運命
最近は朝起きることも辛く無くなってきた。チームメイトがしんどいと嘆いている練習すらも辛くない。
全てはあの人に会うため、あの人と喋るために朝早く起き、練習をこなしていく。
「河野さん、おはようございます。」大学の最寄駅で今
日も会うことができた。わざわざ無駄に朝早く起きてきた甲斐があった。
「佐藤くんおはよう!!」今日も笑顔で挨拶してくれた。どんな楽しい事よりも遥かに高揚感と幸福感に包まれる瞬間だ。
できれば駅から大学に一緒に行きたいが、それは叶わない。彼女は法学部、僕は経済学部だ。
大学に入学して1番後悔したことは法学部を選ばなかったことだ。なんとなく学部を決めた高校生の自分に「なにを考えてるんだ!!今すぐ学部を変えろ!!」と言ってやりたい。
そんなこと不可能だと分かっていても、毎朝考えられずにはいられない。
今日からいよいよ大学生になる。周りは期待と希望を胸に抱いた新入生ばかりだ。もちろん佐藤も例外ではない。
佐藤は中学高校と続けていたラグビー部に入部するつもりだ。
高校ではそこそこ名の知れた学校でレギュラーだったこともありラグビーには人一倍自信を持っていた。
「とりあえず、レギュラーになるかぁ、」
そう言ってラグビー部の練習施設に行き、入部の意思を伝えた。
「はじめまして。入部したいんですが…。」
マネージャーらしき人に声をかけた。
マネージャーは振り向いてこう答える「あ、入部するの?!?!本当に??」嬉しそうに答える姿を見て、佐藤は生まれて初めての感情に出会った。
これが一目惚れ、
それ以外の言葉は思い付かないほどだった。
今まで続けていたラグビーをするために何となく入部するつもりが、この時ラグビーのことなんて頭に一切なかった。
運命だ。運命の人だ、いや運命の人にするしかない!!
入部の説明の内容なんて入ってはこない。
「彼氏はいるのだろうか。」「どこに住んでるのだろうか。」「学年は、好きな食べ物は、趣味は、」
そんなことばかり気になってしまっていた。
説明の中には部活規則や組織構成だとも含まれていたがどうでもよかった。
しかし、練習日程だけはしっかりと聞いていた。
練習日=このマネージャーに会える日なのだから。
今までしんどいとしか思ったことのない練習がこんなに楽しみになることがあるのかと、佐藤は心の底から思った。