生存者
父がこの追加武装を予め作っておかなかった理由は単純に父の専門分野ではなかったからだ。『悪』を用いた武装という点では父は十年以上経っても最先端の技術だという確信があった。というよりは、そのような武装は自分しか使えない。
まぁ、応用武装を八木が使っていたので単純な技術でも前線に耐えうるものなのだろうが。
パワードスーツの技術はどちらかと言えば、若月グループのアンドロイド技術に近い。
なので、活動を始めて、若月グループからサポートを受けてから技術提供を受け、作り始めれば、最先端の技術で制作出来る事から、このような形になった。
そして、それだけの手間をかけるだけの価値がこうして目の前に証明されていた。
「単純な打撃・斬撃でこれだけの威力……これなら魔法少女にだって……!」
船は完全に沈黙し、そのまま沈む事を待つだけだった。
『アクトおにーちゃん』
「玲、そっちではどんな感じだ?」
『……きっと、お父さんはアクトおにーちゃんが他の人格を取り込む事を想定していたんだと思う』
「どういう事だ?」
『このパワードスーツには霊体を留まる場所を複数設けてるみたい。そしてそこに留まる事でアクトおにーちゃんのサポートを出来るようになってるの』
「サポート?」
『今、アクトおにーちゃんの視点……モニターには視界を邪魔しないように戦闘に必要な情報しか表示されていない……そうでしょ?』
『という事はそっちには、他の情報が?』
『色んな情報がこっちには流れて来てる……この情報は意図的にシャットアウトしてアクトおにーちゃんには見れないようにしてるみたいだね』
「何故そんな事を?いや、何故そうだとわかるんだ?」
『今話している情報もシャットアウトしてるからだよ。多分だけどお父さんはアクトおにーちゃんが他の人格を取り込んだ時に戦いやすくする為にこうしたんだと思う』
「戦いやすく?そうか、情報量が多いという事は無駄な情報も多い。戦闘中に必要な情報を取捨選択する手間を省いたという事か」
『そう。その役目はこっちに。情報のシャットアウトは此方で解除出来る。それで必要な情報だけをアクトおにーちゃんに伝える事が出来る。勿論、口頭でも伝えられるけど……こんな事が出来る利点がある』
モニターに微弱な超能力の反応が表示された。
玲がシャットアウトを解除した情報だ。
「これは……!」
位置は沈没していく船。
その船の反応のあった地点から辻和菜が這いだした。
「……かはっ」
沈んでいく船を足場に辻和菜は生還を果たしていた。
「月並みな台詞だが……何故、生きている?辻和菜」
辻和菜はその目を射抜くように鋭くし、右手には甲板に投げ捨てたはずの刀を左手にはいつの間にか組み立てた機関銃を手にした。
「……某は遥香に生かされた」
「三橋遥香に?」
辻和菜が此方に銃口を向けた瞬間、超能力の反応が表示された。
「あれは……」
辻和菜は銃の適正が低い。それは三橋遥香の記憶によって知りうる情報だ。
元の適正が低い分、一週間程度の訓練で移動可能な飛行物に当てるというのは不可能であり、仮に当たったとしても連射して数発まぐれ当たりというところだ。
だが、辻和菜の放った弾丸達は正確に此方を撃ち抜こうと軌道を無理矢理曲げてきた。
『指向性フィールドを!』
しかし、それは寸前のところで防御壁に阻まれる。
両肩の装甲に設置された防御装置。魔法少女に対抗しうる特別性であるそれは、機関銃の弾丸等問題ではなかった。
「――――そうか、それは三橋遥香の指向操作の超能力。お前は三橋遥香が消滅した際に真下に居て……あの光を浴びた。だから、三橋遥香の力を手に入れたんだな」
指向操作によって、爆風を反らし、海中にありながら、武装を濡らさずに海面に出る。
難度は高くても、可能ではある。
「火事場での馬鹿力か、候補生とはいえヒロインらしくはあるな。しかし、限界だろう?」
辻和菜はそれだけの事をやり、今も力を使っていて、薬もまだ抜けきっていない。
「う……ぐ……遥香、某に……!」
「執念だな。だが、コイツを反らせるだけの力はないだろ?」
ランスが開き、露出した銃口に『悪』のエネルギーが収束していく。
データによると火力は通常時の三十倍。
精神だけで持ちこたえられるものではないという確信があった。
「ここまで、だ……な!?」
モニターの端に遠方からのエネルギー反応が表示された。




