第22話 ハッピー・バースディ
ここの所、わたしは非常に精力的に働き続けている。最近は、他の者が眠っている間に書類に目を通しサインをし、他の者が起きているときには会議に会議を重ねると言う生活サイクルが出来上がっていた。
……なんか前よりも級数的に仕事が増えている。今後は更にこれに、高等教育および技術者教育の教師役も仕事に加わる。
ちなみにこの世界の魔法には、地球世界の魔道の術である『睡眠圧縮』に相当する術は存在していない。それ故に、わたし以外の者は圧縮した睡眠を取るわけにはいかず、普通に眠っている。
……羨ましい。いや違う、働き手が足りない。なんとか文官タイプの部下を増やさねばならない。やはり今が大変でも、後から楽をするために、高等教育は急がねばならない。
部下と言えば、鉱山などにゴーレムの類を労働力として送り込み、犯罪奴隷以外の奴隷を解放して軽い教育を施し、幾つかの仕事に就けてやったのは以前にも述べた。そう言った元奴隷たちの大半は、人間族、森妖精族、土妖精族などの人類種族だったりする。
これらはアーカル大陸やコンザウ大陸への先代魔王による侵略の際に捕らえられた捕虜や一般市民が3分の1、あとの3分の2はなんと人類種族の手により、奴隷として魔物たちに売り渡された者たちだ。
ザウエルの話によれば、先代魔王は人類種族の犯罪組織とも手を組んでいた様だ。まあ互いに利用し利用されるだけの間柄だったらしいが。それにしても人類種族、業が深い……。
捕虜や一般市民だった者たちは、解放してやったからと言ってこちらに忠誠など誓うわけがない。とりあえず、わたしの直轄領内に居留地と言う名の収容所を造り、そこに押し込めてある。そいつらはとりあえず置いておくとして、大事なのは他の売られてきた者たちだ。
同胞であるはずの人類種族により売り飛ばされた彼らは、解放されたことを素直に喜んだ。そしてわたしが彼らを買い取った先代魔王とは違うこともきちんと理解し、表面上だけかも知れないがわたしに感謝した。
そして読み書き算術などを教育してやると言うと、喜んで受け入れた。新生魔王軍の事務仕事とか、技術者とか、様々な仕事を与えてやってきちんとした報酬を支払ったら、真面目に働くこと働くこと。サボタージュなどする気配は、欠片も無い。
「……もしかしたら、魔王軍に協力的になることで、自分たちを売りとばした人類世界に対して復讐しているのかも、な。バルゾラ大陸に逃げ込んで来た被差別民たちもそうだけど、高等教育の第1期生の半分ぐらいに彼らを編入してもいいかも、な。
勿論……」
「勿論、何?」
工房で、高等教育に使う教科書を製本するのを手伝っていたアオイが、わたしの言葉尻を聞き逃さず突っ込んでくる。わたしは隠すことなく答えた。
「ん?ああ。高等教育を受けさせる人員には、アオイや魔族、巨鬼族以外には一応洗脳処置をしておこうか、と思って。どうせ基本の知識を、魔術や魔法で植え付けるんだし、その際にちょいちょいっと」
「……うん。その方がいいかも」
「まあ、人類社会や人類世界に対する執着や郷愁の類をちょっと薄めて、こちら側に対する義理とかを強める程度だけどね。あまり強力な洗脳は、丁寧にやらないと知能や判断力を損ないかねない。丁寧にやってる暇も無いし、ね。ま、身体に害になるほどの事はやらないよ」
大型のステープラーで教科書を綴じつつ、わたしは説明する。わたしは嘘はつかないとは言わないが、アオイには嘘をつくつもりは無い。隠し事もしない。『リューム・ナアド神聖国』から酷い嘘で騙され、殺されかけた彼女だ。せめてわたしぐらいは信じられる存在でいてあげないと、と思う。
ふとわたしは、壁にかけられた暦に目を留める。
「アオイ。そう言えばそろそろ君、16歳じゃなかったかい?」
「え?ああ、そう言えばそろそろ。12月下旬の生まれだから。こっちの世界とあっちの世界は暦が少し違うけど、だいたいは合ってるから」
「んじゃ、少し早いけどプレゼントがあるよ。新しい剣を二振りと軽鎧一揃い、それに拳銃に槌矛、あとマントやブーツや鎧下の衣服。まあ要するに装備一式だね」
「え!?」
驚いた顔をするアオイに、わたしはドヤ顔で……。いや、戦闘形態だから表情は出せないんだった。まあともかく、わたしは工房の奥に置いてあった装備一式を持ってきて、彼女に渡した。
「こ、これって……」
「まあ、鎧やマント、ブーツ、衣類は魔力付与する際の処置のために、色合いは全部黒になっちゃったけど。全属性に対する防御を盛り込んだら、全部の色の絵の具を混ぜ合わせたみたいに黒色になっちゃってね。
でもその代り、防御力は折り紙付きさ。ああ、あとサイズも鎧や衣類側で勝手にぴったり合わせてくれる機能があるよ」
「……凄い。今まで使ってた鎧なんて、比べ物にならない……」
「剣の方は、片手半剣と刃折小剣。銘はまだ付けてない。君が命名するといい。たぶん聖剣にも劣らない出来栄えだと思うんだけど」
「こっちも凄い。鞘に入れてたら魔力は全然感じなかったのに、鞘から抜いたらとんでもない力が感じられる。……こっちも色は黒いのね。刃の縁だけ、血の様に赤く光ってる……」
聖剣にも劣らない出来栄え、とわたしは言ったが、実のところアオイが使うのならば聖剣を凌駕すると思われる。聖剣は歴代の勇者が使った剣でありアオイ専用ではなかったが、この剣はアオイのためだけにわたしが創り上げた物だからだ。
「槌矛は斬撃耐性がある敵が出た場合のための予備武器。単純な威力だけならその剣にも負けないはず。銃はまあ、某自動拳銃のコピーだけどね。素材に奢って更に魔力付与もしたから、わたし特製の魔弾……魔力付与して火薬にも細工した強力な弾丸も発射できるよ。とりあえず魔弾は33発用意して……?」
「ありがとう! 大事にする!」
「っと?……ふふ、どういたしまして」
なんと言うか、アオイから凄い良い笑顔で礼を言われた。武具でここまで喜ばれるとは、思いの外だった。今度は宝飾品でも贈ってみようか。どんな物にしたら良いだろう。魔法的防御力を高める首飾りとか、加速魔法『アクセル』の効果を秘めた腕輪とか……。
その後アオイは、しばらく上機嫌だった。だがその上機嫌を台無しにする、ある報せが舞い込んで来る。ザウエルの部下、魔道軍団に調査させていた、『リューム・ナアド神聖国』の情報だった……。
勇者アオイを喜ばせようと、魔王様がんばりました。その頑張りは報われたのですが、それを台無しにしかねない報せが……!!




