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第14話 獣の掟と暗殺と

 ガウルグルクとの交渉から一週間の後、わたしとアオイ、それにガウルグルクは、魔像兵団の一部である数10体のゴーレム、生きた鎧(リビングアーマー)彫像怪物(リビングスタチュー)を率い、バルゾラ大陸中央部に存在する草原にやって来た。


 この草原は、旧魔王軍勢力で今現在残っている内で最大に近い物、魔獣軍団の領域である。わたしたちは魔獣軍団の縄張りに、姿や気配も隠さずに堂々と侵入した。


 縄張りの見張りに就いていた獣人(ライカンスロープ)タイプの魔獣が慌てふためき、報告のためにだろうか、走り去っていくのが見える。


「……今現在の魔獣将バウガウドは、やってくるかな?」


「おそらくは。奴は力を誇示することで魔獣軍団を支配しております。ここで尻込みすれば、奴の権威に傷が付きましょう」


「あ、来た」


 アオイの言葉通り、3,000体を超える数の魔獣が草原の彼方から、こちらへ向かい疾走して来た。鳥型や蝙蝠型の魔獣など、空を飛んでいる物もそこそこ多くいる。


 どうやらこの辺の部族全てが集まって来たらしい。


「大仰だな。大人気じゃないかね、ガウルグルク」


「はて?自分直轄の部族だけを率いてくるかと思っておったのですが……」


「そう言えば、ザウエルの魔道軍団からの報告では、魔獣軍団内でバウガウドに対する不満が出ているらしい、と言う話だったな。力のある指導者ではあるのだが、頭が無さすぎる、と。

 特に頭が良い魔獣や、古株の思慮深い魔獣などから」


「納得。ここで一発自分の格好良いとこ見せて、点数を稼ごうってつもりね」


 言っている間に、魔獣の群れはわたしたちの軍勢から50mほどの距離に陣取る。そして群れの中央から、一際巨躯を誇るいかにもな魔獣が歩み出て来た。下半身は獅子の胴体、上半身は屈強のプロレスラーもかくやと言う強壮な人間の物、そして頭は獅子の顔をしている、ケンタウロス型に近いタイプだ。


 その身には煌びやかな宝石や貴金属で飾られた美しい板金鎧を纏い、手には槍を持っている。槍も当然の事ながら、キラキラと金銀宝石で飾られている、成金趣味の代物だ。その魔獣は、雷鳴の様な声で叫ぶ。


「余の領域を侵すものは誰ぞ!」


「ふむ、君が魔獣将バウガウドか。わたしは魔王ブレイド・JOKERだよ」


「何! 貴様が魔王を僭称(せんしょう)しておる輩か! その称号は、余の物だぞ! 戴冠の準備も今整えておるところなのだ!

 ……よかろう、余が魔王となる前祝いだ! 今ここで貴様を討ち果たして余の戴冠に花を添えてやろう! ものども、かかれ!」


 今まさに魔獣軍団が襲い掛かろうとしたその瞬間、わたしは『威圧』の術法を行使した。少し細工して、バウガウドだけは『威圧』の効果から外してやったが。魔獣軍団は本能的な恐怖にかられ、その動きを止めた。


 バウガウドの怒声が響く。


「何をしておる! あやつらを叩き潰すのだ! かかれ! かかれと言うに!」


「ククク、無駄だよ。彼らはわたしに勝てないと、心の底からわかっているのさ」


「何を!? ええい、不甲斐ない屑どもが! かかれ! かからんか! 馬鹿者どもめが!

 くっ、もう良いわ! 余がじきじきに貴様を殺してやろう!」


 バウガウドは槍を構え、こちらへ疾走して来た。わたしは連れてきたゴーレム、生きた鎧(リビングアーマー)彫像怪物(リビングスタチュー)に、動かない様に思念で命じた。


 今回の戦いの主役は、わたしたちでは無い。そしてその主役が、突っ込んでくるバウガウドの前に立ちはだかった。




 ギャリッ!




 鈍い金属音が響き、バウガウドの槍が受け止められた。無論その槍を受け止めたのは、今回の主役であるガウルグルクである。


「貴様! ガウルグルク! ……!? 何故だ! 傷が癒えているだと!?」


 そう、ガウルグルクの身体は完全に癒えていた。後遺症のかけらも残っていない。獣毛に覆われた筋骨隆々たる人間の胴体は、質実剛健たる漆黒の甲冑に包まれている。同じく質実剛健な漆黒の兜を被った獅子の頭には、潰れていたはずの右眼が爛々と輝いていた。


「おう、そうともよ! 魔王様の持つ技術で、我が傷は既にかけらも残さず癒えたわ! 今のわしは、以前貴様に倒されたときとはわけが違うぞ!

 魔獣将バウガウド! このわしガウルグルクが魔獣将の座をかけて、決闘を申し込む!」


「ぬかせ、老いぼれ!」


 バウガウドの槍がガウルグルクを突く。だがガウルグルクは自らの着ている甲冑の一番装甲の厚い肩部分でその突きを受ける。ガウルグルクの着ている質実剛健な甲冑は、成金趣味のバウガウドの槍による一撃をものともせずに受け止めた。そしてその手にあるのはこれも質実剛健たる黒塗りの斧槍(ハルバード)


 ガウルグルクの斧槍(ハルバード)が振るわれ、バウガウドはそれを受け損ねる。煌びやかな板金鎧の一部が弾け飛び、宝石が宙を舞った。


「おのれ! 老いぼれの分際で!」


「ふっ……」


 ガウルグルクは小さく笑うと姿勢を低くし、斧槍(ハルバード)を地面すれすれに薙ぎ払う。バウガウドは高々と跳躍してそれを躱した。バウガウドは跳躍の勢いのままに槍をガウルグルクに突き立てんとする。


「馬鹿な老いぼれめ! 貴様もこれで終わりだ!」


「……」


 ガウルグルクは落ち着きはらって斧槍(ハルバード)から左手を放し、その左手で腰から抜き放った投げ短剣(スローイング・ダガー)を投げる。それはバウガウドの顔を狙っていた。


 泡を食ったバウガウドは攻撃しようとしていた槍を引き戻して投げ短剣(スローイング・ダガー)を打ち払う。その間にガウルグルクは斧槍(ハルバード)を構え直し、石突を地面に突いて斧槍(ハルバード)を垂直に立てた。


 そしてその斧槍(ハルバード)の穂先に、バウガウドの下半身である獅子の胴体が落ちてくる。


 ザグッ!


 バウガウドは、獅子の胴体部分を抉られて叫ぶ。


「グアアァァッ!? き、貴様っ!! 貴様キサマきさまッ!!」


「終わりだ、バウガウド」


 ザン!


 閃光の様に振るわれたガウルグルクの斧槍(ハルバード)が、バウガウドの右腕を二の腕から断ち切る。噴水の様に、血が噴き出した。その手を離れた槍が、宙を舞う。


「ぎゃああぁぁ!! 余の、俺の、腕が、腕がっ!!」


「……これまでだ、バウガウド。しきたり通りにとどめは刺さん。何処へなりと落ち延びるがいい」


「ぐぐ……。お、おのれ!覚えていろよ!貴様らいつか……。いつか必ず食い殺してやるっ……」


 バウガウドは血の滴る右腕の切断面を必死で押さえ、わき目も振らずその場を逃亡する。ガウルグルクは斧槍(ハルバード)を高々と天に掲げて雄叫びを上げた。


「ウオオオォォォン!!」


「あ……」


「え……」


「お、オオオォォォン!!」


「「「「「「オオオォォォン!!」」」」」」


 ややあって、周りにいた魔獣たちからも雄叫びが上がる。ガウルグルクが魔獣将に、魔獣軍団の長に返り咲いた瞬間であった。わたしとアオイは、ガウルグルクにゆっくりと歩み寄る。


「ご苦労、怪我はないかね」


「魔王様からいただいた、この鎧と武器のおかげをもちまして……。鎧は奴の一撃を軽々と防ぎ、斧槍(ハルバード)は奴の鎧をまるで土くれの様に打ち壊しました」


「まあ、それが無くとも技量の差から勝利は動かなかったと思うが、ね」


「は、ありがとうございます。ですがここまで楽勝では無かったでしょう」


 ガウルグルクは周囲の魔獣たちに向かい、声を張り上げる。


「魔獣どもよ! 我が家族たちよ! これより我が魔獣軍団は、魔王様の麾下に馳せ参じ、新生魔王軍の一翼を担う! 魔王様は我ら魔獣たちの繁栄を約束してくださった! 魔王陛下に忠誠を!」


「「「「「「おおおおお! 忠誠を! 忠誠を! 忠誠を!!」」」」」」


 周囲の魔獣たちも、絶叫を返す。わたしは思わず苦笑する。いや何度も言うが、戦闘形態の顔は笑みを浮かべることはできないのだが。


「ノリがいいやつらだ……。さて、まずは魔獣たちの訓練スケジュールを考えなくちゃな。できるだけ知能が高い者を指揮官に据えて……と」


「けっこう大変そう」


「確かに」


 と、ここでザウエルから念話が届いた。


『魔王様、監視している魔道軍団員からの連絡です。バウガウドの現在位置をお知らせします』


『……ありがとう』


『バウガウドは今現在……』


 ザウエルの念話が、バウガウドの位置を伝えて来る。そしてわたしはアオイとガウルグルクに向かい、命令を発した。


「アオイ、済まないが先に本部基地へ帰還してくれ。ガウルグルクは魔獣将復帰をここに来ていない全部族に周知し、軍を編成してから本部基地に連れて来てくれ。

 ああ、コンザウ大陸侵攻軍の魔獣たちには、魔獣軍団がわたしの指揮下に入ったことを忘れずに伝えてくれよ? 今のところ、あいつらわたしの命令を全然聞こうともしないんだ」


「委細承知。長距離念話が使える者に命じ、コンザウ大陸侵攻軍には即座に通達いたしますれば」


「頼んだ。……アオイ?」


「魔王様、わたしはどうしても先に帰らなきゃ駄目?」


 と、ここでアオイが異を唱える。


「うーん、ちょっと隠密行動しなきゃならないからね。申し訳ないけれど、アオイは隠密裏に動くのは、不得意だろう?」


「……そうね。仕方ない、か……。もっと隠密行動も、訓練しておかないと……」


 アオイは渋々と、ではあるが納得してくれた。わたしは彼女に、連れて来たゴーレム、生きた鎧(リビングアーマー)彫像怪物(リビングスタチュー)の指揮を任せる。そしてその集団の周囲に、転移用巨大魔法陣を展開する。


 わたしは(おもむろ)に、『ロングレンジ・テレポート』の魔法を発動する。魔法陣の内側に居るゴーレム他の兵員が、すうっと言う感じで姿を消して行く。新生魔王軍本部基地へと、帰還したのだ。


 消える最後の瞬間、アオイがわたしに敬礼を送ってくる。わたしも彼女に答礼を返す。ふと見遣ると、ガウルグルクもまた斧槍(ハルバード)を掲げ、わたしに向かい敬礼をしていた。わたしは彼にも答礼を返す。そして自分自身に対しても、『ロングレンジ・テレポート』を発動させた。




 わたしは背中の重力制御翼を広げ、超高空を飛翔していた。(はる)か眼下に、よろよろと荒野を歩いている1体の魔獣が見えた。……バウガウドだ。間違いない。


 どうやら斬り落とされた左腕からの出血は、止血に成功した様だな。周囲には……()ている者は、奴の監視に付けたザウエルの手の者が2人だけだ。それもかなりの距離を取って、遠隔視系統の魔法を使って()ている。他の者は、1人とて存在しない。


 わたしはザウエルの部下たちに、念話で周辺監視を命じると、(ひたい)の生体レーザー発生器官を起動した。焦点温度10万度の超高出力レーザーが、バウガウドを直撃する。


 いや、実はこれでも手加減してるんだ。本気で撃ったら、小都市が丸ごと消滅する威力が出せる。魔王として召喚されたせいで、かなりわたしの能力は強化されてるからね。召喚前だったら、最大威力でせいぜい某ドーム球場が1つ吹き飛ぶぐらいだったんだが。


 何にせよ、バウガウドは断末魔の悲鳴もあげられずに、一瞬で灰も残さず蒸発した。周辺は地面が融解して、ガラス状になっている。……うん。そう言う事。わたしはバウガウドを暗殺したんだ。


 いや、ガウルグルクに殺させるわけにはいかなかったからね、魔獣たちのしきたりに従うならば。だけど、ああ言ったプライドばかりが肥大してて、なおかつ執念深そうな奴を生かして放置するなんて、危険すぎてできないよ。うん。絶対に後々、問題を起こす。


 だからアオイ、ザウエル、ガウルグルクとも相談の上で、ガウルグルクとの決闘が終わったらバウガウドを人知れず始末するって決めてたんだ。


 と、ここでザウエルの念話が届いた。


『終わった様ですね』


『ああ。もう奴は、跡形も無いよ』


『なら、早く帰って来てくださいませんか?親衛隊長が、不機嫌でどうしようもないんですよ。無理にでも、今回連れて行くべきだったのでは無いですか?部下の心情を勘案するならば』


『むむむ。で、では急いで帰るよ。君も監視の部下を、撤収させてくれ』


『了解です』


 そしてわたしは空中で、自分の周囲に転移用魔法陣を展開し、自分を対象にして『ロングレンジ・テレポート』の魔法を発動させた。目的地は我ら新生魔王軍本部基地。急ぎ帰還して、アオイのご機嫌を取らねばならない。




 その後、コンザウ大陸侵攻軍はわたしの命に従い占領地を放棄。アーカル大陸侵攻軍と合流すべく船に乗るなり飛行能力を持つ魔物に乗るなりして、コンザウ大陸を後にした。


 中にはわたしの命を聞かずに現地に残った種族などもいた様だが、ぶっちゃけた話そういう者まで面倒は見きれない。というか、こちらに叛意を露わにしているのだから、面倒を見る必要も無い。


 まあ魔獣たちは生き残っている者たち全員が指示に従ったという事なので、だいたいの目的は達せられた。わたしは新生魔王軍本部基地司令室にて、今後の計画について考えにふける。


「さて、次は内政だな。とりあえずアーカル大陸の防衛線をしっかり守って、その背後の占領地はちょっと休養させて復興させないとね。そうしないと策源地に使えない。減税や免税もしないと……。

 略奪や虐殺は御法度だと周知徹底しないとなあ。と言うか先代魔王何考えてたんだって話だよね。占領地を痩せさせたら旨味は抜けるだけじゃないか。

 バルゾラ大陸も農業改革とか農地開墾とか色々やって、食糧増産して後方基地として上手く回さないと。あー、海軍を整備して、沿岸警備やアーカル大陸との兵站線維持もしっかりしないと」


 わたしは机上に広げられた世界地図を見遣る。東にある最大の大陸であるコンザウ大陸の奥に描かれている、『リューム・ナアド神聖国』の文字が目に入った。


「……急がないと、な。下手をすれば、この国はまた勇者を召喚しかねないし」


 アオイの様な被害者を出すのは、できれば避けたい事態だった。

 今回は、ちょっとだけ黒いところも出してみました。まあ、世界制覇を狙う悪の秘密結社のメンバーだったわけですし。黒くない方がおかしいかと(笑)。

 それと、旧版とは異なり、改訂版では自分で手を下しましたね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 急ぐなら、お一人で蹂躙しに行かれては!!笑 like ミリム …冗談ですよ
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