神の飼い主
フィクションです。当然ですが。(;^_^A
私は『獲物』を前にし、説得を始めていた。
……
ああ、ええ。私は宗教の勧誘とは違います。私は無神論者ですよ。もっとも仏壇にお墓を備え、おまけに神社に初詣に行き神の子の誕生祭、クリスマスは祝う典型的な現代の日本人ですけどね。貴方もおそらくそうでしょう?
堅苦しいですが軽く話しますね。
人類はせいぜい数万年程度の歴史しかない。それも現代のような自由で高度な文明社会が発達したのは、ここ数百年どころか数十年の歴史です。
科学の進歩は宗教的倫理感を時として脅かした。神や悪魔、天国や地獄、死後の世界なんて存在しないのだと。無情なようでいて、公平な死……
たかだか数万年の歴史の人類を、御都合主義に護ってくれる神などいるはずはないのです。ならば、その人類の数万倍の時代が続いた恐竜を、守護してくれる神はいたのか? 笑止な。恐竜に太古の大半の命の種が巨大隕石により滅んだのは神の意志か? ならば人類もいずれ神の意志により滅ぶのか?
だからといって、そう悲観することはないのです。神がいないなら、死後の世界が無いなら、現世に都合良く作ってしまえば良い。作為的に……愚かで浅はかな盲信者が喜ぶような夢の理想郷を。
神がいないのなら、その地位を誰が占めようと自由だ。いまの科学技術なら、それが可能だ。PCによる合成映像に音声は、現実のそれと区別できないのだから……これを貴方が売り出すのですよ。貴方こそ神の代弁者として。
例えば、よくある設定では死後の世界に地獄は無い。万民の行ける天国では、人はみんな十六歳前後の任意な年齢の若者。体力気力充ち溢れ、好奇心旺盛な青春の駆け出し。
この素敵な季節を、時と言う無粋な枠に束縛されることなく謳歌できるのです。死ぬ心配もなく、怪我や病気も知らず。ただ他者への愛にのみ生き……失礼、死後にとは矛盾ですが続けられる。カルト新興宗教がたびたび宣伝文句にやっている『永遠の命』ってやつですね。
すばらしい理想郷だ。飢えることも渇くこともなく。まったく、短絡的な人が飛び付きそうなエサではないですか。後は自分のルックスを自由に変えられるとかが良いですね、みな美女美男。空を自由に飛べるとか、時空間移動、攻撃魔法なんて超能力が使える設定も良い。R18行為をきままにいつでも誰とでも自由にできるなんて欲も叶うとか。
おまけにもちろん、これは詐欺ではないのです。死後の世界なんて死んだ人でないと解るはずがないし、二度と生き返らない状態を死と呼ぶのだから。誰にも訴えられる筋合いはない理屈です。
……私はこう説明すると、相手……経済に余裕ある資産家の反応を伺った。
彼は断固こう返事した。「お断りします。当方に信仰心が無いからです。自分を偽ることはできません。自分を偽れば、他人の欺瞞も追及できなくなります」
「それは真の信仰厚き方のより良くするところですよ」と、穏やかに答えながらも。堅物め、と舌打ちし……現世に生きる神の飼い主として、私は次の獲物を探し『飛び込み営業』を再開した。
お疲れ様でした~(*'▽')