System over
『フィールドを其方に!』
「くっ!」
真横からの白いビームを防壁が受け止めた。
損傷こそないがそれにより数メートル吹っ飛んだ。
視界の端にしゃがみ込む辻和菜が映ったが、それに気を取られる余裕はなかった。
「坂本真白っ!」
“純白”が空を切り裂くように迫ってくる。
船長辺りが、辻和菜が拘束された時にでも助けを求めたのだろう。
その想定はしていたが、予想よりも早すぎる
『アクトおにーちゃん、これ……』
真白の情報がモニターに映し出された。
「『悪』への耐性が……測定不能!?」
『元から“親殺し”が効かないレベルだもんね。だから、アレは直接叩くしかない。ランスを分離して、両手で使えるよ』
玲の言葉に従い、ランスを右腕から切り離した。
本体から離れた事で発射出来る『悪』の威力が落ちるが……元から大して効かないのだから同じ事だ。
「キミ、アクトだね?」
真白は此方まで一定の距離に近づくとそう問いかけた。
「……他に誰か心当たりはあるか?」
「こんな時に!キミは!」
「こんな時に?やはり何かあったのか?」
「……それに答える時間もキミをまた捕まえる余裕もない」
真白のステッキに光が収束されていった。
『……あくまで実践はされてないデータでの数字だけど、指向性フィールドなら真正面から受け止めれば十五秒は持たせられる。此方がフィールドを操作する、だから』
(ああ、突っ込む。一瞬で決めるぞ。でなければ……!!)
「『弾き飛ばす光群』ッ!」
『(蜂の巣だ)ね』
迫りくる光が到達するより先に自ら突撃した。
「!?」
真白は異変にすぐ気付いた。
魔法を打ち止め、後方へと飛び退く、此方はそれに迫る。
「うらぁっ!」
ランスの届く位置にまで迫るとそれを振るった。
「つっ!」
逃げ腰のまま真白はステッキで受け止めた。
当然のように力で押し込むとそれを逆手に取り、真白は距離を取ろうとする。
瞬間、玲から送られた情報がモニターに映る。
ランスには玲が乗り移れる箇所があるという情報を。
「玲っ!」
その意味を理解し、ランスに玲を乗り移らせ――――投擲した。
ランスは玲によって軌道を操作され、開いた刃が真白の胴体に喰らいついた。
「ああっ!?」
「――――捕まえたぞ」
真白が怯んだ隙に距離を詰め、ランスに追いついていた。
ランスの柄を握ると挨拶代わりに『悪』をゼロ距離から見舞った。
「うわぁぁぁぁっ!?」
それは試し撃ちに過ぎない。
衝撃に真白は驚いたが、ダメージは大して通っていないようだった。
「……流石にその耐性ではこれのゼロ距離でも大した意味はないか、だが!」
開いたランスが閉じる力を強める。
「っ!う……ぐ……っ!」
「本命は此方だ……!」
ミシミシと、ランスが真白の身体を締め上げる。
「あ……が……っ!」
真白が苦し紛れに放った魔法は指向性フィールドを展開し、弾いた。
「どんなに強力な魔法を持っていようとも――坂本真白、お前のその身は少女に過ぎない。魔法と衣装の加護で耐えきってはいるようだが、それももう限界だろ?」
「……!……!」
真白は答えない、答える事が出来ない。
「――なら、もう終わりだ!」
もう一息出力を上げれば、ランスは真白の骨を砕き、その身を断ち切る。
幼い少女を手にかける、その罪悪感を心の奥に押し殺し、出力を――――
『駄目っ!アクトおにーちゃん!』
――玲の叫びに呼応するように、警告音がスーツの中で鳴り響き、モニターには『ERROR』の文字が表示されていた。
「なっ!?」
『エラーコード00……機能が緊急停止……!』
「エラーコード00だと!?玲、エラーコードの強制排除は!?」
『出来ない!このコードは何よりも優先されるって!』
「っ!!」
追加武装のプランについては当然、制作前に目を通している。
エラーコードについても詳細はまだだが、大体の事は理解している。
システム上生じるエラーから戦闘による破損、故障によって生じるエラー……仮に戦闘中に出た場合、戦闘を中断して対処するというのは現実的ではない事からエラーを強制排除し、問題を抱えたままでも可能な限り戦闘を続ける事が出来るはずだった。
だが、この状況――――そして、00という番号のエラーコードは存在しないという事実。
いや、厳密には記載がなかっただけだ。
その理由として考えられる事としては技術の進歩によりプランを想定したエラー以外の物……だが、その場合割り振られる番号は00ではない。
ならば、他に考えられる可能性。考えたくない可能性。考えざるをえない可能性。
「……どういう事、だよ」
『アクトおにーちゃんっ!このままだと全機能が停止するよ!離脱してっ!』
「俺はアンタの意志に従っただろ!」
『聞いてるの!?このままだと墜落…………ああ!』
「ふざけるな!クソ親父ぃぃぃっ!!」
『全機能……緊急停止……』
画面が暗転した。
構わずに声にならない叫びをあげた。
海面に堕ちた衝撃だけが此方に返ってきた応えだった。




