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第45話 新生魔王軍の状況と新勇者

 (ほろ)付きトラックの荷台に、物入れを兼ねた箱状の座席を載せただけの、極めて簡易的な兵員輸送車が何台も大地を疾駆(しっく)する。それを追う様に、砲弾を積載したトラックがタイヤの付いた大砲を牽引して走って行く。


 わたしはそれを上空から使い魔の(カラス)の視線で見遣り、頷く。


「うん、想定通りの能力を発揮できているな。性能的にも、兵員の練度的にも」


「そうなの?」


「うん。ああ、そうか。つい他人には、使い魔の視界が見られないのを忘れちゃうなあ。これでどうだね?」


 わたしは『映像投影』の術法を用いて、アオイとわたしの眼前に、使い魔の視線からの映像を映し出した。実のところわたしたちがいるのは、いつもの新生魔王軍本部基地司令室だ。


 わたしはここから使い魔を用いて、新開発の兵員輸送車と輸送トラック、牽引(けんいん)式155mm榴弾砲(りゅうだんほう)を用いた実弾演習の様子を監督していたのである。


「魔王様、これは魔王様が生産に直接の関与はしてないのよね?」


「うん。設計したのはわたしだけど、部品を作ったのも製品を組み上げたのも、あと付け加えて言えば燃料のガソリンを石油から精製したのも、全部配下の魔物や土妖精(ドワーフ)族、人間族たちだよ」


 正直、ついにここまで来たか、と言う気持ちでいっぱいである。実用型のトラックと、実用型の大砲を、設計以外はほぼ独力で作り上げるくらいに技術力が育ったのだ。技術知識の完成形を最初から与えてやったとは言え、実地の経験を積ませるのには苦労した。


 思えば長かった……。いや、そうでもないか。実際のところ、とんでもない駆け足で技術を進歩させてきたのだ。そのせいであちこちに制度的な歪みができているのを、何とか解決するのに四苦八苦してもいる。


 だが長かったと言う気持ちも嘘ではない。アオイなどは当初15歳だったのが、既に先日18歳に達している。ちなみにわたしは秘密結社『ジョーカー』による洗脳の影響で、何歳だったのかは覚えていない。残っている記憶からして、たぶん20~30歳程度ではないかとは思うのだが。


「アーカル大陸に造った工場でも、輸送トラックとそのバリエーションである兵員輸送車、トラックに牽かせる牽引(けんいん)榴弾砲(りゅうだんほう)の生産を開始させてる。向こうでも油田が見つかったから、それの採掘やガソリンの精製もさせてるし。これと同じ訓練を、向こうの大陸でもやってるはずだよ。

 兵員輸送車の完成で、これからは銃士じゃなくて自動車歩兵の括りで呼ぶことになるね。自動車歩兵の登場に伴って、騎兵は……。魔物にはほとんどいなかったけど、騎兵の類は順次廃止していくことになるなあ」


「なんか、どんどん人類種族との格差が広がっていくわね」


「うーん、その『人類種族』って呼び方も、考えないといけないなあ。アーカル大陸再侵攻以前から、人間族、森妖精(エルフ)族、土妖精(ドワーフ)族のうちの少数民族や解放奴隷が、わたしの麾下にいたんだし。単に『人類種族』と呼ぶと、彼らとの区別がつかなくなる」


「じゃあ何にしたらいいかな……」


 わたしとアオイ、2人が頭を悩ませていると、執務机の上の内線電話が鳴った。わたしは受話器を取る。


「こちら司令室。総司令官、魔王ブレイド」


『こちら大魔導師ザウエルです。魔王様、今そこにいらっしゃいますね?今から行きますので、他に行かないでくださいよ?』


「あー、了解した」


 わたしは受話器を置いて、アオイに顔を向ける。


「ザウエルだったよ。今から来るそうだ」


「何の用か聞いた?」


「いや。だけど妙に落ち着かない様子だったけど……。もしかすると、新勇者関係で何かあったかな。いや、冗談じゃなしに」


 アオイの眼差しが、厳しさを増す。わたしは真正面からその眼を見つめた。


「新勇者ミズホが召喚されてから2年が経つ。以前君の予想では、勇者ミズホがコンザウ大陸を出るには最低で1年必要と言ってたよね。君自身がコンザウ大陸から出るのに2年かかったとも。

 となると、最低限必要だった時間から更に1年過ぎた今、いつ何時コンザウ大陸から飛び出してもおかしくない訳だよ」


「うん。向こうには『ゲート』の魔法は無いから、大陸間を直接渡る術は無い。出てくるとしたら船ね」


「勇者とその従者クラスの戦闘力だと、海竜や死の霧、亡霊じゃあ渡航を防げないかもなあ。

 ……っと。ザウエルが来たかな?」


 わたしが何者かの気配を扉の外に感じた直後、机上の内線電話がインターホンモードで鳴る。


「誰かな?」


『ザウエルです。至急お耳に入れたい事が……』


「入室を許可するよ。入ってくれ」


 ザウエルが扉を開けて入室、敬礼をする。わたしとアオイが答礼を返すと、ザウエルはその口を開いた。


「新勇者ミズホの一行が、コンザウ大陸の港町ハザルより出航しました」


「「やっぱり」」


「……って、気付いてたんですか!?」


 ザウエルが驚きで変顔になる。わたしは(なだ)める様な声音で言った。


「気づいてたと言うより、君が自分でわざわざ来る程の事だからね。だとするとアーカル大陸の最前線もしくは初期占領地辺りで何かあったか、あるいは新勇者関係で何かあったかじゃないかなー、と。で、アーカル大陸で何かあったんなら、『通話水晶』でわたしにも連絡があるはずだし」


「……なるほど、それで新勇者関係だと的を絞ったんですか」


「うん。で? 勇者ミズホは何処へ向かったのさ?」


 そう問うと、ザウエルは決まりが悪げな顔をする。もしや監視が振り切られたか?だが、ザウエルが決まりが悪そうな顔をしたのは別の事だった。


「それなんですが……。海上では手の者に追跡させるわけにも行きませんので、僕の使い魔の大王烏賊(イカ)で海中から船を尾行させてますが……。まだコンザウ大陸の沿岸付近を航海していまして、アーカル大陸、バルゾラ大陸どちらを目指しているか不明です。それで……ですね。

 申し訳ありません。この知らせが来た時に、魔竜将オルトラムゥ殿と怨霊将鉄之丞殿に急いで連絡を取って、配下の海竜やら不死怪物やらによる勇者ミズホの船への攻撃を、僕の独断でやめてもらいました。すいません」


「ああ、なるほど。……うん。わたしも君の判断を支持する。ただ、今後は可能な限りわたしの了解を取る様にね。急ぎの時は仕方ない、事後承諾でもいいけどさ。

 海竜はアーカル大陸『ヴァルタール帝国』の経済封鎖、不死怪物はここバルゾラ大陸の防衛をしているから、勇者ミズホの船がどちらかの大陸に来たら、攻撃しかねなかったか」


「勇者相手では、下手すると貴重な海竜を討たれてしまいかねませんし。それに勇者ミズホも光魔法が得意らしいですからね。並の不死怪物では当てるだけ損でしょう。

 更に言えば、我々は勇者ミズホを新生魔王軍(こちら)側に取り込むことを計画してますし。万が一にでも船ごと沈めてしまっては……」


 これは余談だが、過去の勇者の1人であった怨霊将伊豆見鉄之丞だが、彼もまた光魔法は得意中の得意である。だが今の彼は不死怪物であるが故に、自分で光魔法を使いでもしたら、自滅してしまうのだ。故に彼はせっかくの得意魔法を使うに使えなかったりする。


 それはともかくとして、ザウエルの判断は正しい。わたしでも同じ情報を得たら同じ対処をしただろう。わたしはザウエルに指示をあらためて下す。


「ではザウエル、新勇者ミズホに関してはこれまで同様監視を怠らない様に。それと各地に潜ませた間諜からの情報に注意してくれ。新勇者の行先に関係した情報が掴めるかもしれないからね」


「はい、了解いたしました」


「それと、これからわたしの工房に行こうか。アオイも来てくれ。鉄之丞も呼ぼう。見てもらいたい物があるんだ」


 アオイとザウエルを引き連れて、わたしは自分の工房へ向かった。鉄之丞とは向こうで落ちあう予定である。わたしは『それ』を見た時の彼らの驚く様子を想像して、内心で笑いを堪えていた。

 いよいよ新生魔王軍に、自動車歩兵やら砲兵やらが本式に登場しました。次は戦車かなー。そしていよいよ新勇者ミズホがコンザウ大陸を出航です。

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