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第57話 勇者一行迫る

 そして瞬く間に、2か月が過ぎ去った。この間、アーカル大陸では更に占領地が増え、およそ旧『ヴァルタール帝国』領の9割近くを支配下に置いていた。残りの地域を攻略するのも、時間の問題である。


 そんな状況の中、新勇者ミズホの一行は着実にバルゾラ大陸へと迫りつつある。わたしたちは勇者ミズホの襲来に備え、日々鍛錬を欠かさなかった。


「はぁっ!!」


「む、流石だね。」


 剣の打ち合う音が響く。今わたしとアオイは地上の演習場の一画を使い、剣技の訓練をしていた。使っているのは、お互いの得物にバランスを似せた、刃のついていない模造剣だ。


 なおわたしは盾も使っている。もっとも模造とは言えど重量のある鉄の塊なので、下手に命中させたりしてはアオイに大怪我をさせてしまいかねない。


 ちなみにわたしは改造人間である上、魔王として召喚された際に強大な能力を与えられているので、アオイ用の本物の剣ならばともかく模造剣が当たった程度では傷ひとつ負わない。


 それよりも、生体レーザーや生体熱線砲等々、体内に内蔵されている武装をうっかり使ってしまわない様にする我慢の、精神的疲労の方がぶっちゃけ負担である。


 アオイが大きく息を吐く。


「ふうぅ~っ。技量はなんとか一流程度だけど、相手の動きを感じる知覚力、それに反射神経や敏捷性、パワーなんかが段違いと言うか圧倒的だから、総合的に言えば超一流の剣士でも魔王様には敵わないと思う」


「そう言ってくれると嬉しいね。だけどわたしの本領は素手戦闘……。いや、そうじゃないな。体内の各種武装を使っての中距離~遠距離での射撃戦闘が本領なんだよね」


「はぁ……。本領じゃない剣での戦闘でコレって、魔王様って、ほんと魔王ね……」


「褒められてるのかな……?」


 とりあえず休憩にして、わたしたちは用意して来たスポーツドリンクを飲む。わたしの戦闘形態には唇が無いのでストローが使えず、あいかわらずのガブ飲みである。何と言うか、今更人間形態を取る必要性も無い気がするし。


 充分休んだし、続きを始めようかと立ち上がった時、わたしの改造人間としての超人的な感覚に、よく見知った魔族の青年の気配が引っ掛かった。


「あ。ザウエルが来るな」


「え? 緊急報告かな?」


 演習場の向こう側に、暗い灰色のローブに身を包んだザウエルが歩いて来るのが見える。その歩みは、小走りと言っても良いぐらいには急いでいる。


 なお、緊急報告があるのならば転移魔法で現れればいいと思うかも知れないが、魔王軍本部基地やそれに準ずる施設内は、転移魔法による奇襲を防止するために、転移の類を防止する結界が張られている。例外は『ゲート』の魔法陣ぐらいだ。


 ようやくザウエルがこちらに到着し、敬礼をする。わたしとアオイは答礼を返した。


「魔王様、来ましたよ。新勇者ミズホです。バルゾラ大陸の東岸に船を停泊させて、ボートで上陸しました。今は小鳥に偽装した使い魔で様子を窺ってます。それによると、何回か一行の魔道士が転移魔法を試した模様です。

 ですが、そやつが記憶している転移可能範囲内の景色が開発により様変わりしていたため、転移先のイメージが掴めずに何度か魔法に失敗し、数回目に成功。おかげで魔力をけっこう消耗してくれた様ですね」


「その調子で何度かずつ転移魔法に失敗してくれれば、魔力消耗を回復するため、時々休憩を入れるだろうね。となると、もうしばらく……。数日単位で余裕はあるかな?本部基地東にある平原で、待ち構えようと思っているんだけどね」


「魔王様……」


 アオイがわたしを呼び、直後歯を食いしばる。わたしはアオイの頭に手を乗せて、撫でさすった。


「大丈夫、手筈通りに頼むよ。『パーフェクト・ハイド』の魔法を見破れるほどの相手は、いないと言う報告だったろう?この時のために練習した魔法じゃないか。上手く行くさ」


「……うん」


 わたしはザウエルに向かって言った。


「予定地点の周囲に、転移封じの結界を一時的でかまわないから張ってくれ。奴らが歩いて現場に入ってくる様に、そして奴らが転移で逃げられない様に。それと警備員などの入れ替えは、今の内に頼むよ」


「了解いたしました」


 ザウエルが敬礼をする。わたしとアオイが答礼をすると、彼は(きびす)を返して立ち去った。わたしは口から笑い声を漏らす。


「くくく……。勇者ミズホ以外の3名には、たっぷりと思い知って貰おうじゃないか。奴らはアオイを泣かしたんだ」


「あ、ま、まだ覚えてたんだ」


「ははは、泣くのは悪いことでも恥ずかしいことでもないさ。泣かせるのは悪いことでも恥ずかしいことでもあるがね。さて、実戦用武装と『アレ』を用意しに行こうか」


 わたしは先に立って歩き始めた。行く先は、わたしの工房である。そこにある『アレ』を上手く使えるかどうかで、勇者ミズホを救えるかどうかが決まると言っていいだろう。


 ここでアオイが小さな声で呟いた。わたしの超人的な感覚で、やっと聞こえるかどうかと言う小さな声であった。


「魔王様にも泣かされたことある。うれし泣きだから、構わないけれど」


「……」


 わたしにも聞かせるつもりは無い言葉なのだろう。だからわたしも沈黙を守る。……だが正直、気恥ずかしい。


 さて、これから先はちょっとばかり綱渡りだ。勇者ミズホをこちら側に取り込むために、彼女に真実を知らしめなければならない。彼女が元の世界に帰還できないこと、彼女の仲間が彼女の命を狙っていること、それが『リューム・ナアド神聖国』の命によるものであること……。


 これを彼女に知らしめ、それを信じさせるために色々と仕込みはしてあるのだが。


「状況を上手く転がすためには、強引にやらないといけないかもな」


 さて、これから一世一代の大芝居だ。なんとかこの舞台を最後まで踊り続けないといけない。まあ、大根役者なんだけどね。

 いよいよ新勇者一行が、やってきました。はたして魔王様は、上手く新勇者を味方に取り込めるのか!

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