ボクは大統領!
突っ走ります!(^^♪
ときは二十一世紀の吉日。
とある大陸に位置する某大国首都、その司令塔『ブライトハウス』。世界一の大国を象徴する、豪華な大理石の城。
そこに、若干一二歳にして就任した少年大統領ヤーブ四世と、その補佐官がいた。
……今日も、平和な一日だった。
カッ!
真っ白な閃光が、二人の目を貫いた。
ちゅどどどぉおおおおんんんん……
腹の底を揺るがすような大音響が、大統領のプライベート・ルームに響き渡った。その壁一面をおおうモニターには、巨大なきのこ雲が映っている。
「どうなったの?」
呑気な声で問う少年大統領。
初老の紳士である老獪な補佐官は、押さえた口調で進言した。
「地球温暖化は確かに深刻です。大気温は、確かに下げる必要があります。しかし、『核の冬』を用いてそれを行うというのは、どうも」
「現地の砂漠のネーちゃん(ネイティブ)たちはわかってくれたし。誰の恨みも買うはずないじゃん」
「サソリの怨霊が閣下を呪いますよ」
「ふうん?」
「閣下、現在の環境問題をほんとうにご理解されているのですか?」
「南極の氷が溶けて、陸地が水没しかかってるんでしょ」
「よくご存知で」
「んじゃ、海の水を蒸発させて水量を減らそう」
「お待ちを!」
「ポチっとな」
端末のボタンを押す大統領。
ちゅどおおおおおん!
モニターにきのこ雲が映る。
「逆効果です。水蒸気は、温室効果を高めて気温を上昇させます」補佐官は青い顔で説明していた。「閣下、核兵器を扱うのはビデオゲームとは違うのです。失敗しても、地球はリセットできません。それをご理解なされていますか?」
「もちろん! ボクは大統領だよ」
補佐官は眩暈がするのを、必死に耐えていた。恐ろしげに言う。
「閣下は天災のようなお方です」
「やっぱり? ボクもそう思うよ。ボクって天才だよね!」
「……オメーは人生をリセットしろ」
補佐官は、ぎりぎりと歯軋りをした。
「雲が増えたね。あ、砂漠地帯に雨が降り始めた。これで地球も、緑化促進だね!」少年大統領はにこやかに笑う。「自然保護を訴えてる、あの空豆だか枝豆だかいう連中も、これで納得いくんじゃないかな」
「グリーンピースです! かれらを指定海域から退避させるのは、至難の業でしたよ!」
「誰か怪我した? あの海域サメ多いっていうし」
「死者、行方不明者共に0です。救助は完璧です」
「奇跡だ! 神は我らを見守られてくださるなあ」
「あ~そりゃねえ。自然保護団体の非武装のゴムボートひっくり返すのに、爆雷を使っているようでは、サメも逃げますよ」
「これでしばらく、フカヒレ食べれなくなるかなあ」
「フカヒレの心配をしている場合ですか!」
「サメだって、生き物だよ。『ぼくらはみんな、生きている』。みんな友達じゃないか」
「論点がズレています!」補佐官はぶつぶつとつぶやく。「たしかにフカは、閣下の友達ですけどね。あなたの成績ときたら、不可の群れだし」
「万事順調! さ、次の仕事に取り掛かろう」
「お聞きください。確かに、核による直接の死人は出ていません。ですが、火山の噴火と竜巻、津波、地震等の自然災害が、頻発しているとの情報が…」
「だったら、貯水池を作ろう。この辺りの空き地がいいかな? ちょっとミサイルで掘ってみて……」
「閣下! 核は自然災害を誘発するのですよ!」
「ゆうはつってなに?」手を伸ばす。
「お待ちをぉっっっ!!!」
ポチッ……ちゅどおおおおお!
またまたできる、核のキノコ雲。
「狙いどおり! 大陸がえぐれて海ができたよ。これで水位上昇も押さえられるはずだよね」
「閣下! 世界中から非難のメッセージが寄せられておりますが? 山のように!」
「なんで?」
「なんでって、あんた!」
「じゃ、その山を吹き飛ばそうか」
ボタンに手を伸ばしかける大統領。その手を補佐官は、さっと押さえる。「言い直します! 非難の声は津波のように打ち寄せております!」
「だったら、今度は防波堤作ってみようか。どこの海岸にしようかな? 避難民は守らないとね」逆の手をボタンに伸ばす大統領。
「閣下ぁあ!」
「核兵器は、世界に多すぎだよ。どっかで消費して、減らさなきゃいけないの! ボク平和主義者だもん。兵器の平和利用」
「閣下は平気なのですか!」
「核は兵器だよ。なにカッカしてるの?」
「あんたなぁ……」
「ねえ、なにがいけないの? そんなにみんな、ボクのこと嫌い?」
「ぐわぁあああっっっ!!!」補佐官は頭をかきむしりながら、絶叫した。「殺してやりてーよ! だけどなあ、オメーを殺したら俺たち全員、ゲームオーバーなんだよう!」
[追記]
? 世紀の大愚問……『世界の終わりが始まる』
これって、論理的におかしい言葉じゃない? 世界が終わるんだったら、始まりもなにも無いわけで……で、結論。宇宙は永遠だ!
通報はしないで……(;^_^A