第74話 またも謁見……え?
今日も今日とて、わたしは魔王軍本部基地の司令室で、書類仕事に精を出していた。アオイとミズホ、文官たち6名も、同様に各自の書類仕事をこなしている。と、そこへ部屋に据え付けてある大型の『通話水晶』が呼び出し音を立てた。
わたしは急ぎ、『通話水晶』を起動する。
「……ガウルグルク!」
『はっ。此度は急な連絡、申し訳ございません魔王様』
映像の中のガウルグルクは、律儀に敬礼をして来る。わたしとアオイ、ミズホも答礼を返した。
「何かあったのかい?アーカル大陸で、何か事態の急変でも?」
『いえ、そう言うわけでは無いのですが……。大陸西にあるヴァルトーリオ列島から、魔王様との謁見を望む者が参りました。列島の民衆代表だと言う事ですが……。』
「!?」
ヴァルトーリオ列島とは、アーカル大陸の西側にある列島で、大きく3つの島より成る。一応は『ヴァルタール帝国』が領有宣言をしていたが、実質的に統治下に置いてあるかどうかは微妙な土地でもあった。
表向きは列島の支配者を辺境伯に任じ、『ヴァルタール帝国』の領土であると周囲にはアピールしていたものの、実質的には国力は小さいが独立国と見て良いのでは、と思わなくもない土地である。
先頃に『ヴァルタール帝国』の首都を陥とした後の掃討作戦の一環として、この列島にも兵を送り込んで平定はしたのだが……。報告では支配者であったジェレマイア・ダード・ハトルストーン辺境伯および家臣の主だった者は、全員討ち死にしたとの事だ。だが……。
「そういえば……。ハトルストーン辺境伯および家臣の死にざまだが。何故か死体が残らぬ様な死に方ばかりだったらしいな。事後の調査は命じておいたんだが、結果は未だ出ていない……」
『はっ。……その件に関しましても、此度の謁見希望者は、何かしら匂わせる様な発言をしておりますれば』
「そうかい……。」
わたしは考え込む。と、そこへガウルグルクが何かしら言いたげな様子を見せた。だが彼は、言葉を飲み込んでしまう。
『あ……。』
「何だい? 何か気になる事でも?」
『あ、いえ……。気のせいやも知れませぬ故に……』
「いや、気のせいでも構わない。何かしら、そう言う勘働きは無視してしまうのは、けっこう怖い物だよ。特に歴戦の勇将、ガウルグルクの勘だ。おろそかにできる物じゃない。」
『はっ!お褒めに与りまして、光栄です!では……』
ガウルグルクは話し始めた。
『実は……。謁見申し込みに来た者と会見した際にですな。微妙な違和感を感じたのでございます。』
「ほう?どんな違和感だい?」
『それが……。うまく言い表せぬのでございます。その場にいるのに、どことなく実在感が無いと言いますか……。いえ、わたしのこの耳には相手の心の臓の拍動もかすかに聞こえましたし、鼻には、きちんと汗の臭いも届き申した。なれど……』
そしてガウルグルクは、言葉に詰まって首を傾げる。わたしは徐に、その後を続けた。
「なれど……実在感が薄い? まるでその場にいないかの様に?」
『はい……』
もしや……と、わたしは思った。その状況に、思い至る節があったからだ。それは、ある魔法の効果による物の可能性がある。
……『パペット』の魔法、それが一番しっくり来た。
「……アオイ、相手の船旅の時間や余裕も考えて、10日後に謁見の時間を予約できるかい?」
「できるけど……。会うの?」
「うん。こいつは無視するとまずい気がするんだ。まあ、『ゲート』の魔法陣を使わせるわけにもいかないし。やはり船便だろう。」
「わかった。」
アオイがスケジュールを調整し、10日後に予約を入れる。さて、わたしの予想、と言うよりも憶測が当たっているならば……。
そして10日が過ぎた。既に例の謁見希望者は、3日前にバルゾラ大陸へと到着している。この日わたしは、ヴァルトーリオ列島からの謁見希望者に先んじて、他の謁見希望者の陳情などを聞いていた。まあさほど陳情の類は多く無く、しかもたいした内容は無い。無いんだが……。
謁見にはいちいち大会議室を押さえてそこを使ってるんだが、立国以来は陳情希望者とか多いからなあ。専用の部屋を確保した方がいいんだろうか……。だが貴族階級とかいないしなあ、ウチの国。謁見という行為そのものの数が、他国と違ってかなり少ないんだ。
うん、やっぱりわざわざ部屋を作って確保するほどの事じゃないな。それよりは工数を別な事に使った方がマシだ。
そんなわけで、バルゾラ大陸の最後の謁見者が大会議室を退出する。そして取次ぎ役の戦闘ドロイドが、ヴァルトーリオ列島からの謁見者を呼び入れた。入室して来て平伏するその人物を『視』て、わたしは思った物だ。やはり……と。
今回の謁見には、部下の魔竜たちの軍事演習でどうしても手が離せなかったオルトラムゥと、アーカル大陸に居るガウルグルクの2名以外、全ての幹部連中を同席させている。しかしその中でわたしと同じ事に気付いたのは、常に霊的知覚力を働かせている……と言うよりも、霊的知覚力しか無いと言うべきな、鉄之丞だけだった。
鉄之丞は僅かにこちらへ頷く。わたしも頷きを返す。そのわたしたちの微妙な仕草で、アオイ、ミズホ、ザウエル、ゼロもまた状況を理解した。ザウエルが謁見者に何か言おうとするのを右手で制し、わたしは口を開く。
「……ふむ。まあ身体が大きいからの。直接本体で来るのが難しいのは理解できるが、な? 『パペット』の魔法で、義体を依り代にして謁見に臨むのは、いささか無礼ではないか? のう、バートランド・コルボーン……。否、巨人族の……長、かの? ふむ、『カカ』と言うのか。」
バートランド・コルボーンと言う偽名を使って謁見を申請してきた巨人族の長は、名乗っても居ない真名を知られている事に驚愕した模様だ。『パペット』の魔法の依り代である義体ではあったが、こいつはその顔面に、滝の様に汗を流していた。
ああ、いや。この世界の魔法には存在しない、『真名看破』の魔道の術による物なんだけどね。魔道の術は直接的な攻撃力はこの世界の魔法に一歩譲るが、小細工は得意なんだ。あと、『霊視力』と『千里眼』の術法も併用して、この義体から延びる『魂の緒』を辿って、本体を『視』たんだが。
ちなみに鉄之丞が、こいつが義体である事に気付いたのも、『魂の緒』がこいつの義体から延びてるのを霊的知覚力で知ったためだ。そして鉄之丞は、常日頃司令室での会議で、『パペット』の魔法を使って彫像を依り代にして会議に参加している、オルトラムゥの姿を見てるしな。
閑話休題。『千里眼』で『視』た結果なんだが。本体である巨人が、いかにも偉そうな装束を着ててさ。ちょっとだけ劣る装束を着た、これも偉そうな巨人に取り巻かれててさ。いかにも偉そうだったから長かなーって。そう思ったんだが、当たりだった様だな。
この本名がカカとか言う巨人……。とりあえず第1ラウンドは一本取ったが……。はてさて、どうしたもんだろうな。
さて、謁見を求めて来たのは巨人族の長でした。先制パンチは上手く行きましたが、はたしてどうなる事か。




