純白の死神
予備も含めてカートリッジへの水の補充が終わった。
(玲、とりあえずこっちに来てくれ)
『……そんな場合じゃないみたい』
「!」
階段から降りてくる音が聞こえた。
――それは死神の足音だ。
『アクトおにーちゃん!』
(分かってる……!)
カートリッジを銃に差し込み、魔法少女の襲来に備える。
一週間前とは違う。
武装はほぼ全てが万全。使い方も理解している。
そして、玲を同化した事で『悪』が底上げされている。
さらに相手の手の内をある程度知っている。
それでもなお、格上の相手。
せめて、追加武装が完成していたのならば状況も違っていたのだが……今はそんな泣き言は言っていられない。
考えうる最善手を持って、打倒もしくは離脱。
どんなに可能性が低くても手繰り寄せなければならなかった。
でなければ、待っているのは死なのだから。
「……こんなところにいたんだね」
それには答えず、バトルモードに切り替える。
「話をするつもりはない、って事かな?」
魔法少女はステッキを此方に向ける。
「……そうだ、名を名乗れ」
「え?」
魔法少女はきょとんとした表情で此方を見る。
「お前たちはいつもそうだ。仮にも殺し合いをするって言うのに、名も名乗らず攻撃してくるなんて…………そういうのは本来こっちの領分だろ?」
「……ましろ」
「ましろ……?そうか、お前があの“純白”の坂本真白か」
ヒロインには正式にヒロインに任命されると何処ぞの認定機関(支援組織の一つらしい)から色の称号を与えられるそうだ。
そして、その色が白に近ければ近い程、王道のヒロイン、正統なる『善』の後継者として扱われるらしい。
「そうは呼ばないで、余りその名は好きじゃないの」
そうは言うが、魔法少女・真白はその名と称号に相応しく、白を基調としたコスチュームとステッキを装備している。
コスチュームの範囲なのかは知らないが、髪をサイドに束ねているリボンさえも白色だ。
「此処で見逃すって言うなら、呼ぶ事もないさ」
そうは言いつつ、真白の表情を伺う、何処で隙が出来るか、何処で仕掛けてくるかを見ていた。
「それは出来ないって事くらいわかるでしょ?」
それは冷たい声だった。
改めて見ると、真白は恐らくは聖より少し下、小学校高学年から中学生ぐらいの幼い少女。
それも美をつけてもおかしくない程の。
魔法少女という役割の明るい響きの事を考えても、そんな年頃の娘が出すような声とは思えなかった。
「そうかい、残念だな」
ステッキの動きを注意する。
ステッキの先はカニバサミの様に切れ込みの線が入った形状。
槍を連想させるが、魔法を使う際はあの切れ込みが開き、そこから魔法が放出される。
「キミは名乗らないの?」
そのステッキを此方に向ける。まだ、カニバサミは開いていない。
「アクト……そっちの名乗りに合わせるなら漆黒のアクトとでも名乗ろうか」
「漆黒のアクト?」
「まぁ、こっちは認定機関なんてないから自称になるが……やめておこう、気持ちがわかったよ。恥ずかしいな、この名乗りは」
「……別にましろはそういうのじゃないけど」
「ん?」
真白はどうでもいいと言わんばかりに首を振った。
「さぁ、覚悟は出来た?」
カニバサミは開いていた。
ヘルメットのモニターの転送装置のチャージ時間を確認する。
後、二分程度。
時間は稼げるだけ稼いだ。
迎え撃つ最低限の準備はしたとはいえ、逃げられるなら逃げたほうがいい。
だが、少なくとも後二分耐久しなければならなかった。
(玲、二分後に転送可能になる)
『わかった、いざとなればこっちで左手を……アクトおにーちゃん』
(なんだ?)
「構えないの?……それで時間稼ぎのつもり?」
真白はステッキを振り抜いた。
「っ!」
光の弾が此方に飛んでくる。
それを左手で予備のカートリッジを展開して弾いた。
「……そう、これくらいは跳ね返せるのね」
場所は小学校の中……無人とは言え、出来る限り学校内を壊したくないというのが真白の考えだろう。
「この!」
右手に銃を引き抜き、真白に向けて撃つ。
……ならば、そこが勝機だ。手加減をしている内にそこに付け込む。
「……」
真白は回避行動を取らない。
取らずにそのまま『悪』の弾丸が直撃した。
「!?」
その行動に驚いた。驚いてしまった。
――――その隙は致命的だ。
『アクトおにーちゃん!』
「あ……!!」
気が付いた時は、死神はすぐ目の前にいた。
真白はステッキを開き、そのカニバサミで此方を掴もうとして――
『――!!』
――左腕を掴んだ。
「玲!?」
『撃って、早く!』
「!うああっ!!」
此方が引き金を引くのと、此方の左腕が吹っ飛んだのは同時だった。
「なっ……!!」
幸い、痛みは極度の緊張下で脳内麻薬が分泌しているのか、耐えきれる程度だった。
だが、至近距離で胸に弾丸を喰らったはずの真白は、傷一つなかった。
「効かないよ、そんなの」
今度はカニバサミが此方の胴体を掴んだ。
「ぐっ!」
「抵抗はしないで……あまり此処を汚したくない」
まだ、三十秒しか経っていない、転送は無理だ。
「――――」
左手でステッキを掴んだ……掴んだ、掴めた?何故……??
「え……なに!?」
真白は予想だにしていない出来事に冷静さを欠いた。
その一瞬の隙が好機となる。
「捕まえたのはこっちも同じだぞ!」
『親殺し』を展開し、無防備な真白の腹部へ叩き込んだ……はずだった。
それが強力な反発に合い、ステッキごと真白が五メートル程吹き飛んだ。
「な?!」
『アクトおにーちゃん、予備のカートリッジを回収して!まだ、あの手がある』
(!)
玲の助言に従い、吹き飛んだカートリッジを回収する。
その間に真白は起き上がっていた。
「キミ、何者なの……?最初会った時から数えて五回は死んでるはず……どうして土壇場で逃れられるの?」
「……それは俺の台詞だ。お前、アレを喰らってなんで生きている?」
睨みあいが続く、だが十秒程の事だった。
「――もう手加減はしないよ」
それは死刑宣告に等しい。
「『弾き飛ばす光群』」
「!」
それは先程見た、つるべ撃ちだ。
だが、学校の廊下なんて場所で逃れる場所は――
『窓よ、飛んでっ!』
玲の声に従った。
カートリッジをナイフ状に展開し、すぐ傍の窓を突き破った。
落下しながら自分が元いた場所を見る。
光の粒子に包まれ、やがて爆音が突き当りの壁を破壊した。




