第33話 進軍と兵站
今、わたしとアオイの目の前では、攻城戦が行われている。だがこれは今現在の映像では無い。これはザウエルが創り上げた『通話水晶』に録画されていた、1日前の映像だ。
昨日、我が新生魔王軍のアーカル大陸侵攻軍は、『ゾフォーラ王国』の首都攻略に成功し、同国の領土全域を支配下に置いたのだ。なおこの国の王族は、全員討ち死にしている。
ちなみに、『ゾフォーラ王国』よりも南に位置していた『ベイルク王国』と『シャハン国』の両国も、既に全領土が我が軍の支配下にある。ただし両国の王族や一部の貴族は逃亡し、アーカル大陸北部の大陸最大国家、『ヴァルタール帝国』へと亡命してしまっていた。
映像を映し出している直径50cmを超える巨大な水晶球を前に、司令室の自席に座ったわたしはおもむろに呟く。
「首都の城壁に陣取る魔道士たちを、犬妖の銃士が狙撃……。そして弩砲などの防御兵器を、魔竜軍団の吐炎および魔法で破壊。
更にゴーレムの内で大型の物を犬妖の砲兵による支援のもと突撃させ、東西南北4か所の門を破壊。同時に魔像兵団と魔獣兵団がその4か所の門から内部へ進入。
敵兵力の大半は市街地を見捨てて、王族や貴族と共に王城へと立てこもった。それを確認の上で、最大火力である魔竜将オルトラムゥに出撃を依頼。
魔竜将オルトラムゥのプラズマビームの吐炎によって、王城は消滅。ただしオルトラムゥは口をひどく火傷し、しばらく戦力としてあてにできなくなった」
そう言う事だ。『ゾフォーラ王国』首都攻略戦は、そのような経緯で進行して行ったのだ。
「その後、市民を守るために市街地にあえて残った『ゾフォーラ王国』兵士や騎士、街の顔役などに対して降伏勧告。王城を吹き飛ばしたのが脅しとなり、即座に降伏勧告は受諾される、か。
そして侵攻軍がこれまで略奪や虐殺をせずに、紳士的に行動したのが効いたのか、残っていた街や村、集落などは、そちらへ小規模な部隊を派遣するだけで即座に降伏……」
「『ヴァルタール帝国』領へはあえて侵攻しないから、あと残るは『タートム連合国』ね」
アオイの言葉にわたしは頷き、『通話水晶』の機能を録画再生から通話に切り替える。映像が切り替わり、ガウルグルクの姿が映った。彼は部下に指示を出している最中であったらしく、こちらと通話が繋がっていることに最初気付かなかった。わたしは声をかける。
「ガウルグルク」
『だから第12小隊は市街警備だ! 具体的な指示はゼロに聞け! ……? ……おお!? 魔王様、これは失礼をば!』
映像の中のガウルグルクは、慌ててこちらへ敬礼をする。わたしもそれに答礼をし、続けて言葉を発した。
「いや、まだ『通話水晶』の機能に慣れていないのだろう?そんなことでは怒らんともさ。それよりも、ガウルグルク。オルトラムゥの怪我はどうかね」
『はっ!治癒魔法を使える者に見てもらいもうしたが、魔竜将殿は4日か5日で復帰できるとのことですな』
「ならば良かった。オルトラムゥのあの技は、彼自身にも相当な負担をかけるみたいだからね。それだけが心配だったんだよ。大事にしろと、伝えてくれるかい?」
ガウルグルクは生真面目に頷く。
『了解いたしました。必ずや、伝えもうす』
「そちらから、こっちに何か要望はないかい?」
『いえ、予定通りの補給と補充だけで充分で……。あ、いや1つだけ』
わたしの言葉に、ガウルグルクはにやりと笑うと口を開く。
『魔道軍団軍団長殿に、わたしめが礼を言っていた、とお伝え願えますかな? 魔道軍団の工作員による情報操作のおかげで、アーカル大陸諸国家連合軍は纏まりを欠いておりましたのでな。たいそうこちらの仕事が楽になりもうした。
特に『ゾフォーラ王国』は諸国家連合内で孤立いたしましてな。はっはっは』
「ああ、わかった。ちゃんと伝えておくよ。他にはないかな?ではまた」
『次は何か突発的な事情が無い限り、『タートム連合国』と戦端を開いた後になりましょう。それでは失礼いたします』
ガウルグルクが敬礼をし、わたしが答礼をする。そして『通話水晶』による遠隔通話は切れた。それを待っていたかの様に、アオイが話しかけて来る。
「連戦連勝ね。予定通り、こちらの被害の大半は魔像兵団の人格なし型ゴーレムにほぼ集中してる」
「うん。ただ占領地を支配するのにも、ある程度の兵力を置いておかないといけないからなあ。今は魔獣兵団、魔像兵団の戦闘ドロイドとアンドロイドと高知能型のロボット、犬妖の銃士隊などから一部を引き抜いて部隊を編制。
そいつらを各都市や街、それに大きめの村落などに占領軍として駐屯させている。治安は維持しないといけないしねえ。……これがゲームかなんかだったら、攻め落とした土地は空っぽにできるんだけど、そんなわけは無いからなあ。
おかげで歩兵戦力が目減りしてる。ただ単に攻め滅ぼして、富を収奪するだけだった先代魔王には無かった苦労だねえ……」
「うん、それは仕方ない。でしょ?」
アオイの台詞に、わたしは首肯を返す。
「次の補給物資と一緒に、追加の戦力を送らなきゃな。ただその戦力もなあ……。バルゾラ大陸に残っている魔獣の部族や諸種族などからは志願兵が続々と詰めかけてはいるけど、訓練を施してる最中だしなあ。
まだ戦場や、ましてや治安維持などに微妙な判断が必要とされる占領軍としては、送ることはできないよ」
「戦闘ドロイドやアンドロイド、高知能型ロボットは? あれなら最初から命令に従順だし、各種マニュアルをインストールすれば最低限の訓練でも一応は使える様になるはず。……マニュアルに無い事例に出会ったときは、アドリブ利かないのが玉に瑕だけど。
だから占領軍としては使えないかもしれないけど、占領軍を抜き出したことで減った侵攻軍の穴埋めになら」
アオイの提案に、再度わたしは頷いた。まあ当初より、それしか方策は無かったのだが。
「そうだね、戦闘ドロイド、アンドロイドを大量生産しよう。高知能型ロボットも。大量の鉄や銅、希少金属類のインゴットを用意させなきゃ。ああ、それと珪石も大量に。シリコンウェハーの材料だ。電子回路を作らないと」
わたしは執務机の上に鎮座している内線電話を操作して、文官たちが詰めている彼らの執務室へ連絡を入れる。この内線電話は、新生魔王軍本部基地の総電化工事を行った際に敷設した物である。
ちなみにトランジスタやIC、LSIなど必要な電子部品は、わたしが錬金術系の魔法で一括で製作した。解放奴隷の土妖精や人間を教育した技術者たちは、まだまだ良くて昭和初期、下手すると明治時代の文明開化時期レベルの能力しか持って無い。
電子部品そのものを作るなんて、まだ無理だ。トランジスタやダイオードを用意してやれば、あらかじめ与えて置いた回路図や設計図に従って、ラジオを組み上げるぐらいは可能か?いや、それもまだ難しいか?その程度だ。
まあそれはともかく、わたしは戦闘ドロイド、アンドロイド、高知能型ロボットを生産するため、大量の素材を用意させた。文官たちはてきぱきと仕事をし、すぐに莫大な量の素材を確保してくれる。
優秀な文官らに感謝しつつ、だが今後支配地域が広がる事で、また人材が足りなくなりそうな嫌な予感を覚えるわたしだった。
はっきり言って、新生魔王軍の兵站は全てと言っていいぐらいに魔王様個人の双肩にかかっています。まあベースが改造人間でソレが魔王召喚で強化されているので、過労で倒れたりはしないのですが。でも彼の労働環境は、はてしなくブラックです。ま、雇われてるわけじゃなく、自分でそう言う状況に自分を追い込んでる面もあるのですが。




