表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/128

第65話 今の魔王領は

 とりあえず少々の休憩を挟んで、なおも親衛隊副長ミズホに対する説明は続けられた。ザウエルの澄んだ美形声が、魔王軍本部基地司令室に響く。


「さて、じゃあ次は魔王領の現状についてですね。今、魔王領は元から魔物の大地だったバルゾラ大陸……。人類種族領域ではバルキーゾ魔大陸と呼ばれてるようですが、魔物側の呼び方に従って呼びますよ。

 ともあれそのバルゾラ大陸と、ほぼ全土を併合したアーカル大陸から成ります。アーカル大陸では、わずかに元『ヴァルタール帝国』の兵が残って抵抗にもなってない抵抗を続けてますが、もはや時間の問題ですね」


 書類を繰りながら、ザウエルは淡々と説明をする。


「バルゾラ大陸は、今代の魔王様が出現以来色々と手を尽くしてこられただけあって、一部の豚鬼(オーク)居住地とか人食い鬼(オーガー)居住地とかを除いては、凄まじく発展を遂げています。

 単純労働力が魔王様により(つく)られたゴーレムで賄われていることもあり、鉱物資源の採掘量も莫大です。また石油、天然ガス、石炭の採掘量も増加の一途を辿っています。無論、油田などが枯渇する危険も考え、今の時点から石油代替物に関する研究もおこなわれています。

 ……魔王様主導で」


「魔王様が無茶に忙しい理由の1つ」


 アオイがちょっとだけ厳しい目で、わたしを見る。うん、心配してくれてるのは分かる。分かってる。休みもちゃんと取る様にするから、堪忍してくれ。……いや、休み取りたくても取れないかも知れんが。


「先ほど言った一部を除いた地域では、各都市、各街や各農村にすら電気、ガス、上下水道のインフラが敷設されています。

 最近では軍用の野戦電話の技術をフィードバックしまして、村長とか町長とか、一定以上のいわゆる集団の顔役レベルの家にだけですが、電話も敷設されてます。ゴミ収集などの社会サービスや、それに伴う資源の再利用、ゴミ処理施設の排熱利用なども順調です。

 それとラジオの国営放送が始まってます。まだラジオ受信機が高価なため、これもある程度偉い者の家にあるラジオか、あるいは街頭ラジオに民が集まってるのが良く見られますね。魔王様のラジオ演説が、今のところ一番の人気です。」


「……そんなにわたし、演説上手くないと思うんだけどねえ。歌番組とか、スポーツ競技とかの中継は、まだなんだっけ?」


「歌番組は最近始まりました。ただ以前魔王様が仰っていた様な歌謡曲? でしたか? そう言った物は、魔族など高度な文化を保持していた種族の中からであれば多少は出て来ましたが……。今の段階では、民謡をただ流しているだけですね。

 あとは吟遊詩人の歌ですか。それを流す番組も、勿論作りました。ですがそう言った吟遊詩人が最近歌うのは、魔王様の業績ですので、間接的に魔王様の演説の人気を支える一助になってますねえ。結果として一番人気が魔王様の演説と言うわけでして」


「ぎゃふん」


 唖然とするわたしを放っておいて、解説は進められる。


「で、スポーツ競技はと仰いますが、魔王様が以前仰っていた様な物はまだありません。どちらかと言うと武術の競技会の様な物ならばあります。ですが解説者の上手下手があまりに差がありましてね。

 上手い解説者に当たれば臨場感溢れる解説をしてくれるんですが、下手な解説者は試合が終わってから『今の攻防は云々……』とか単に説明するだけで面白く無いんですよ。ラジオで音だけ聞いてても。結局は実際に競技会を見に行く方がいいや、と言うわけで人気がありません」


「……ラジオ番組に、色々テコ入れする必要があるなあ。あと白黒でもいいから、ブラウン管型テレビを早く生産しないと。ああ、テレビ局側の設備も欲しいな。カメラ技術をもっと高めて、テレビカメラも造らないと……」


 アオイがわたしに突っ込む。


「魔王様、時間あるの?」


「ぎゃふん」


 ラジオ番組へのテコ入れはともかく、テレビの放映開始はまだまだ先になりそうだ。それはともかく、ザウエルの説明はまだ続く。


「あとは鉱工業や農業、漁業、林業などが確立化、機械化されたことにより、効率や生産高が跳ね上がっています。まあ鉱山やら工場やら大規模農場やらは、大半国営なんですが。あらかじめ魔王様が公害対策を前面に打ち出していたため、ごく少数の例外を除いて公害は発生していません。

 少数の例外は、魔王様の命令を守らなかったために発生した物です。無論のこと逮捕して、牢獄に放り込みました。まあ、おかげで公害が発生するとどうなるか実感できたわけですが。それまで僕ら魔族ですらも、公害の概念が判りませんでしたからね。

 輸送に関しても、道路や鉄道のおかげで大陸内に関しては非常に順調です。信号機や街灯の設備も万全ですよ。アーカル大陸への海上輸送については、今のところゴーレム動力の輸送船しか輸送手段が無かったのですが、今後はディーゼル機関……。魔王様、なんでディーゼルって言うんですか?」


「ああ、わたしの元の世界での、発明者の名前だよ」


「了解です。ディーゼル機関の輸送船が就役しましたからね。更に輸送力が向上するでしょう。

 商業も活発になり、大規模な市場の形成、固定店舗の増加などの他、外食産業など今まで魔物たちに無かった概念の商売も始まっていますね。おかげで税金を安くしても、充分な収益が得られています」


「凄いですね……。あたしが見て来たコンザウ大陸とは、文字通り雲泥の差……。あのー、今の段階でまともに戦っても、負ける方が難しいんじゃないですか?」


 ミズホが疑問を呈する。わたしは一応頷くが、否定的な言葉を発した。


「うん。けれどね、勝ったはいいが国が荒れた、となっちゃ困るからね。それに油断はできないよ。科学技術で優位に立っていても、この世界には魔法があるからねえ。油断してると痛い思いをするかもしれない。

 実際……。ガウルグルク、例の事を話してやってくれるかい?」


『承知つかまつった、魔王様。親衛隊副長殿、以前アーカル大陸南部で、『ヴァルタール帝国』に唆された現地抵抗運動勢力が、テロを行ったことがあるのだ。現場は困窮しておる民人への炊き出し現場での。我が軍の魔獣3体と、犬妖16体が殺された。……人類種族の民人、事後に死んだ者含め、最終的に1,522人を巻き添えにしての。

 使われたのは、爆裂系の魔法を込めた、魔道具であったわ。衣服の中に隠せる程度の大きさの物で、それだけの殺傷能力がある。正面戦闘力で言えば、魔王軍に敵う物は無いであろうよ。こちらにも魔法はあるのだし、なおさらよ。なれど、な。魔法の技は個人技故に、この様なテロに用いられると凶悪な威力を発揮する』


「……少数で敵中に潜入して頭目を狙う勇者の手段も、よく考えるとテロっぽいですね。ごめんなさい」


「あーミズホ、気にしない様に。こちらは気にしてないから。ザウエル、続きを」


 ザウエルは頷くと、別の書類の束を取り上げる。


「次にアーカル大陸ですね。完全に併合が完了した元『ヴァルタール帝国』より南の地域については、バルゾラ大陸に追いつくべく大量の物資、資本を投入して開発が進められています。ですが鉄道の路線は未だ大陸中央を南北に走る1本と、東西に走る1本だけですし、大型トラックが走れる道も少ないので、現在道路開発を優先して行っています。

 物資が行き届く領域については、大きめの都市と周辺に限りますが、上下水道電気ガスのインフラが敷設済みですね。ゴミ処理場や汚水処理場なんかも順次建設してます。ただ電話網やラジオ局に電波塔なんかは、まだ先の話です。

 農業改革も、まだ年単位で時間が必要ですので、バルゾラ大陸から食料を輸送しています。鉱工業に関してもまだまだ発展途上ですね。バルゾラ大陸でエンジンや電気の動力に切り替えた工場から、動力用に使っていた大型ゴーレムを中古として輸出して、向こうの工場の動力にしてます」


「バルゾラ大陸ほどじゃ無いにせよ、凄い発展ぶりですね……」


「人材面に関しては、アーカル大陸から留学生を『ゲート』の魔法陣で受け入れて、教育が完了次第また『ゲート』で送り返してます。ごく一部の、こちらに対する忠誠心の高い優秀な者に限られてはいますが……。本音を言えば、親衛隊長殿や親衛隊副長殿の様な例外を除けば、『ゲート』を使わせたくは無いのですけれど。

 いや、万が一のテロを危惧しているだけでなく、魔物の中には人類種族に悪感情を持っている者も未だ存在しますからね。彼らが危険になるのでは、と案じているのですよ。彼らは我々にとっても重要な人材でありますし。ですので対策は取っていますが、万全はあっても完璧はあり得ませんからね。正直心配です」


 ザウエルは手に持った書類から顔を上げると、わたしに向かって言った。言葉の内容は、まあ大体予想通りだったんだが。


「……魔王様、近いうちにラジオか、でなければ『グレート・スピーチ』でバルゾラ大陸中に、一発演説ぶちかまして下さいよ。味方の人類種族は同胞と同じだって」


「あー、うん。アオイ、時間空けられるかな?」


「難しいけど、なんとか準備時間も含めて8時間空けてみる」


 アオイはわたしのスケジュール帳を広げ、色々調整を書き込んでいる。やれやれ、時間を空けたしわ寄せが変なところに来ないと良いんだが。と言うか、対勇者ミズホ一行戦で大きく時間を取ったから、その分のしわ寄せが既にあちこちに来てるんだよなあ。


 ザウエルが説明を締めくくった。


「とまあ、アーカル大陸の発展度合いは今の段階で、バルゾラ大陸の3割ぐらいですね。コンザウ大陸諸国への宣戦布告と出兵は、最低これが8割ぐらいになってから、ですかねえ。何か質問はありますか?親衛隊副長殿。」


「いえ、とても良くわかりました!」


「そうですか。そう言ってもらえると肩の荷が降りますね。……何を頷いてるんですか、魔竜将殿に怨霊将殿。まさか今まで分かって無かったんじゃないでしょうね」


 オルトラムゥと鉄之丞が、焦った様子を見せる。……こいつら、分かってなかったな。


『え、あ、ああいや! 分かっていたとも! ただ、貴殿の説明が懇切丁寧で、きちんと再確認できたから頷いただけだ! そうだとも! なあテツノジョウ!?』


『う、うむ! それがしも魔竜将殿と同感でござれば!』


 慌てる2名に対し、ゼロが肩を竦め、頭を振りつつ言う。


『……コウ言ウ方達ヲ、脳筋ト呼ブノデスネ。勉強ニナリマス』


「ゼロ、歯に衣を着せてあげなさい」


『当機ニハ、歯ハゴザイマセンガ』


「……分かって言ってるだろう、ゼロ。」


 こいつはどこでこう言う台詞や言い回しを勉強して来るのだろう。ザウエルは白い目で先の2名を見つめた。その2名、オルトラムゥと鉄之丞は満面に冷や汗を浮かべている。オルトラムゥはともかく、怨霊である鉄之丞はどうやって冷や汗を流しているのだろう。アオイとミズホ、ガウルグルクが苦笑する。


 わたしは大きく息を吐いて、皆に向かい言葉を発した。


「はあぁ~っ。まあ、もういいだろうザウエルも。さて、今日のところはこの辺にしようか。緊急の議題は無かったよね。解散するとしよう。

 ガウルグルク、アーカル大陸の戦線は頼んだ。オルトラムゥはいつ何時でも部隊を緊急展開できるように。それと海竜にはアーカル大陸の沿岸警備を。ゼロは併合完了した地域の統治と治安維持を万事滞りなく。

 ザウエル、アーカル大陸の残敵とコンザウ大陸への諜報、及び国内に対する情報収集、そして防諜はこれまで通り任せるよ。鉄之丞はバルゾラ大陸の治安維持と沿岸警備をこれもこれまで通りに。

 アオイとミズホは、ミズホの頭脳に魔法で知識を植え付けなければいけないから、施術室まで付き合ってくれ。その後、アオイの指導でミズホの訓練に入る様に」


「「「『『『『了解!』』』』」」」


「うむ、では解散!」


 全員がわたしに敬礼をし、わたしは答礼をする。そしてアーカル大陸からの映像が途絶えてオルトラムゥ、ガウルグルク、ゼロの姿が消える。バルゾラ大陸に残っている者のうち、ザウエルと鉄之丞も司令室を退室した。


「では施術室に案内しよう」

「はい! お願いします!」

「じゃ、行きましょう」


 わたし、アオイ、ミズホの3人は司令室を出て歩き始めた。ミズホはやけに気合が入っている。アオイはそんな彼女を優しい視線で見つめている。わたしはそんな彼女らを眺めやり、世界征服への念……。打倒『リューム・ナアド神聖国』への念を新たにした。

 これでミズホへの解説は完了です。でも、こういう回を作らないと、現状とかがよくわからなかったりしますね。そうかー、アニメでときどき総集編が入る理由がわかったぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 早く攻めに行きたいけど、その前に色々バックアップとかのためにも発展させなきゃで、でも超速で発展させたせいで魔王様たちは凄まじく忙しいんですね( ̄▽ ̄;)
[一言] 字がいっぱいで大変だった……_(:3」z)_
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ