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悪と善と妹(仮)  作者: 結城コウ
36/59

純白の死神

予備も含めてカートリッジへの水の補充が終わった。

(玲、とりあえずこっちに来てくれ)

『……そんな場合じゃないみたい』

「!」

階段から降りてくる音が聞こえた。

――それは死神の足音だ。

『アクトおにーちゃん!』

(分かってる……!)

カートリッジを銃に差し込み、魔法少女の襲来に備える。

一週間前とは違う。

武装はほぼ全てが万全。使い方も理解している。

そして、玲を同化した事で『悪』が底上げされている。

さらに相手の手の内をある程度知っている。

それでもなお、格上の相手。

せめて、追加武装が完成していたのならば状況も違っていたのだが……今はそんな泣き言は言っていられない。

考えうる最善手を持って、打倒もしくは離脱。

どんなに可能性が低くても手繰り寄せなければならなかった。

でなければ、待っているのは死なのだから。

「……こんなところにいたんだね」

それには答えず、バトルモードに切り替える。

「話をするつもりはない、って事かな?」

魔法少女はステッキを此方に向ける。

「……そうだ、名を名乗れ」

「え?」

魔法少女はきょとんとした表情で此方を見る。

「お前たちはいつもそうだ。仮にも殺し合いをするって言うのに、名も名乗らず攻撃してくるなんて…………そういうのは本来こっちの領分だろ?」

「……ましろ」

「ましろ……?そうか、お前があの“純白”の坂本(さかもと)真白か」

ヒロインには正式にヒロインに任命されると何処ぞの認定機関(支援組織の一つらしい)から色の称号を与えられるそうだ。

そして、その色が白に近ければ近い程、王道のヒロイン、正統なる『善』の後継者として扱われるらしい。

「そうは呼ばないで、余りその名は好きじゃないの」

そうは言うが、魔法少女・真白はその名と称号に相応しく、白を基調としたコスチュームとステッキを装備している。

コスチュームの範囲なのかは知らないが、髪をサイドに束ねているリボンさえも白色だ。

「此処で見逃すって言うなら、呼ぶ事もないさ」

そうは言いつつ、真白の表情を伺う、何処で隙が出来るか、何処で仕掛けてくるかを見ていた。

「それは出来ないって事くらいわかるでしょ?」

それは冷たい声だった。

改めて見ると、真白は恐らくは聖より少し下、小学校高学年から中学生ぐらいの幼い少女。

それも美をつけてもおかしくない程の。

魔法少女という役割の明るい響きの事を考えても、そんな年頃の娘が出すような声とは思えなかった。

「そうかい、残念だな」

ステッキの動きを注意する。

ステッキの先はカニバサミの様に切れ込みの線が入った形状。

槍を連想させるが、魔法を使う際はあの切れ込みが開き、そこから魔法が放出される。

「キミは名乗らないの?」

そのステッキを此方に向ける。まだ、カニバサミは開いていない。

「アクト……そっちの名乗りに合わせるなら漆黒のアクトとでも名乗ろうか」

「漆黒のアクト?」

「まぁ、こっちは認定機関なんてないから自称になるが……やめておこう、気持ちがわかったよ。恥ずかしいな、この名乗りは」

「……別にましろはそういうのじゃないけど」

「ん?」

真白はどうでもいいと言わんばかりに首を振った。

「さぁ、覚悟は出来た?」

カニバサミは開いていた。

ヘルメットのモニターの転送装置のチャージ時間を確認する。

後、二分程度。

時間は稼げるだけ稼いだ。

迎え撃つ最低限の準備はしたとはいえ、逃げられるなら逃げたほうがいい。

だが、少なくとも後二分耐久しなければならなかった。

(玲、二分後に転送可能になる)

『わかった、いざとなればこっちで左手を……アクトおにーちゃん』

(なんだ?)

「構えないの?……それで時間稼ぎのつもり?」

真白はステッキを振り抜いた。

「っ!」

光の弾が此方に飛んでくる。

それを左手で予備のカートリッジを展開して弾いた。

「……そう、これくらいは跳ね返せるのね」

場所は小学校の中……無人とは言え、出来る限り学校内を壊したくないというのが真白の考えだろう。

「この!」

右手に銃を引き抜き、真白に向けて撃つ。

……ならば、そこが勝機だ。手加減をしている内にそこに付け込む。

「……」

真白は回避行動を取らない。

取らずにそのまま『悪』の弾丸が直撃した。

「!?」

その行動に驚いた。驚いてしまった。

――――その隙は致命的だ。

『アクトおにーちゃん!』

「あ……!!」

気が付いた時は、死神(ましろ)はすぐ目の前にいた。

真白はステッキを開き、そのカニバサミで此方を掴もうとして――

『――!!』

――左腕を掴んだ。

「玲!?」

『撃って、早く!』

「!うああっ!!」

此方が引き金を引くのと、此方の左腕が吹っ飛んだのは同時だった。

「なっ……!!」

幸い、痛みは極度の緊張下で脳内麻薬が分泌しているのか、耐えきれる程度だった。

だが、至近距離で胸に弾丸を喰らったはずの真白は、傷一つなかった。

「効かないよ、そんなの」

今度はカニバサミが此方の胴体を掴んだ。

「ぐっ!」

「抵抗はしないで……あまり此処を汚したくない」

まだ、三十秒しか経っていない、転送は無理だ。

「――――」

左手でステッキを掴んだ……掴んだ、掴めた?何故……??

「え……なに!?」

真白は予想だにしていない出来事に冷静さを欠いた。

その一瞬の隙が好機となる。

「捕まえたのはこっちも同じだぞ!」

『親殺し』を展開し、無防備な真白の腹部へ叩き込んだ……はずだった。

それが強力な反発に合い、ステッキごと真白が五メートル程吹き飛んだ。

「な?!」

『アクトおにーちゃん、予備のカートリッジを回収して!まだ、()()()がある』

(!)

玲の助言に従い、吹き飛んだカートリッジを回収する。

その間に真白は起き上がっていた。

「キミ、何者なの……?最初会った時から数えて五回は死んでるはず……どうして土壇場で逃れられるの?」

「……それは俺の台詞だ。お前、アレを喰らってなんで生きている?」

睨みあいが続く、だが十秒程の事だった。

「――もう手加減はしないよ」

それは死刑宣告に等しい。

「『弾き(シャイン)飛ばす光群(・アウトバスター)』」

「!」

それは先程見た、つるべ撃ちだ。

だが、学校の廊下なんて場所で逃れる場所は――

『窓よ、飛んでっ!』

玲の声に従った。

カートリッジをナイフ状に展開し、すぐ傍の窓を突き破った。

落下しながら自分が元いた場所を見る。

光の粒子に包まれ、やがて爆音が突き当りの壁を破壊した。


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