拘束
「っああっ!」
自然と声が出た。
「起きましたね」
「抑える、睡眠剤を」
「はい」
男女が二人。
それぞれパイプ椅子に座りながら会話をしていたかと思うと此方に歩み寄ってきた。
それから逃れようとするも身体が思うように動かない。
両手両足を鉄の塊のような枷で拘束されていた。
「今です」
そうこうしている内に二人の男のほうに押さえつけられた。
女の方が銃のような物を取り出し、此方の首元に押し付けた。
カシャ、という音が聞こえると同時に覚醒したばかりの意識が混濁していく。
「おお、流石の効き目ですね」
そのまま流れに身を任せそうになるのを必死に口の中の肉を噛んで堪えた。
一点、正常な意識に戻すとそこを足場にして自分を取り戻していく。
こういう時の対処法は想定してある。
仕組みに詳しい訳ではなかったが、睡眠剤が血液に作用して意識を混濁させているのがわかった。
ならば、その血液を正常なものに戻せばいい。
血液も液体だ。
ならば、意識する事で『悪』によって操作が出来る。
同じように血液の中に睡眠剤が混じったというのならそれさえ捕まえれば、操作は簡単だ。
大して時間を必要とせず、睡眠剤の無効化に成功した。
男女二人はそれに気付いていない様子だった。
ヘルメットで此方の顔が見えないのが幸いした。
(……玲)
『起きたんだね、アクトおにーちゃん』
(状況を確認したい。見てたんだよな?)
『まぁ、霊体は眠る必要がないからね。どこから話せばいい?』
真白に敗れた後、身柄を拘束されSTRIKERSの拠点に連れていかれた。
拠点に入り尋問を受けている最中に、恐らくは先程と同じ睡眠剤で眠らされた(その時は不意打ちで対処出来なかった)為、その後の事は何も分かっていない。
(眠らされた後から頼む)
『うん。アクトおにーちゃんが眠らされた後は……まず拘束を今の鉄のやつに変えられた』
(抵抗は……いや、しないほうが無難か)
『そうだね、左手だけなら動かせたけど、アクトおにーちゃんが眠ってる以上、下手な真似は起こせなかった』
(そうか……左手?そうだ、左手だ。話が脱線するが俺の左手はどうなってるんだ?)
『左手だけは此方が優先的に操れるのは理解してるよね?』
(ああ、普段は俺の意志で動くが、非常時は玲の意志が優先されるみたいだな)
『アクトおにーちゃんと同化した際に出来た副産物なんだけど、原因は此方の呪いっていうのは話した?』
(……聞いた気がするが、そうはっきりとは言及してなかったと思う)
『そう?気付いてるような気がしたんだけど』
(……ああ、そういう事か)
『え、なに?』
(後で話す。さらに脱線してしまうからな)
『わ、わかった。で、元の呪いの影響で左手の優先権は此方にあるんだけど、具体的にどういう影響を及ぼしたかというと、左手だけ半霊化したの』
(半霊化?もしかして、それって左手だけ玲の左手に置き換わったのか?)
『近いけど、あくまで半分。全部なら元の手から考えてサイズが違うでしょ』
(ああ……そりゃそうだ)
元の身体のサイズは中学三年生の男子と小学生の女子だ。
『それで左手が半霊化した事で出た影響は二つ、さっきから話してる優先権と再生能力』
(再生……そうか、だから何度も)
『そう、霊体の特性は知ってるよね?核である魂がやられない限りは自由に再生出来るのは……お母さんに聞いたんだっけ?あれ、何でそんな事……』
(大体わかったから、脱線ついでにそれも話しておこう)
『え……う、うん』
(俺達は同化した際に記憶を共有するようになったのは解っているな?)
『うん、互いの過去を知ったんだよね』
(ああ、だが、それは過去だけじゃない、現在もだ)
『え?』
(考えてみれば至極当然の事かも知れない。俺達は同化したんだ。歪な形とはいえ、身体を共有したように、記憶も共有する……当然、これからも)
『それって……』
(まぁ、余り離れられない以上、殆ど同じ物を見ているから、判りづらいかもな。だから、それぞれの視点での記憶を確認すればいい)
『…………あ。あの魔法少女が来る前に言ってた事?』
(ああ。試しに俺の視点での記憶を思い出して欲しい。あの直前、俺は水を汲み、玲は周囲を警戒していた……俺はこの仮説の為に水を汲む際に空いた手で手遊びをしたんだ。
それが、なんの形か思い出してみてくれ)
『……チョキ?いや……きつねさんだ!』
(ああ。あの時、玲が盗み見していない限り、これで玲は納得出来ただろう?)
『う、うん……プライバシーとかないんだよね』
(まぁ、同化した以上仕方ないかもな……じゃあ、ここで脱線した話を戻そう。そして俺の方も試させてもらう)
『え?……ああ、アクトおにーちゃんも試すんだね?』
(ああ、丁度いい題材が出来た……答え合わせを頼む)
『いいよ。えっと何処まで話したっけ?』
(確か、眠らされて拘束されたところまでだ)
『じゃあ、そこから先を思い出して』
(ああ。……拘束された後は、暫く見張られた後、誰かに引き渡されたんだな?)
『うん。多分、あれはここの船長なんだと思う』
(恐らくはSTRIKERSの支援組織の一つだろう。そのSTRIKERSからは……一人だけ?)
『こっちもおかしいな、と思った。船の中で合流するのかなとも考えたんだけど』
(確認できてるのは一人だけ……それも今見張っている女…………辻和菜?)
『そうだね。彼女が復帰している事も少し驚くけど。それ以上に』
(コンビで相方を失った奴一人に……本当に一人だとしたら、俺は舐められているのか?)
『それ程まで拘束に信頼してる……とは思えないね』
(ああ、俺なら見張りの目がなければ、壊す事は容易い)
『辻さん……彼女に対する信頼だとしても敗北した相手に着けるというのもおかしな話だよね?』
(或いはそれが狙い……いや、やめよう。推測の域を出ないし、また話が脱線した)
『そうだね。じゃあ、続きをお願い』
(引き渡された後は護送車でこの船まで……見た限り他に捕まった奴はいない。この船自体もそこそこの大きさ。人員を割かない割に俺一人に大層な事だな)
『やっぱりおかしいよね?』
(何かあった?と、推測はともかく。その後はこの檻付きの部屋に運ばれ、二人体制でずっと見張られてるって訳か)
『うん。間違いはなかったね』
(それはいいが、記憶では時間の感覚が掴みにくい。一体どれくらい時間が経ったんだ?)
『……拠点で三日、護送車で一日、船で三日だよ』
(……は!?一週間だって!?)
どうやら時間の感覚だけは当てにならないらしい、記憶を見ただけでは一日か二日程度にしか感じなかった。
だが、それ以上に睡眠剤の効果の大きさにショックを受けた。
『うん。距離で考えても相当なものだと思う。車で一日に船で三日……甲板に出て陸地を確認出来るかわからないかも』
(……)
『これから、どうするの?』
(……脱出するさ。目的地が何処か知らないがそこに着くまで待つというのは得策とは言えない)
『具体的な方法はあるの?』
(ああ。この船に転送装置や武装も一緒にあるのなら……)
『そんな事ってありえるの?』
(連中の目的は分からない。だが、予想は立てれる。その予想が正しければ……あるさ)
『その予想って?』
(……拘束された『悪』の人間がどうなるかは知らない。一般にも公表されていないしな)
『なのに予想出来るの?』
(両親の遺したものや若月家に調査資料があった。あくまで噂の段階らしいが……まぁ、巷の都市伝説よりはマシだな)
『それって、信頼出来るの?』
(五分五分ってところだ)
『この状況なら合ってる事を祈るしかない、か……』
(ああ。で、その資料によるとSTRIKERSの支援組織から援助を受けて、建てたと言われてる収容施設があるらしい)
『それって刑務所みたいな事?』
(形式はそうだが、実態は違うらしい)
『どうしても“らしい”、は多くなるね……で、その実態って?』
(研究施設だ)
『……大体わかった。要はこっちの技術を手に入れる為ね?』
(それもあるが、もう一つ目的がある。人体実験っていう目的が)
『人体実験!?このままだとモルモットにされるって事!?』
(ああ、十分あるな)
『なんの為にそんな……』
(一つは収容施設としての意味合い。俺達への罰だ)
『罰って……』
(もう一つは研究施設としての意味。成果の確認や研究そのものだろう)
『……本当にそんな事があるの?』
(さぁ?五分だと言ったろ?)
『確認はしたくないね……脱出成功させてね?』
(努力する)
『……あ、そうか。研究施設だから、此方の技術を手に入れる為に武装や転送装置も必要だから、船の中にあるって事だね』
(そうだ。そんな施設が実際にあるのなら移動手段、運搬手段は限られている。『悪』の者とはいえ、元は人間だ。世間にばれたら人権問題に発展するだろうしな)
『まぁ、一般人の心象は悪くなるだろうね。でも、本当だったら、の話なんだよね?』
(そうだ。だが、状況を見るにそういう理由なら納得出来るだろ?)
『確かに。じゃあ、すぐにでも行動を起こそう』
(いや、機を待て。見張りが一人になるタイミングがあるはずだ)
『あるの?』
(あるさ。いや、そういう状況を作ってくるだろう。辻和菜が此処にいるのなら)
『アクトおにーちゃん、それって……』
(何故、辻和菜が見張り役になったかは知らない。だが、アイツの考えは予想出来る。例え、任務を無視する事になっても俺を殺そうと考えているはずだ。俺は三橋遥香の仇だから)




