第92話 いよいよ侵攻開始
ガウルグルクが率いた、コンザウ大陸侵攻軍は今頃『ヴィザー・ル新王国』の南岸に上陸作戦を行っているはずだ。と言うか、先程通話水晶で連絡があった。『これより上陸作戦を開始する』ってね。
なんとかして、上手く敵の『魔法銃士隊』を逃さずに殲滅できるといいんだが。いや、ガウルグルクやオルトラムゥ、鉄之丞、ゼロ、ザウエル、何よりもアオイとミズホに相談して、逃がさないための算段はつけてるんだけどさ。万一、ってのがこの世にはあるからねえ。不安な物は不安だ。
「どうしたの? 魔王様」
「ん? いや、『ヴィザー・ル新王国』の『魔法銃士隊』を上手く逃がさずに殲滅できるかなあって」
「あまり心配しない方がいいと思う。それに、万一逃げられて他国がその技術を実用化したとしても。まだ剣魔国の軍隊が、技術的に敵を周回遅れにして突き放してる事は確か。いざとなったら、今訓練してる戦車部隊とか装甲車隊とかをどんどん追加で増派すればいい。
まあ、あの部隊は万一のため、取っておきたい予備部隊だってのもわかるけれど」
うん、アオイの言う通りだね。もし駄目だったら、駄目だったときの手も幾重にも考えてあるし。
「ふう、たしかに。そう言えば、そろそろミズホが鍛錬から戻って来る頃合いかな? お茶の準備でもしようか」
「うん」
「「「「「「ウオオオォォォ!」」」」」」
6名の文官たちが、色めき立つ。それほどまでに毎日のお菓子が楽しみか。まあ、彼らも頑張ってくれてるし。手作りのお菓子で士気が上がるなら、ありがたい事だ。
「いえ! 魔王様御手ずからお作りになられたお菓子!」
「金では買えぬ価値があります!」
「しかも何より美味です!」
「本部基地の周辺街はバルゾラ大陸でも最も発展しておりますが、そこ一番の菓子店でも魔王様のお菓子には敵いません!」
「……そうなのかい? アオイ……」
「うん。正直、魔王様のお菓子を食べると、街のお菓子屋さんのはちょっと物足りないかな」
自分が菓子作り下手なつもりは無かったけど、そこまで腕が上がってたのか? ああいや、まだ街の菓子店の技量がそこまで発展してないんだろうな。うん。数年前までは、文化的とはとても言えない社会だったし、魔物たちは。
「まあ、褒められるのは嬉しいが……。今日はチョコプリンとチョコアイス、チョコレートソースがあるから、これにちょっと手を加えてチョコパフェにでもしようか。」
「「「「「「ウオオオォォォ!!」」」」」」
おお、凄い反応だ。あ。アオイの表情も笑顔になってる。うん、喜んでくれるのは嬉しいよね。
司令室に戻って来たミズホと、報告に来たザウエルも加えて10人でチョコパフェを頂く。ちなみにザウエルの報告内容は、アイアン・アント型改造人間の量産が軌道に乗った、と言う物だった。
「はふぅ……。いやあ、幸せですねえ。絶品ですよ、このチョコレート・パフェは」
「ははは。君には色々たくさん重荷を負わせてるからねえ。お菓子で良いなら、いつでも食べに来るといいよ」
「ありがたく、仰せに従いますとも」
ザウエルがこの調子で、アオイとミズホも幸せそうにパフェを頬張っている。文官6名も、楽しそうだ。わたしも自分の分のパフェを口に運ぶ。うん、いい出来だ。いい出来なんだが。本当に街の菓子店の菓子より美味なのか?
……上がって来る報告では、菓子店はけっこう人気だって話だったんだがなあ。やっぱりまだまだ、精進が足りんのかもな。もう2~3店舗ぐらい菓子職人に店を出させて、競争させないと駄目かな。……!?
「魔王様!」
「うん」
アオイがこちらを見て小さく叫ぶ。わたしは頷いて、司令室に据え付けられている大型の通信宝珠を思念で起動する。うん、通信宝珠が呼び出し音を立てていたんだ。
『こちらガウルグルク、魔王様応答願います』
「ガウルグルク! 何かあったのか!?」
『はい。我々コンザウ大陸侵攻軍は、現在『ヴィザー・ル新王国』の王城を攻撃中でありますが……。敵は『魔法銃士隊』を戦闘に出さずに、王族などの護衛に就けて隣国へと脱出させようとしておりました。魔道軍団の間諜がその事実を掴み、急ぎ報告してくれましたので……。
北、東、西の国境へそれぞれ派遣して敵の後背を押さえさせておいた、魔竜と蜥蜴人や巨鬼族で編成した空挺降下部隊に、大至急その敵脱出部隊の捜索を命じまして。各々の国境で、それぞれ王族と思しき者に率いられた『魔法銃士隊』と交戦。殲滅いたしもうしたが……。ただ、それが『魔法銃士隊』のすべてであったかどうか……』
なるほど、『ヴィザー・ル新王国』は抗戦不可能と見て、王族と共に『魔法銃士隊』を逃がし、そして魔法で銃を強化するという『知識』を他国へ伝える事を選択したか。上手くすれば全ての脱出部隊を補足できていただろうが、ガウルグルクはその自信が無い、か……。
「いや、君はやれる事はきっちりやった。良くやってくれた。これで逃げられたなら、仕方ないさ。一戦もさせずに『魔法銃士隊』を他国へ逃がす可能性は、確かに考えてたけどね。想定の下位の方に置いていたからね……。もし逃げられてたとしても、それは君の失態じゃなくわたしたち後方の司令部の責任だ。
まあ、もしもの事態に備えて訓練させて配備していた、空挺降下部隊が役に立った様で何よりだ。魔竜たちと、エリートである特殊部隊から更に選抜した蜥蜴人や巨鬼族で編制した空挺降下部隊か。彼らは戦いが一段落したら、賞さねばね」
『……はっ! それでは某はこれにて! 次は戦勝報告ができるかと存じます!』
「うん。待ってるよ」
敬礼をするガウルグルクに、わたしは答礼を返す。……『魔法銃士隊』の一部が万一他国へ逃げのびていたとして、他国は『ヴィザー・ル新王国』ほどには銃砲が普及していない。銃火器をあんまり信用してないんだよね。魔法で銃器を強化する戦術をモノにするには、時間がかかるだろう。
となれば、少なくとも緒戦の間はそこまで心配はいらない、か。『ヴィザー・ル新王国』を叩き潰したら、東にある『ヴィザー・ク王国』、更にその東の『タラント連邦』、海を挟んで南にある島の国家『サマー国』『フィンザ国』を順番に攻め滅ぼす。そうしたら、いったん侵攻を停止して本国とアーカル大陸からの増援を待つ。
同時に占領地の開発を進めて、敵陣営との間で格差を見せつけないといけないな。占領地の方が豊かな暮らしをしている事を敵の一般民衆に見せつけないと。
「……そう言えば、これもあったな」
「どうしたの? 魔王様」
「ああ、アオイ。いや、このコンザウ大陸の東の海、東方大洋にあるこの小さな島。バルザンズ島の調査もやらないとなあ、と。この島にかつて存在していた悪魔族。人類種族はこの島を攻め滅ぼした後、何故かこの島に入植もせずに放置しているんだ。その理由があるならば、確認しておきたくてね」
「あ。あたし、ちょっとだけその件について話を聞いた事あります。リューム・ナアド神聖国の神官たちが。なんでも、なんか祟りがあったみたいですけれど。」
「祟り、ねえ……? ありがとうミズホ」
うん……。バルザンズ島の調査隊には、耐魔、耐呪装備の他、対BC兵器なんかの装備も持たせておこう。場合によっては、わたしも出向いた方がいいかも知れない。……この島、半ば以上勘だけど、もしかしたら歴代魔王に関する情報が遺されているかも知れない。
……歴代魔王の大半は、この世界を破壊して蹂躙する事しか頭に無い様だった。魔王って、何なんだろうな。
いよいよコンザウ大陸との戦端が開かれました。そして魔王様、色々悩みは尽きません。そして悪魔族の地、バルザンズ島。魔王という存在そのものに関する疑問。はたしてそれが解決するのでしょうか。




