学園ランナー、オラシロ
珍しく、訓話です。
藤という男の子と橘という男の子がいました。二人は同い年の幼馴染で、仲良かったのですが、性格は似ていませんでした。趣味は合うのですが、決定的に対称的な二人だったのです。
二人とも身体が小さく弱く、幼稚園のかけっこでは常にこの二人がビリかブービーかを争っていました。
藤は、一人称を「オラ」といいました。これはクラスのみんなにからかわれ、藤は「オラ」と呼ばれるようになりました。
橘の一人称は「おれ」でしたが身体が細く、インドア派で色白でした。クラスの連中は「シロ」と呼ぶようになりました。
あるとき保母さんは、この二人に緑の布の紐を一本プレゼントしました。そして保母さんは優しく語りました。「ビリになることを恐れないで、最後まで手を取り合って諦めないで走り続けてね」、と。
しかし二人は泣き喚き怒り狂いました。「ずっと必ずビリになるなんて、こんな屈辱があるか」、と。彼らだって努力していたのです。幼児時代の二人にとって忘れられない痛い苦い想い出となりました。
小学校に上がると、「長距離走」があることを二人は知りました。最初の長距離走、たちまちダウン、二人ともビリとブービーです。
しかし奇跡はこれから始まるのです。やがて二年も過ぎると。
オラは猛ダッシュでトップになって序盤猛然ぶっちぎり、中盤から疲れて最後にはビリになる走り方をするようになりました。
シロはマイペースで自分の身体に合った走りをし、ビリにはならず、下位五分の一になるようになりました。それからもいつも徐々に走り続けて良いとは言えずまでも、じりじりタイムを縮めました。
それから中学に上がると、オラは五十メートルの短距離走に限りですが、学年トップを走れるランナーになりました。一部の女の子たちからそれは熱狂的にもてました。長距離走ではビリですが。
シロは持久力が付き、どんな距離の走りでも平均を走れる生徒になりました。平凡な生徒として、体育でも他の教科でも無名でした。
オラは計算数学が得意でした。暗算で十二桁もの加減算、六桁もの乗除算を解いてのけるその能力から『走る電卓』とまで呼ばれました。方程式や関数についても、習ってもいない範囲すら考えて解けました。一方で漢字や英語、歴史といった暗記モノはまるでダメでした。
対するシロは平均的にどの教科もこなしました。長所はありませんが短所もない。マイペースという単語の似合う少年でした。平凡でしたが誰とでも安心して交友できる気質が美徳な円満な人物です。
高校入試の時、担任から私立の単願なら数学一教科で入れる名門があると、オラは告げられました。一方で別クラスのシロは偏差値五十なら間違いなく安全に入れるよ、と太鼓判を押されていました。
でもオラはシロと別れたくなかったのです。志望校をシロと同じ県立校にしたい旨を話しました。オラの総合学力からでは、難しかったのですが。それにその高校は平凡で、名門とはとても呼べません。
これに担任は怒り、内心書を悪くするとオラを脅しました。しかしオラの家庭は私立高に通う学費もなかったのです。
生活指導の先生とオラとシロと三人で相談し、中学をボイコットし、二人で協力し合っての独学が始まりました。互いの弱点を補う、オラの瞬発力とシロの持久力を持ってしての二人三脚です。
オラとシロは同じ県立普通高に無事合格しました。オラにとって、シロがいなければできなかったことです。シロも自らの成長をつぶさに感じていました。人は互いを支え合って生きる……
あのときの保母さんに謝りたいけれど、それより感謝を捧げたい。紐の絆は絶対の友情の象徴だからです。
(終)
ありがとうございました。(^^♪




