怪談への反逆
「がっ!」
背中から床に叩きつけられた。
二神アクトの転送は半分成功し、半分失敗していた。
「痛ててて……」
起き上がり辺りを見渡す。
先程までの校舎と似ているが雰囲気が違う。
跳ぶ事自体は成功したらしい。
だが、聖はここにいない。
「そう上手くはいかないか……」
武装を確認したところで失態に気付く。
バトルモードに切り替える事が出来ない。
「いや……転送自体出来ない?」
入る事は許しても出ることは許さないと言っているようだった。
これならば、せめて転送前にバトルモードになっていた方がよかった。
「今更、仕方ないか」
武装自体はある。
なら、後は早めに聖を見つけて脱出の手段を探すしかない。
歩み進めながら、校舎の観察をする。
前述の通り、自身が知る小学校の校舎と類似していたが、全てが同じではない。
何か違和感があると考えてみると自身が知る校舎よりも真新しい校舎だと思った。
現在の老朽化した校舎が建てられた時期にタイムスリップしたような……
「という事は……地縛霊の類か」
推測が正しければ今居る校舎は“現在”の校舎の“過去”姿。
さらに考えれば、“過去”の出来事によって小学校に縛られた存在である可能性が高い。
でなければ、こんな場所を己のフィールドに選ばないはずだ。
「だとしたら……好都合かも知れないな」
加えて、このような事をしでかすのは大抵悪霊だ。
『善』と『悪』は人間にその力を与える以外に動物や霊魂、草花に単なる思念にさえ力を与え、『善』なる存在と『悪』の現象を創り出す。
『悪』ならここのような悪霊に『善』ならヒロイン達をサポートする妖精やマスコットの類い等だ。
つまり、ここで悪霊を喰らえば『悪』を増強する事が出来るだろう。
「よし、方針はそれで行こう……ん?」
ふと、気づいたのは仮に予想通り、相手が悪霊だとしたら、武装はまともに使う事が出来ない事だ。
悪霊という事はその身体のほとんどは『悪』である以上、同じ『悪』を打ち込もうと大して意味はない。
厳密には薄められた『悪』なのだが大した違いはない。
例えるなら泉にめがけて水道水の水鉄砲を撃つ程度の事だ。
細かい影響はあるかも知れないが下手をすれば逆に相手に力をつけさせるだけになるかも知れない。
「となると……呪いをぶつけるしかないか」
『親殺しの呪い』なら、同じ『悪』であっても効果があるだろう。
何しろ因果に作用する力だ。
現状、自身の最大の切り札にあたる。
切り札のみで勝負するというのも不安だが、今は悠長な事を言っていられない。
「後は聖か……」
聖は光治郎氏がそうである事を知らないようにこの身が『悪』という事は知らない。
光治郎氏からもストップをかけられているが、今は非常事態だ。
正体がばれる事になっても仕方ないだろう。
どちらにしても早急に聖を見つけなければ話にならない。
まぁ、悪霊を倒してからゆっくり聖を探すというのもない事はないのだが、現状優先すべきは聖の安全だろう。
「……おかしいな」
立ち止まり窓をみる。
窓の外は校庭とそれ以外の部分が黒に塗りつぶされたような純粋な闇だ。
見える景色がほとんど変わらない。
感覚としては既に反対側の階段までたどり着くはず距離を歩いたはずだが、その階段に辿りつきそうな気配が全くない。
「……」
銃を抜き、廊下の先、突き当りの壁をめがけて撃った。
それと同時にすぐに一歩横にずれる。
予想は正しく、自分が撃ったはずの黒い光が背後から抜けていった。
恐らくは二、三教室程度で繋がり、ループするようになっているのだろう。
試しに廊下を戻り階段に向かうと難なく戻れた。
「……これは降りろって事か?」
まだ廊下を歩いただけで、この階の捜索は行っていない。
だが、あまり時間をかける訳にはいかないだろう。
声を張り上げる事にした。
「聖ぃっ!いるなら出てこいっ!助けにきた!」
声は反響するだけで、様子は変わらない。
拘束されている可能性を除けばこの階にはいないのだろう。
他の階にも今の声が聞こえたかも知れない。
その場合、今から降りれば聖を見つけられるだろう。
「聖!俺だ、アクトだ!此処にいる!」
一度、声を張り上げた以上、しばらくはそれを続ける。
それで悪霊も呼び寄せるならかえって好都合だ。
無力な学生が此処に迷いこんだのなら、ホラーパニックだが、対抗手段を持ちえる自分の視点では精々異能バトルだ。
不気味なはずの校舎も薄暗い闇も恐怖には成りえない。
「聖ぃっ!」
と、その勢いのまま一階にまで降りるとあっさりと聖の姿を見つけた。
だが、呆気ないと思う暇はなかった。
聖はへたり込んでいて、その前方には悪霊がいたのだから。




