交渉
辻和菜の携帯電話を用いて、登録してあった船長宛てに動画を送った。
動画の内容は倉庫にあったロープで辻和菜を拘束した事、そして時限装置により二十分後、辻和菜を拘束している部屋に設置したオイル(倉庫で発見した)に引火し、爆発炎上する事、
時限装置の仕組みは辻和菜を拘束している部屋の扉を開ける事でも起動する事を述べた。
そして、それらを解除する条件として、武装等の奪い取ったものの変換と船の明け渡しを要求する、というものになっている。
要求の中で通したいものは武装と転送装置の回収のみだ。
船の明け渡し要求はブラフ、無茶な要求でもあるので交渉の際に譲歩する時のカードだ。
交渉の場として十分後に甲板。
時間通りに船長が来なければ、その場で即座に時限装置を起動する事も付け加えた。
なお、時限装置というのは厳密には違う。
液体を拘束部屋から垂れ流す事で外部から操作出来るようにしたに過ぎない。
発火の仕組みは途中で遭遇し、撃破した船員の持ち物であるジッポライターを『悪』を筒状に展開する事で垂れ流しにしているオイルから引火しないようにしている。
引火する際は筒を解除し、ライターを倒す。逆に解除する場合は『悪』の中の水でライターの火を消化する仕組みだ。
そして、十分が経った。
液体を途切れさせないように扉を開け、甲板に出た。
そこには船長らしき老人とその周囲に武装した船員達が五人居た。
「……随分な出迎えだな?一応、言っておくが交渉中に此方に向けておかしな真似を見せれば、即座に時限装置を起動するぞ?」
「それは失礼したのぉ。だが、君はウチの船員を二人程殺しているじゃろう?」
船長は此方の右手を見る。
右手には辻和菜から奪った刀を持っている。
その際に血液が必要だったので必要以上に残虐的なやり方も行った事もあり、刀からは血が垂れていた。
「仇を討ちたいと言うのなら、それもいいが……その場合、辻和菜の命と爆発による船の安全は保障しない」
「その場合、君も同じ目に遭うのではないのかね?」
「このまま、抵抗せずに実験動物になるか恨みを買った相手に殺されるよりは道連れにして死ぬほうがマシだろう?」
「…………」
船長は何も答えず、空を見上げた。
大物感を出して、此方のペースを乱そうという腹づもりらしい。
「あれは無人島か?さっきより近くなっている。あそこが目的地とも思えないが……船がやられた時はあそこに避難しようという事か」
「…………」
「無駄話をするつもりはないというのなら、此方も好都合だ。要求したものはどこだ?」
船長が船員の一人に目配せをした。
「ここにある」
船員が此方の銃と予備のカートリッジ、そして転送装置を取り出した。
その際に転送装置が光を反射した。
『……アクトおにーちゃん』
(左手は自由にしておく、反応を任せていいな?)
『うん』
周囲を気にする素振りを見せた。
「……銃を降ろせ、交渉するつもりがないのか?」
「おい」
「はっ!」
船長が手を上げると周囲の船員達の銃口が下がった。
「……交渉を続けるぞ。船長、そいつを渡して貰おうか」
「それは些か困るのぉ」
狸だな、と感じた。
「困るも糞もあるか。元々は此方の物だ」
「だが、君に返してしまえば、儂らは皆殺し、じゃろう?」
「丁度都合がいい。そのまま海に飛び込めばいい。その為に、島に近づけてるんだろ?」
「君が後から襲わないという保障はないじゃろう?」
「それはお互い様だ。口頭では信頼ならないだろうが、保障はしてやるよ」
「船長としては他の乗組員を置いて脱出する訳にはいかんじゃろ?」
「なら、最後まで此処に残れ、他の奴らは先に海に飛び込め」
「ふむ……安全は保障してくれるのかね?」
「要求を飲むのならな」
「辻君や此処にいない者は?」
「同じように解放するさ。安全も保障する」
「ふむ……」
「時間稼ぎはいいが、時間がないのは其方のほうだ……後五分を切った」
「仕方あるまい。君の要求を飲もう」
「では、船長。持って来てもらおうか」
「儂がかね?」
「……後三分」
「おっと、わかった。持っていこう」
船長は船員から武装を受け取る振りをして、転送装置だけを取った。
腹の中で“馬鹿が”と罵った。
弾切れの武装のみを渡すつもりなら指摘していた、だが、此方が一番求めている転送装置を渡すと言うのなら構わない、その場合の対策を取るだけだ。
『仕掛けてくるんだね?』
(恐らく、な)
「ああ、すまぬが一ついいかね?」
「なんだ?」
「要求を飲むのだから、其方も譲歩してもらえんか」
「ほう、何を?」
元は船の明け渡しを譲歩するつもりだった。
だが、それを形の上でとは言え、飲まれた以上、此方が譲歩する事はない。
「辻君の解放とその刀を捨てて貰えるかね?」
「……それは無茶な要求だな」
「じゃが、土壇場で裏切られては儂らも浮かばれんのでな」
「馬鹿を言うな。辻和菜の解放は最後だ。でなければ、それこそ此方が裏切られる」
「では、刀を捨てて貰えんか?背を向けた瞬間に斬られては堪ったものではないのでな」
船長が引き出したかった条件はこれだ。
自身の安全を確保した上で仕掛けたかったのだ。
「……なら、こうしよう。船長、アンタがこっちに渡すと同時に刀を捨てよう。それなら後ろから斬られる事もないだろ?」
「致し方あるまい。では、それでいこうかの」
船長が此方へと歩み寄ってくる。
船長がまずはこれじゃ、と転送装置を出してくると同時に刀を捨てた。
『来る、アクトおにーちゃん!』
「船長」
「なに……
「――茶番だったな」
転送装置を受け取ると同時に左手が後方へと船長を振り回した。
そして銃声が響いた。




