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悪と善と妹(仮)  作者: 結城コウ
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仕組み

何か脱出の糸口を掴めないかと教室を回る事にした。

最初に向かったのは保健室。

光治郎氏からは護衛中は傷一つつけるなと言われているが、護衛中以外という事と通常想定される場面以上の事が起った以上、そういう訳にもいかなかった。

聖の服や持っていた鞄は所々汚れ、聖自身も切り傷、かすり傷を負っていた。

小さな傷ではあるが、手当が出来るならしたほうがいいと思い、保健室の扉を開けた。

「ひっ……!!」

聖が声を上げる。

中には子供の死体が転がっていた。

「亡霊の犠牲者か」

構わず聖の手を引いて、中に入ろうとする。

聖はその手を引っ張り返してきた。

「……」

聖の方を向くとふるふると首を横に振る。

「ドアの前でいいです。死体も見なくていいです。ただ、一緒に中に入って下さい」

「ど、どうしてですか……?」

「少しでも此方の傍を離れられると……アレが来ます」

此方はともかく、聖は殺すのが簡単である以上、離れれば聖を狙ってきてもおかしくない。

この場所は比屋根玲のフィールドだと先程判明してある、あの手の類いは空間を別の空間に繋げるような事は容易にやってくる。

比屋根玲にその力があるとは限らないが警戒するに越した事はない。

「わ、わかりました……」

聖の顔は青ざめていた。

中に入り、聖を扉の前に立たせるとまずは死体を調べた。

この手の被害者というのは案外重要な証拠を持っていたりするのが、定説だ。

「……玩具にされたみたいだな」

死体は小学生男子、比屋根玲に好き勝手遊ばれた痕跡があった。

残念ながら目論見と違い、大した持ち物を持ってはいなかた。

「ハンカチぐらいか、だがこれで何か出来るとは……津田、亮史?」

ハンカチには『つだ りょうじ』と名前が記入してある。

漢字はすぐに思い浮かんだ。

だが、その理由がわからない。

顔を見る。

恐怖に歪んでいるが顔立ちくらいはわかる。

顔がわかる……?

という事は最近殺されたのだろうか?

だが、それなら新聞辺りに失踪扱いになる……事はないだろう、此処に取り込まれればその存在を比屋根玲に抹消される。

「ん?」

何かが引っかかった。

「……」

口許(くちもと)に手を添え考える。

探偵のような仕草で死体の周りを歩き保健室の椅子に腰を下ろした。

だが、探偵の真似事をしても違和感の正体に気付くほど都合よくはない。

「はぁ……」

落胆し、保険医のデスクを肘掛のように使ったところで閃光が走った。

「……あ?」

デスクの上をなぞる。

そして指を見たが……汚れてはいない。

「綺麗好きの亡霊……なんて訳ないよな」

ある仮説が浮かんだ。

それを確かめるべく、扉の方に戻った。

「兄様?」

「申し訳ないんですが……端のほうに寄って下さい」

聖が言われた通り端によったのを確認すると扉の窓に向かった正拳付きを放った。

「兄様!?」

「つっ……思った通りか」

右手の痛みを堪えながら仮説が正しい事を確信した。

「ど、どうしたんですか?」

「聖お嬢様、恐らく此処は生きている者以外の時間が止まってるんでしょう」

「え、え?」

「この程度の窓なら、今の拳で割れたはずです」

「そ、そうなんですか?」

「……椅子で試したほうがよかったですね」

今更ながら思った。

そうすれば、拳を痛める事も客観的にも分かりやすかっただろう。

「とは言え、完全に止まってるという訳でもないんです、扉は開きますから」

「あ、はい……確かに完全に止まっていたら開ける事も出来ないですよね」

「だとするなら、窓が割れないのは不自然だと思いませんか?」

「どういう事ですか?」

「仮に空けるという事が出来るなら、壊す事も出来ると思いませんか?」

「……そう……なんですか?」

「動くというのは少しずつであれ、消耗するという事です。物を使い続けると壊れたり無くなったりするのは消耗してるからです」

「……ペンを使い続けるとインクがなくなる、それと同じって事ですか?」

「根本は同じです」

流石にドアが壊れるまで使い続けるというのはそうそうないだろうが……

「え、じゃあ、どういう事なんですか?」

「消耗や腐敗の時間が止まってるって事でしょう、壊れない窓、埃が積もらない机…………腐敗しない死体」

「死た……っ!?」

「生きてる人間は例外でしょうね、多少の汗やエネルギーの消耗を感じます」

「死んだら……そうなると?」

頷き、死体を見る。

綺麗に死んだ、という事はない。だというのに悪臭はしなかった。

「津田……亮史という名前を覚えてますか?」

「え?……あ、聞いた事あります」

「え?」

駄目元で聞いた事だったが予想外の返答に戸惑った。

「兄様?」

「覚えて……いるんですか?」

「は、はい……」

「教えてください!」

「く、詳しい事は知りませんよ?小学生の時に上の学年にそういう人が居たって覚えてるだけで……」

「小学生……上の学年……?」

だが、思い出せない。自分の記憶には存在しなかった。

「聖お嬢様、どうして覚えてるんですか?」

「どうしてって言われましても……」

「違う学年の事なんて接点か何か特別な事でもないと覚えてないでしょう?」

「あ……確か、その人は……コンクールか何かで表彰されていたので覚えてたんです。何で表彰されたかまでは覚えてませんけど……」

「……」

仮にその“津田亮史”と死体となった“つだ りょうじ”が同一人物だとしたら、十年以上前に殺された事になる。

それならば、当に腐敗どころか白骨化してもおかしくはない。

そんな気配がないのはやはり時間が停止しているからだろう。

「……なら、魂は何処に有る?」

「兄様?」

人は死ぬとどうなるか?

それは人類の未だ解明出来ない命題だ。

色々な説があれど、自分は非業の死を遂げた者の行き先を知っていた。

「……聖お嬢様、暫く廊下の方を向いて貰って宜しいでしょうか?」

「え、は、はい……」

津田の死体へと歩み寄る。

記憶というデータを保管した脳というハードディスクが壊れると魂は肉の檻を離れる。

その後どうなるかは一部を除き知らない。

唯一知るのは怨念が『悪』に魅入られ悪霊となる事。

だが、此処はその悪霊が内包する世界。

魂に行き場所などあるのだろうか?

「……あんたに恨みはない。ただ、試させてもらう」

右手に『悪』を展開すると津田の死体に刺し入れた。


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