第72話 爆弾発言
魔王軍本部基地の地上部分にある建物のうち1棟、その建物にある大会議室を1つ押さえて、わたしはアーカル大陸各地からの陳情団を待ち受けていた。わたしの両脇には、仮面で顔を隠したアオイとミズホが控え、更にザウエル、鉄之丞、ゼロ、文官たち6名が並び、そしてその周囲を40体の親衛隊員の戦闘ドロイドが固めている。
取次ぎ役の、これもまた戦闘ドロイドが声を発する。
『魔王様、あーかる大陸ヨリノ陳情団12名、オ目通リヲ願ッテオリマス』
「うむ、通せ」
『了解イタシマシタ』
会議室の扉が開き、12名の人類種族……。人間族8名、土妖精族3名、森妖精族1名がこの部屋に足を踏み入れて来る。
その顔は緊張感に溢れているが、部屋の様子を見ての驚きは隠せなかった。まず間違いなく、この部屋の質素さに驚愕したのだろう。
だが驚きはしても、彼らはここがわたしの前……魔王の前であることを忘れはしなかった様だ。彼らは一斉に平伏する。わたしは彼らに声をかけた。
「面を上げよ。直答も許すぞ。……どうした? ああ、この兵たちに気圧されたか? くくく、遠来の客人には無礼かとも思うたがの。我は万が一を恐れねばならぬ立場故にの。
『JOKER剣魔国』の全てが、我が双肩にかかっておるのだ。それこそ本当に、万が一にも我が害される様な事があっては、我が国は大混乱に陥る。
汝らを威圧するつもりは毛頭無かったが、部下たちが許してくれなくての。臆病者と思って笑ってくれても良いぞ。
それともこの部屋に驚いたかのう? まあ、客人を迎えるには粗末やも知れぬが、実は下手な宮殿の謁見の間などよりも、金も技術もかかっておるぞ?」
「魔王様は虚飾をお嫌いだ。質実剛健さを好まれる。この部屋の表面的な質素さなどで、侮ってもらっては困る」
ザウエルが厳しく聞こえる声で、陳情団に向けて言葉を発する。陳情団の者たちは、慌てて再度頭を下げた。わたしは柔らかく聞こえそうな声音を作って、おもむろに言った。
「ザウエル、そう脅かすでない」
「はっ」
「さて、遠くアーカル大陸から来た者たちよ。面を上げて、ここまで来た目的を果たすがよい。前から順に、陳情を聞こうではないか。まずは名を名乗り、要件を言え」
「は、ははっ!」
一番前にいた人間族の中年男性が、前にいざり出て一礼し、口を開いた。
「わたしめは、アーカル大陸は元『シャハン国』首都、現シャハン州の州都ザラ・シャハン市より参りました市長補佐役の1人、ライオネル・コンロンと申します。
本来は市長が参るべきところでございますが、未だ手を離せぬ状況にございますれば、わたしめが代理として……」
「うむ、それは構わぬ。市長ともなれば、数週間から数か月も市を空けるわけには行くまいて。で、要件を申せ」
「ははっ!実は戦災孤児が、我が市だけでなく元『シャハン国』全域、シャハン州全体での問題となっておりますれば。我が市やその他の都市、街々におきましても乏しい予算の中、孤児院を運営して収容せんとしておりますが、力及ばず……。
どうにか魔王様のご慈悲を持ちまして、お力添えをお願い申し上げたく……」
ライオネルの陳情に対し、わたしは言葉を返す。
「うむ、その件については既に聞き及んでおる。孤児院と、孤児たちのための職業訓練施設を建設、増設すべく補助金制度を立案しておるところである故、安心せよ。ただし制度の実現には、汝らの積極的協力も必要ぞ」
「ははっ! ありがたき仰せ! わたくしめらも、尽力いたします!」
「うむ、それで良い。……では下がって良い。次の者、前へ出よ」
ライオネルが下がり、次に控えていた者が前へといざり出て来た。
森妖精族の青年、バートルミー・ダヴェンポートが陳情を終えて、その場を下がって行く。森妖精族居住地近くにおいて、人間族との衝突や確執が敗戦により表面化してきたため、人間族の横暴を抑える形で仲裁して欲しいとの要請だった。人類種族の内部でも、色々問題がある様だ。
これに関しては双方の言い分を聞かねばならないので、とりあえずバートルミーにその旨を伝え、悪い様にはしないと約束して引き下がらせた。まあ、バートルミーの話を聞く限りでは人間族の方が一方的に悪い様に聞こえたが、主観の違いと言う物もあるだろう。
とは言え、森妖精族はこの問題に際し、魔王であるわたしを支配者と認めて陳情をしに来たんだ。その辺りは酌んでやらなきゃなあ。
森妖精族バートルミーが下がった後で、最後に残った1人の人間族が前に進み出て来た。さて、こいつが一番の問題だ。と言うか、一番の難物だ。わたしの両脇に控えたアオイとミズホから、必死に抑えてはいるが抑えきれない怒気が立ち昇る。そう、こいつが例の人物だ。
「わたしが、『リューム・ナアド神聖国』にて司教の地位を頂いております、アーロン・アボットにございます。以後、お見知りおきを……」
「うむ。で、汝の申したいことは、何だ?とくと言うがよい」
「その前に……。1つばかりお願いがございます」
「む?言うてみよ」
このアーロン司教、さすがに油断できない。なんと言うか、目の光が他の陳情者と違う。油断したら、一気に持っていかれそうだ。アーロン司教は願い事を口にする。
「これからわたしが陳情する内容には、我が『神教』の奥義に属する秘密に触れねばなりませぬ。魔王様の周囲の方々はやむをえませぬが、できる限り知る者を少なくしたいのでございますれば。どうか他の陳情者たちを、先に退出させていただけないでしょうか。無論、船旅の間にこの者たちの了解は取っておりますれば」
「……ならば良かろう。これ」
『ハッ!』
扉の脇に控えていた戦闘ドロイドたちが、他の陳情者を会議室から退出させる。他の陳情者は、確かに先に言い含められていたのだろう、大人しく退室していった。わたしはアーロン司教に顔を向ける。
「これで良いか?汝が陳情したいことを申すがよい」
そしてアーロン司教の言葉に、わたしは驚かされた。アオイやミズホもまた、驚き怒気を強める。何故なら、アーロン司教は我々が到底認められないことを言ったからだった。
「魔王様にお願いしたいのは、『神教』の布教を許可していただきたいのでございます」
「「「!?」」」
まさしく、爆弾発言だった。
アーロン・アボット司教は、ほとんど捨て身で爆弾発言をかまして来ました。『神教』は『リューム・ナアド神聖国』を本山としているだけあり、教義は魔物に対して狭量などという言葉で言い表せる様な代物ではありません。それの布教を許可しろと言うのは、まあ反逆を認めろと言っている様なものですね。




