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第79話 宇宙に想いを馳せながら

 魔王軍本部基地司令室にて、わたしはアーカル大陸に残った魔獣将ガウルグルクからの報告を聞いていた。


『……と言うわけで、ゾアーム魔獣軍団大尉以下6名の魔王軍北極探検隊北極点攻略班、並びに補給所や後方一時基地における後方支援班36名全員が、北限の都市であるロコモス市まで無事帰還いたしもうした。

 アーカル大陸における魔王軍本部であるヴェード基地に戻って来るのには、もうしばらくかかりそうですな。』


「そうか、それは良かったよ。これで一安心だね。メダルの授与と、パレードの準備をしておかないと。」


『魔王様、ご自分では虚飾をお嫌いであられますが、部下の表彰は好んで行いますな。アーカル大陸制覇が成った時も、英雄的行動をした兵士を自ら賞しましたしパレードも行いもうした。テロで斃れた兵士たちも、犬妖の1体に至るまでその死を嘆き、英雄勲章をお与えになられた。』


 ガウルグルクの言葉に、わたしは米神を掻く。


「……えーと、変、かな?」


『いえ、その様なことは。むしろ配下の魔物たちはそれにより、より一層魔王様に親しんでおりますな。自らに厳しく、部下に篤い得難きご主君にあらせられると。更にアーカル大陸の人類種族もまた、同じく。』


「ほう……。人類種族は、未だわたしの支配に引っ掛かりがあるかと思っていたけどね。」


『あるでしょうな。しかし、大分緩和されてきた様子にございますれば。』


「それはありがたいね。」


 わたしはおもむろに、書類を取り出す。


「うーん、そうなると……。半年後の南極点探検隊に、アーカル大陸の人類種族のうちで協力的な者を組み込むとしようか?特に最低1名は南極点の攻略班に入れたいな。魔物と人類種族の融和の象徴として、使えるなら使おう。」


『と、なると……。寒さに弱い森妖精(エルフ)族はいけませぬな。足の遅い土妖精(ドワーフ)族も向かぬ……。やはり人間族の中から、優秀な者を選び出すといたしましょうぞ。』


「それと世界最高峰の、アーカル大陸ヘレイス山脈ボーカッド山にも、近年中に登山隊を送り込もうかね。これも魔・人混合のチームで。酸素ボンベとか、(つく)っておかないとなあ。

 酸素ボンベと言えば……。やっぱり宇宙だよなあ。」


 ガウルグルクは、わたしの言葉に唖然とする。


『は……?う、ちゅう、でございますかな?』


「うん。まずは無人の人工衛星を打ち上げるところから始めないと。その次は有人の小型カプセルを軌道に乗せて……。そのうちに宇宙基地を建設しないとなあ。軌道エレベータも。

 あとは月……。3つの月のどれが一番いいかな?」


『も、申し訳ありませぬ。わたしめには、何の話をしておるのか、良く理解できませんで……。』


 面食らった顔のガウルグルクに、わたしは謝罪する。


「ああ、済まない。ちょっと話が飛び過ぎたね、宇宙だけに。まあ簡単に言えば、あの夜空に浮かぶ月に、魔物や人類種族の探検隊を送り込もうって話だよ。まあ、世界を制覇してから後になるとは思うんだけどね。

 でも人工衛星ぐらいは早目に打ち上げて、戦略に役立てたいな。ああ、人工衛星って言うのは、小さな小さな、作り物の月のこと。」


『……月に、探検隊を。月とは魔物や人が歩き回れるほど広いのでありますかの?いや、遥けき遠くにあります故、小さく見えるのは理解できもうすが……。』


「あー、今度本部基地にガウルグルクが帰って来たら、魔法で知識を頭脳に転写してあげるよ。きっと驚くと思うよ。

 さて、それじゃあ今回はこの辺にしておこうか。」


『はっ!ではこれにて失礼いたし申す!』


 ガウルグルクは敬礼をし、わたしは答礼をする。そして『通話水晶』の通信接続が切れた。アオイが気の毒そうな表情で、ガウルグルクの映像が消えた場所を眺め遣る。


「魔王様……。突っ走り過ぎ。」


「あー、ガウルグルクには悪いことしたかなあ。」


「うん。」


 アオイの冷静な返しに、わたしは凹んだ。アオイは小さく微笑むと、お茶の準備を始める。文官たちが、いそいそとそれを手伝った。わたしは気持ちを切り替えて、冷蔵庫を開ける。


「今日のお茶請けは、アップルパイの生クリーム添えでいいかな?なんならパンプキンパイもあるけど。両方欲しいってのは無しだよ?1人どちらか片方。」


「あ、わたしはアップルパイで!」


「自分はパンプキンパイが欲しいです!」


「わたしは、わたしは、あー、どうしよう……?」


「パイに合うのは、何のお茶がいいかなあ。」


「緑茶はどうかね?」


「いや、普通紅茶でしょ。緑茶は饅頭や大福餅のときにしましょう。」


 文官たちが口々に言い合う。わたしは2種類のパイを切り分けた。もうすぐ自主鍛錬からミズホも帰ってくるはずだ。ミズホはどちらかと言えばアップルパイの方が好みだったから、その分をあらかじめ取り分けておこう。


 あとアオイもアップルパイの方が好みだから、そうなるとわたしがアップルパイを取ると足りなくなるな。じゃあわたしはパンプキンパイにしようかね。


 そう思ったとき、アオイがパンプキンパイの皿を手に取った。おや?


「……たまには、いいかと思って。」


「ふむ、なるほど。……わたしもパンプキンパイにしようか。」


「あれ?魔王様、アップルパイの方が好みじゃなかった?」


「たまには、いいかと思ってね。」


 そしてわたしは、パンプキンパイを一口食べる。ほっこりとした甘さが口の中に広がる。……有人衛星打ち上げるなら、宇宙食の開発も必要だな。欠片が飛び散りやすいパイ類は駄目だろうなあ。


 そんな事を思いながら、アオイと並んでパイを食べるわたしだった。

 いったん宇宙の事を考え始めると、そこから離れられなくなる魔王様。まずは地に足を着けて、一歩一歩進まないと駄目ですね。

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