第18話 死者の軍団
魔道軍団の魔道士が精神同調し、転移させる距離と人数を飛躍的に増加させた芸術的な転移魔法が発動した。わたし、アオイ、魔竜将オルトラムゥと魔竜軍団の精鋭40体、そして魔像兵団約8,000体とその指揮官ゼロが、カルトゥン山脈南の裾野に転移する。
流石にここまでの精密な魔力制御はわたしにはできない。もっとも、有り余る魔力量に物を言わせて強引に同等の効果を発揮させることなら可能なのだが。だがわたしには、これから戦いが控えている。自分の魔力は節約しておくべきなので、自分では転移魔法を使わずに、直接出撃しない魔道軍団に転移魔法を使わせたのだ。
……まあ、わたしが転移魔法を使ってもそこまで消耗はしないので、ちょっと警戒し過ぎかもしれない。だがやはり、慢心はしないでおくべきだろう。
「ゼロ、魔像兵団に陣を敷かせろ」
「了解イタシマシタ」
わたしはゼロに命令を下した後、懐から3枚の呪符を取り出す。そしてわたしは小さくキーワードを唱えた。いや、キーワードと言うよりはパスワードと言った方が正しいかもしれない。
「e20kkJ62Op……」
『『『クワァアァ!!』』』
3枚の呪符は、3羽の烏へと姿を変じる。『使い魔創造』の術法をあらかじめ込めておいた魔道の呪符により生み出された、使い魔の烏である。……西洋の使い魔と言うよりも、東洋の式神に近い気がする。
まあ、わたしが知る元の世界における魔道は、秘密結社『ジョーカー』の手で洋の東西を問わず蒐集、編纂、研鑽されている。おそらくは式神の技術も含まれているはずだ。
「……行け」
『『『クウワアアァァ!』』』
3羽の使い魔は、勢いよく飛び立っていった。そしてその使い魔どもが見た映像、聞いた音は、わたしの脳裏に転送されてくる。
やがて前方に向かった2羽の使い魔の視界に、こちらに向かい進軍してくる不死怪物の群れが映った。わたしはその映像を、アオイ、オルトラムゥ、ゼロの頭脳に転送する。
「うん、どうやら間に合ったね。相手の本隊が到着するよりも前に、こちらが布陣することができた」
「相手が足の速い別働隊を出して、一足先に『魔竜の墓場』に向かった可能性は?」
アオイが訊ねてくる。うん、その可能性も捨ててはいないよ。
「後方に向かわせた使い魔1羽は、今しがた『魔竜の墓場』に到着した。そいつは今、『魔竜の墓場』を飛び回って怪しいところが無いか調べさせてる。けど、今のところ異常はなさそうだ。
しかし、これは凄いな。老竜どころか、魔竜将クラスの骸がゴロゴロしてるよ。これを不死怪物化されたら、大変なところだったな」
「永年の、我ら魔竜の歴史そのものとも言える場所だからな、魔王様。敵に戦力を与えられんと言う意味だけでなく、あの場所を汚されるのは腹に据えかねる」
オルトラムゥが、苛立たしい様子で言った。まあ、墓を荒らされたくないのは理解できる。思い入れの深さまでは慮ることはできないが。
不死怪物の群れは、一直線にこちらへ向かい歩みを進めている。その数は、ざっと見て最低でも20,000以上はある。下手をすると、使い魔の視界からでは判別できない小さな個体まで含めたら、その数倍にも達する可能性がある。
まあ最低級の骸骨や動死体などは恐れるに足らないので、実効戦力はそこまで高くないと思う。しかし気になるのは、不死怪物の群れ全体を覆っている薄闇の空間だ。
わたしは使い魔を通して、『術法解析』の魔道の術を行使した。ちなみにこの世界の魔法に対しても、元の世界の『術法解析』の術が効果を発揮するのは、既に確かめてある。
「……うわ。『ダーク・ヴェール』の魔法……。死霊魔法の奥義クラスか」
「どうしたの?魔王様」
「いや、不死怪物の群れを薄闇の空間が覆ってるんだけど、その空間は死霊魔法による物なんだよ。生命ある者の力を弱めて、不死怪物の力を増幅する効果がある。おまけに太陽に弱いタイプの不死怪物でも、あれの影響下では平気で行動できるんだよ。
それだけじゃなく、その空間内では不死怪物が生まれやすいんだね。あの空間の中で斃れたら、不死怪物化が確定だと思ってくれ。
……おっと!使い魔が潰された」
使い魔の烏が、2羽とも『ダークエナジー・ボルト』の魔法で撃墜された。わたしの魔力や生命力が莫大なので、使い魔が潰された際のダメージのフィードバックは微細な物だ。しかも回復力も桁外れなので、あっという間にその微かなダメージも復旧する。
「とりあえずだが、対策を取っておこうかね。これから味方全員に魔法による防御をかけるから」
「了解」
「委細承知だ」
「了解イタシマシタ」
おもむろにわたしは、わたし自身とアオイ、それにオルトラムゥを含めた魔竜たちに『マインド・プロテクション』の魔法と、『精神防壁』の魔道の術法をかける。更に今度は魔像兵団を含めた全軍に、『レジスト・オール』『レジスト・マジック』『プロテクション』の魔法と、『全耐性強化』『耐状態異常』『抗魔』『物理防御』の魔道の術を行使した。
ふと見ると、アオイは自らに『シャイニング・プロテクション』の、光系防御魔法を纏っていた。なるほど、死霊魔法や不死怪物相手には有効な手段だろう。わたしも自らに同じ魔法を使う。
ただこの魔法は、他人にかけようとすると難易度が跳ね上がる。魔力量の問題ではなく、技量の問題なのだ。そのため、いかに有効であろうとも他者にこの魔法をかけることはできなかった。うーん、残念。
わたしは魔法や魔道の技量そのものについては、未だ平凡の域を出ていない。一見高度な魔法や魔道の術を駆使しているように見えても、それは莫大な魔力により強引に行使しているに過ぎないのだ。
と、アオイやオルトラムゥが変な顔をこちらに向けて来る。アオイはともかくとして、魔竜の爬虫類顔でも変な表情が出せる物なんだな。
「どうしたんだね? 変な顔をして」
「いえ、だって……」
「だよなあ? 魔王様は、魔王だろう?」
「ああ。それがどうかしたかね?」
アオイが喚いた。オルトラムゥもそれに追随する。
「なんで魔王なのに、光魔法が使えるの!」
「そうだ! 先代魔王ゾーラムは使えなかったぞ!」
「そりゃ、わたしが異世界から召喚されたからだよ。種族として光魔法と相性が悪かった先代魔王とは、話が違うからさ。召喚された際に与えられた魔法知識に、光魔法もちゃんと存在してたからね。
先代魔王は自分は使えなくとも、光魔法に対する防御策を講じるために知識だけは持ってたみたいだね。だから魔王召喚の際に与えられた知識に、光魔法もちゃんと入ってたんだろう」
アオイは『あっ。』という表情になる。一方でオルトラムゥは、やれやれと言った風情で巨大な首を左右に振った。
「それは……。反則だろう、いくらなんでも。光魔法が使える魔王? 何の冗談だ……」
「それはともかくとして、来たぞ。魔竜たちは上空待機、指示があり次第対地支援攻撃を」
「了解だ……」
オルトラムゥを含めた40体の魔竜たちは、一斉に飛び立って上空を旋回し、空中での待機に入る。わたしはこちらへと歩いてくる不死怪物の群れを見遣った。
さて、戦闘準備は整いました。準備万端整えてありますが、上手く事は運ぶのでしょうか。乞うご期待!




