第56話 教育を考えよう
新勇者ミズホ一行のことはともかくとして、わたしたちには他にもやらなければならない事が数多くある。特に重要なのは、アーカル大陸を発展させることである。
アーカル大陸はバルゾラ大陸よりも、様々な面で遅れている。農業しかり、工業しかり、商業しかり、だ。これを発展させて、アーカル大陸からもバルゾラ大陸と同等、いや面積から言えばバルゾラ大陸以上の収益が上がる様にせねばならない。
とりあえずアーカル大陸での農業を可能な限り機械化せねばなるまい。可能ならバルゾラ大陸レベルまで。そして農村から浮いた人的資源を活用し、まずは軽工業、そして重工業、化学工業を発展させねばならない。これもできればバルゾラ大陸と同等まで。商業も同じくだ。
だがそれには、最低限の教育が必要だ。教育者を大量に育成せねばならない。今は既に、わたしが自分で教えることは無くなっている。初期にわたしが教えていた者たちが既に卒業し、今では教鞭をとっている。
ただし学生に対し、魔法で知識を植え付けるのは、今でもやっている。その魔法が可能なのはわたしぐらいであり、ザウエルでも魔力量の面から厳しい。だからわたしは最近は、1日に1回ほど、40~50人程度に知識を植え付けている。
最近はアーカル大陸から勉強のため、『ゲート』の魔法陣を使ってバルゾラ大陸へ訪れる学生も増えてきている。喜ばしいことだ。無論彼らにも知識を植え付けている。ついでにちょっとばかりわたしや魔王軍に対する忠誠心なども植え付けているが。
もっとも『ゲート』の魔法陣の使用を許可された者は、もともと忠誠心が高いので、さほど必要が無い処置でもある。
そうして植え付けられた知識の活かし方を授業で学び、彼らは卒業していくわけだ。だがそうやって卒業した学生のうち最優秀な者数名は、新たに教師として登用している。そして一度に教えることのできる学生数も増える。こうして、わたしが魔法で知識を植え付けなければならない人数も、徐々に増えていく。
……なんとか魔法で知識を植え付ける方法の、簡略化を図れないだろうか。このままではその内、わたしは朝から晩まで学生に魔法で知識を植え付けるだけしかできなくなる可能性が高い。いや、魔法に拘ることは無い。睡眠学習の技術は、秘密結社『JOKER』において、かなり発展していた。それを応用すれば……。
「ううむ。やはり電子工学系の技術をもっともっと発展させなければ駄目かな。いや、とりあえず40~50人程度の分、睡眠学習装置を錬金術系魔法を駆使して創ってしまうか?
いや、40~50人分じゃ、そのうちすぐに足りなくなる。もっと大規模な睡眠学習センターとして建設して……。いったいどれだけの大きさ、どれだけの発熱量になることやら。となると、機材の冷却が問題か。うーん。」
「魔王様、何悩んでるの?」
「あー、いや。魔法で学生に知識を植え付けるのが、魔力的にはともかく時間的に負担になりそうな未来が見えて来たんで、それをなんとかしようかと。睡眠学習装置を再現しようかと思ったんだけどね。
ただそのうち、数百人~数千人レベルで睡眠学習装置が必要になるからねえ。どれだけ無茶に大きな施設になっちゃうかなあ、ってね。大規模な睡眠学習センター建設すると、装置の発熱をどうやって冷却するかとかも。」
アオイが首を傾げる。
「……どれぐらいの大きさになる予定なの?」
「今受け入れているのが、1日に40~50人。睡眠学習だと、わたしが術を行使するのだと1日かからなかったのが、数日は時間取られるから……。その分を勘案すれば、今のスケジュールを維持するとしても、1回で500人を収容できるほどのセンターを建設しないと。
そして今後、学生の数が増える事を見込めば、それじゃ絶対に足りなくなる。その2~3倍、いや出来るなら10倍は収容できる施設として造らないと……。」
「うわー……。」
わたしは首を振り、メモ帳を開いてこの件について書き止めた。
「とりあえず、一時保留だ。睡眠学習装置本体にも、わたしの手が大きく取られるからなあ。手近な問題が解決してから、再度考えよう。」
「そう……だね。その方がいいかも」
アオイは、至近に迫っている問題を思い出した様だ。新勇者ミズホの事である。とりあえず、それが完了しなければ大事に手をつける余裕は無いだろうな。……わたしは執務机の上に転がっていた、ゴツい感じの腕時計に手をのばす。
「ふむ。手慰みに創った腕時計だが……。よかったら、アオイ? これ使わないかい?」
「え? いいの?」
「うん。本当は男物なんだけどね。ザウエルは腕時計よりも懐中時計の方が好みらしいし。鉄之丞は怨霊だから、基本的に物を持てないし。というか、ポルターガイスト的に物を動かすことはできるけど、気を抜けば落っことすからなあ。ガウルグルクは今こっちの大陸に居ないし。」
ちなみに、わたし自身は改造人間なので、時計機能は体内に保有している。
「ほんとはアオイにあげるんだったら、女物創れば良かったね。」
「ううん! これでいいよ! ありがとう、大事にするね!」
おうっち。不意打ちで、とても良い笑顔を貰ってしまった。なんか気分がいいね、こう言うのは。
「計算機とかカレンダーとか、いろいろ多機能にしてあるよ。防水でもあるし、耐ショックだから戦場に持ち込んでも大丈夫。動力は太陽電池と自動巻きの併用。電波時計機能も本当はあるんだけれど、大元の電波発信側の設備がまだ計画段階で止まってるから、手動で時刻は合わせてくれ。」
「わかった!」
アオイの笑顔に、わたしも頷きを返す。こういう日常が続けばいいんだがなあ。そうもいかないけれどさ。
日常パートの間も、徐々に環境は整っていきます。バルゾラ大陸だけでなく、アーカル大陸からも学生を受け入れて、どんどん知識層を増やしていくのです。充分に、人類諸国家を周回遅れにして独走態勢と言えるでしょうが、まだまだ満足してはいません。もっと!もっと!




