第49話 科学技術の賛歌
その日わたしたち、バルゾラ大陸に残っている新生魔王軍幹部は、新生魔王軍本部基地の横に造られた、広大かつ長大で滑らかな舗装路面に来ていた。アオイが頭を左右に振る。
「この世界で、『これ』って意味あるのかな」
その視線の先には、先端にプロペラの付いた、上下二枚の大きな翼を持つ機械が鎮座していた。複葉機……歴とした飛行機である。その操縦席には、魔道軍団から選ばれた操縦士が着席していた。
わたしはアオイの言葉に答える。
「今の段階では、まだ無いかも知れない。飛行速度も魔竜や、飛行魔法を使った魔道士の方が速いからねえ。実際今回操縦士を魔道軍団から選んだのだって、墜落したときに飛行魔法を使って脱出できる様に、だからね」
「なら、別の物造った方が良かったんじゃないかな。たとえば潜水艦なら、海竜の数は少ないから、それを補う意味でも」
「それも設計だけはできてるけどね。まあでも、飛行機はやはり必要だよ。そのうち飛行機の飛行速度は魔竜や魔道士を超えることになる。爆弾の積載量もしかり、だよ。今はまだ、だけどね。
それに飛行魔法を使えない者でも、空を往くことができる様になるのはやっぱり大きいよ。大型の旅客機はそのうち絶対に必要になるさ」
わたしたちの見守る中、複葉機は滑走路を疾走し始めた。やがて離陸速度に達したそれは、ふわりと空中に浮かぶ。
ザウエルと鉄之丞が、驚きの声を上げた。
「おお、飛びましたね。何の魔力の補助もなしに。確かに今はまだ大したことは無い能力ですが、魔王様から教えていただいた様に今後発展するとなると……。うん、いけますね」
『むむむ、なんと面妖な。ああいや、怨霊と化しておるそれがしの言う事では無かったでござるな』
わたしは満足げに頷くと、色々と今後起こりうる問題点を考え始めた。まず可能性が高いのは、今事実上空軍として活動している魔竜たちが嫌がりそうだと言う事である。自分たちの仕事を取られる、と感じてしまうかも知れない。
飛行機の進歩に魔竜たちが置いていかれない様に、魔竜たちの能力を強化することも考えなくてはならないなあ。そうだ、魔竜たちに着せる強化服はどうだろうか?魔竜たちが飛んでいるのは、翼に宿る魔力によるものだから、魔力を強化する仕組みを内蔵してやれば飛行能力は勝手に上がるはず。
魔力タンクを兼ねた魔力増幅装甲をその身に纏わせてやれば、オルトラムゥ直属部隊あたりの強靭な個体ならば、加速魔法なしでの超音速機動が可能になりそうだ。あとは機関砲なり爆弾なり搭載してやって……。
ああ、緊急加速用の固体燃料式ロケットブースターを装着してやる手もあるな。
「……固体燃料ロケットか」
「え? 今度はロケットまで造るの?」
アオイが目を丸くする。わたしは頷いた。
「ミサイルやロケット弾を始めとする、ロケット兵器から開発することになるだろうけどね。そのうち人工衛星打ち上げないと。まあ、まだまだ先の話さ」
「……とりあえず、卑近な目標から事を進めるべきだと思うわ」
「やってるよー。こないだブルドーザー、クレーン、パワーショベルを始めとした重機各種の生産は軌道に乗った。知っての通り、既に大量生産してる。と言うか、それが無いと飛行場が作れてないよね。
あと新式の自動小銃も配備開始したし、初期型の戦車、装甲兵員輸送車、歩兵戦闘車、自走砲の設計も仕上げた。家電製品でも冷蔵庫と洗濯機が、ようやくわたしの手を離れて初期型が量産出来る様になった。
あとは電子工学関係の技術が成熟すれば、家電3種の神器が揃い踏みするのも近いよ」
アオイが小首を傾げる。
「3種の神器の残り1つは何?」
「白黒テレビ。ちなみに時代が進むとカラーテレビ、クーラー、自家用車が。更に時代が進むとデジタルカメラ、DVDレコーダー、薄型大型テレビと変わっていく。なんでパソコン入ってないんだろうなあ。
……あ!」
「どうしたの!?」
アオイの叫びに、ザウエル、鉄之丞もこちらを向く。わたしは頭を掻きつつ言う。
「いや、カメラ忘れてた……。何か忘れてると思ったんだよ。映像を魔法で紙や羊皮紙に写す『ドローイング』の魔法があるから必要に駆られなかったと言うのもあるけど、今後は必要になるだろうな。すぐに開発計画立てないと」
「次から次へ手を出すのはどうかと思います、魔王様。魔王様の時間は有限なんですから、ちゃんと物事は思い付きだけじゃなく計画的にお願いしたいですね」
『かめら?話の流れから、絵姿を写すからくりでは、と予想はできますがのう……』
「あなたを撮ったら、心霊写真になっちゃうわね」
雰囲気がグダグダになる。まあ、ザウエルの懸念もわかるが、カメラ始めとした写真技術は、絶対に必要になるんだよ。ICやLSIとかの集積回路を量産するのに、回路の図面をシリコンの板に写真的に焼き付けるんだよね。写真技術ってのは、そう言った感じに応用範囲が極めて広いんだ。
そんな中、複葉機がよたよたと地上へ降りて来た。まだ操縦に慣れていないのが、一目瞭然だ。一応は飛行実験は成功したので、今後はもっと高性能な機体の開発と搭乗員の育成が問題になるだろうね。
新生魔王軍、独走態勢で科学技術が進歩してます。まあ、まだ魔王様の知識を教えているだけですが。そのうち学者とか育成が上手く行けば……。本当の意味で、この『世界』における独走態勢が整うでしょう。




