SF読み切り 『永遠なれ光』
それは遥か彼方、永劫の夢。星なんてものが存在しなくなってから、銀河なんてものがとろけ去ってしまってからのおとぎ話……
……ぼくは『光』だ。光とは一瞬にして時間の経過なく永遠の彼方へ走り行く波長無限大、周波数ゼロの限りなき紅き暗き光……
あるいは秒速三十万kmでのんびりノコノコ一番楽な行程を進む波長限りなくゼロ、周波数無限大の限りなき蒼き明るき光……
『光』同士が交差するのはよくあることだ。しかし光とは『波』、波と波は互いに干渉し合わないもの。交差するときだけ互いの振幅を増減させ、過ぎればなにごともなかったかのようにもとの振動に戻る。
ぼくは隣の光に話しかけていた。「きみはいつもぼくと一緒だね」
「なれ合いだけどね。ベクトルとスカラー両方同じでは無理ないわ」
「むかしはぎゅうぎゅう詰めだったけど。二人きりでいられるなんて、いまどき珍しいんじゃないかい? 劫初以来だったものね」
「さて、ね。相対的には限りなくゼロに近いけど、絶対数では限りなく無数にカップルはいるはずよ。まあ、ほとんどみんなばらばらね」
「あの奇妙な存在。ぼくらのことを『神』とか呼んでいたらしいね」
「そんな昔話。神ってなんのことかしらね、世界には光と空間しか存在しないのに……たしかにかつてはほんの少し例外もいた」
「その例外中の『例外』だけど。そういや、かれらは誤解していた。ぼくらの逆、あるいは不在を『闇』と呼んでいた」
「闇も光も同じ空間に存在する本来等価なもの。わたしたちの不在は無、そのものだわ。空間と時、そのものの否定よ」
「かれらは自らの姿を失う……たしかかれらの言葉で『死』を迎えてから、ぼくらに生まれ変わると信じてもいた」
「あたりまえなのに、宇宙には光しか存在しないのだから。かれらが特殊過ぎたのよ。あんなに小さく狭く堅く集まるなんて」
「ええと……『質量』という存在だね。本来宇宙にはただでさえかれらは光に比べ、十億分の一しかいなかった」
「かれら質量の中での特殊な変わり種が『命』と呼ばれるものだった。その『心』と呼ばれるものが、わたしたちに問いかけていた。神とは、命とは、心とは、『魂』とはなんですかって」
「魂はぼくら自身さ、当たり前だけど。宇宙にはそれしか存在しない」
「わたしたちも把握できない――喜び、哀しみ、憎しみ、愛。破壊、創造――何故かかれらはいつも問うていた。自分自身に、空に」
「『感情』ってかれらが呼んでいたものだね。昔は知っていたような覚えも……否、いまもあるさ、自覚として。光、宇宙はつまり魂だ。そしてかれらは死に絶え……無とはならなかった。光と同化した」
「かれらはわたしたちに同化すれば、すべてが許されるとしていた。『最後の審判』の時に。絶対的な量としては極めて小さい存在だったけれど、相対的な意義としては極めて大きな存在だったかも」
「審判……『時間』ってなんのことだろうね……昔は知っていたような気もするのだけれど。『昔』ってそもそもなんだっけ」
「でもわかる。『時』が近付いているわ。わたしたちのようにほんの僅かな存在でも、限りなく大きくなれる。怖くはない? わたしたちも実体の在り方が変わるのよ。一つになるか……永久の別れになる」
「楽しみにしようよ。永久の別れとは言っても、またいつか逢えるさ」
「わかったわ。あなたは信じているのね。そうね、わたしたちが確かに存在して引き合っていたのと同じように、それを信じましょうか」
ぼくはいわゆる感情というもの……そう、不思議な高揚感に包まれつつあった。空間が途切れる宇宙の『果て』、これを揺るぎ超えればすべてが光から質量へ燃え上がるはず……極小であれ、無限大の。
不思議、存在が変わる……未来と過去など意味を成さない。宇宙は命そのもの。すべてはいつまでも生まれ変わり続ける――あなたは『あなた』を生きてください。輝く永遠の光として――




