失態
「何?」
辻和菜の困惑は自身の理解の範疇を越えたものに対してだ。
当然、その隙を逃がすような真似はしない。
「ああっ!?」
反応が遅れた辻和菜を組み伏せた。
「油断したか、所詮は“擬き”だな、辻」
「き、貴様っ!」
左手はとうに再生している。
右手に枷は残るがこれで両手を自由に使える。
しかし、両足を同じようにという訳にはいかない以上、組み伏せた状態のまま辻を行動不能にしなければならない。
当然簡単なのはこのままトドメを刺す事だ。だが……
「安心しろ。このまま殺しはしない」
「何っ!?情けをかけたつもりか!」
「お前には利用価値があるという事だ。人質としての、な」
「卑劣な!」
「『悪』になにを吠える?」
「くっ!そのような辱めを受けるなら……この場で殺せ!」
「選択権がお前にあるとでも?」
先程の睡眠剤を探そうと辻和菜の服に手を伸ばした。
僅かに残った薬でも、辻和菜の自由を奪うくらいは出来ると踏んでいた。
「っ!『風射』!」
刀から風が巻き起こる。
この程度の抵抗は予想していた。
刀自体を抑えつけた。
しかし、それは罠だ。その行動が辻和菜の左手を自由にしてしまった。
「うっ……!」
その左手が此方の喉に喰らいついた。
「このっ!」
辻和菜の左手は義手た。
そして、辻和菜がヒロイン候補生である以上、その義手とは日常生活を送る為だけのものではない。
「っっっあっっがっっ!!」
本来ならある筈のない力、最早、武器に数えていい程の負荷が此方の首を締め上げる。
『アクトおにーちゃん!』
此方の左手が辻和菜の義手へと叩きつけられる。
「そのような抵抗っ!」
辻和菜は構わず負荷を強めていく、その負荷は此方が絶命するまで続くだろう。
(玲、左肩だ。義手の付け根を狙え)
『!』
その言葉に従い、付け根に何度も左手を叩きつけた。
だが、硬度が違う。
辻和菜の義手は鉄製である。
ぶつかり合い負けるのは此方の左手だ。
だが、それで十分だった。
「そんな腕で……!?」
辻和菜の義手が停止した。
「な、何故っ!?」
辻和菜の左手は義手だが、此方の左手は半霊体で使い捨てが出来る。
だから、あえて左手を潰し、血液を流す事で液体を手に入れ、それ『悪』で操作し、内部は精密機械であるだろう義手を内側から破壊した。
「……がはっ!」
停止した義手から身体を上げて逃れた。
その時、視界に辻和菜の胸ポケットに睡眠剤があるのが見えた。
「あっ!?」
それを乱暴に奪い取った。
「……僅かに残っているだけか。だが、使えない事はない」
睡眠剤を辻和菜に突き刺した。




