サマー国』と『フィンザ国』を攻める事になった。
本来は『サマー国』と『フィンザ国』は『ヴィザー・ク王国』の向こう側にある『タラント連邦』を下してから攻めるつもりだったんだが、そうも行かなくなった。何故って、『サマー国』『フィンザ国』が『ヴィザー・ク王国』へ援軍を送る様子を見せたからね。
そして占領地となった『ヴィザー・ル新王国』の領域だが、そこにはゼロの魔像軍団が守備に就く事になった。体内に火砲を内蔵した新型ゴーレムや新型生きた鎧、新型彫像怪物で、国境線をしっかりと守り、戦闘ドロイドやアンドロイド、人工知能ロボットで占領地の治安維持にあたる。ゼロは、アーカル大陸での経験が活きたな。
ちなみに『ヴィザー・ク王国』なんだが。旧態依然とした軍制で、銃砲は基本的に無い。あげくに首都が海岸近くにあるんだよね。いきなり戦艦や巡洋艦の砲で、王城などを艦砲射撃したそうだ。狙ったのは王城と軍事施設のみで、市街地などには1発も流れ弾が飛ばなかったらしい。うん、訓練が活きたなあ。
ザウエルが報告に来ているので、彼に戦況を尋ねる。聞いておきたいのは、鉄之丞の事だ。
「ガウルグルクは心配無さそうだね。鉄之丞はどんな感じかな?」
「まず『サマー国』ですが、強襲揚陸艦とその他の種類の揚陸艇を用いて、大量の下級不死怪物を上陸させた様ですね。指揮官として中級不死怪物をあてがって。『ヴィザー・ク王国』へ救援の兵を送ろうとしていた『サマー国』では、それどころでは無くなって必死に不死怪物を撃破していますよ。
まあ所詮はたいした力量の無い下級不死怪物です。どんどん駆逐されている模様ですが、敵にも相応の損害を強いていますよ。それに下級不死怪物は、その気になれば元帥怨霊大将殿ならばどんどん生み出す事も可能です。全然勿体なくありません」
「そうか。……ザウエル、『フィンザ国』は?」
「元帥怨霊大将殿は、あちらの国の方が危険な相手だと見て取った様ですね。残りの大量の幽霊船と、中級から上級の不死怪物を満載した輸送船等々を主要な港に突っ込ませて、港々を完全に制圧しました。
輸送船などはかすり傷程度でしたが、幽霊船の船団は1割沈んだ様です。『フィンザ国』は『サマー国』よりも大砲とかを持っている数が多かったですからね。元々『ヴィザー・ル新王国』と付き合いがある国でしたし、火砲を幾ばくか仕入れていたんです。それで元帥怨霊大将殿は、危険視したそうですよ」
なるほどね。わたしでも『フィンザ国』の方を先に潰しに回るだろうな。
「うん、鉄之丞の判断をわたしも支持する。多少の損失よりも、その国を早急に攻め落とす様に伝え……。ああ、いや。わたしが後で自分で伝えるよ。通話水晶で」
「了解です。……凄いですね、新型の改造人間は。6対2で、どうにかこうにかとは言えど、親衛隊長殿と親衛隊副長殿に食い下がっている」
「ああ、うん。アーチボルドが頑張ったからねえ。まさか今の段階の設備で、スタッグビートル・カメレオン型とか、ヘラクレスビートル・ケルベロス型とか、複数タイプ複合の改造人間が創れるとは思わなかった。いや、彼がんばったよ」
そう、ここはわたしの研究所。今わたしがここに居るのは、研究員筆頭であるアーチボルドの一大成果を視察に来たのだ。その成果物、新型改造人間6体は、アオイとミズホ相手に模擬戦の真っ最中だった。
3体のスタッグビートル・カメレオン型が光学迷彩を張り巡らせて姿を消し、それによる支援攻撃の中、正面からヘラクレスビートル・ケルベロス型3体が突っ込む。アオイとミズホはミズホの魔法支援を受けてアオイが前衛に立つと言う基本通りの戦術で、それを真正面から受けて立っている。
しかし従来型の改造人間であれば、アオイとミズホのペアであれば10体相手であっても普通は楽勝なのだ。それが6対2でぎりぎり食い下がっている。単純な戦闘能力と言う面からも、連携を取れる頭脳の面からも、新型改造人間は以前のタイプの数倍は強力であった。
「設計基は魔王様が出した物だと聞きますが……。現状の施設、現状の設備で創るための生産技術はアーチボルドの工夫ですか。素晴らしい才能ですね」
「本当にね。この努力には、何らかの形で報いてやらないとなあ」
ブザーが鳴る。模擬戦は結局、決着がつかずに終わった。アオイとミズホが押してはいたものの、6体の新型改造人間を押し切れなかったのだ。
「……ふう。魔王様、これ凄い。この6体、凄くいい出来」
「あと10分時間があれば、押し切れたと思うんですが……」
「ご苦労様。スポーツドリンク用意してるから飲んで」
そこへアーチボルドがやって来る。敬礼をして来る彼に答礼を返すと、わたしは彼に賞賛の言葉をかけた。
「アーチボルド、素晴らしいよ。まさか今の段階の設備で、これだけの物を創るとはね。正直これらの完成は、次回の施設拡張時に予定してある新型の調整培養槽とかが無いと無理だと思っていた」
「はっ……。ありがとうございます。……ですが、かなり研究員たちに無理を強いましてございます。やはり機械的に調整培養槽を監視できるシステムが無いと、このレベルの量産は難しいですな」
「ああ、やはりそうかね。眠そうだな、アーチボルド。数日の間、ときどき交代したとは言っても、延々調整培養槽を見張り続けたんだろう?」
「は、はい……。常々無理はするなと魔王様が仰られているのに、ついつい興が乗りまして……。
で、ですが通常任務には支障なく!」
そしてアーチボルドは左手に持っていた書類束を捲る。
「ところで下級研究員に任せておいた、豚鬼や人食い鬼の後天的遺伝子改造ですが……。最初のサンプル群については、成功いたしました。」
「「おお!?」」
「「ほ、本当!?」」
わたしとザウエル、アオイとミズホの叫び声が重なる。うん、豚鬼と人食い鬼には、本当に悩まされてたからねえ。
「従来の学習能力に対し、豚鬼は372%増し、人食い鬼は298%増しの結果が出ております。更に、性格も従順になります。なんとか犬妖の頭のいい個体レベルには、物分かりが良くなりました。元が低いので、372%とか298%とか言っても大した事は無いのですが。
しかも学習した事柄により、本能を抑える事もしっかりできております。これと軽度の洗脳教育を組み合わせる事で、理想的な兵士とする事が可能であります。……しかも、豚鬼でしかまだ確認できてはおりませんが、子供にも遺伝する事を確認しております!
人食い鬼についても、先日魔王様に造っていただいた中央の大型電脳でのシミュレーションで、間違いなく子供に遺伝するとの計算結果が! ……これで後は、大量の豚鬼と人食い鬼を『処置』するための施設ですな。」
「いや、良くやってくれた! 本当に! 賞与を約束しよう! 何なら休暇もだ!」
「あ、いえ。休暇よりは、もっともっと働いて、知識を得たいものですな。」
ははは、このワーカホリックめ。え? 他人の事言えない? まあ、置いといて。
しかしこれで、豚鬼と人食い鬼の問題解決に弾みがつく。そうすれば、国内の問題になっていたあいつらによる近隣種族への襲撃行動が何とかなるだけでなく、農耕や畜産もやらせられるかも。前線の兵士としての役割も任せられる。
それにこれを応用すれば、邪鬼や邪妖精も組織に向いた性格にできるかも知れない。今の段階だと、他種族をいたずらに殺して楽しんだり、集団行動できなかったりだからなあ。今だと『ギアス』の魔法で、味方殺しはしない様に強制してたりするけど。
何にせよ、これで国内問題が1つ解決しそうだ。いや、好事魔多しとも言う。気は引き締めなきゃ。ああ、でも本当に、これで一安心だ。いや、だから気を引き締めろってば、わたし。まだコンザウ大陸を制覇し、世界征服するまでには随分と遠い道のりなんだから。
ようやっと、豚鬼と人食い鬼の問題に目途が付きました。結局は遺伝子改造する事になりましたけどね。




