悪人-アクト-
「それはそうと兄様!」
「あ、はい、なに?」
「なに?じゃあ、ありません!校則違反ですよ!」
「ん?……ああ、そうだね」
先程の携帯電話での通話の事を言っているのだろう。
「そうだねって……兄様!」
「そう怒るなよ。俺は悪人だよ?校則違反ぐらいするさ」
自身の名は悪人と書いてアクト、正直あり得ない名だが、親は本当にそう名づけられた。
当然、役所では滅茶苦茶揉めたそうだが。
しかし、名は親の子供にこうなって欲しいという願望の現れだ。
親に『悪』である事を望まれたのだ、校則違反ぐらいする。
まぁ、この程度は悪人というより、悪い子ぐらいのレベルではあるが。
「兄様はいつもそうです!自分の名前を免罪符のように」
「そんなつもりはないが、真っ当に生きるのは無理だろ?」
当然、こんな名前ではまともな人生は厳しいだろう、ゼロではないのだろうが。
「でも……!」
食い下がる聖を見て、少し意地悪したくなった。
「じゃあ、名前交換してみる?」
「えっ!?」
「俺は聖って名前でいいよ。というより、悪人より全然いい」
「え、えっ?」
「ああ、人ってつくと男っぽいか。じゃあ、上だけ変えて俺は聖人、君は悪でいこうか」
「に、兄様?何言ってるんですか?」
「いや、すぐに改名ってのは無理だろうけど、ずっと名乗ってたら、その内出来るだろう」
「勝手に話を進めないで下さい!」
「どうした?何かわからない事でも?」
「論点をすり替えないで下さい!」
「そうかな?すり替えではないと思うけど」
「……仮にわたしの名が悪であっても父と母から頂いた名なら大切にします」
「それは、悪ではなく聖という名で育った君だから言える事じゃないかな?」
「そうかも知れません。でも、間違いではないはずです」
「成る程。でも、正しいとも思えないがね」
無意識に自分の口許が意地悪く引き攣るのがわかった。
「……だから、問題はそこじゃありません!校則違反はやめて下さい」
「はは……わかったわかった。善処する」
「……嘘くさいです」
訝しげに聖は睨んできた。
「あー、いや、気をつけるのは気をつける。指導を受けて謹慎でも食らおうものなら、死活問題だからね」
「……ばれなければいい、と思ってません?」
「そんなものだろ?」
「ダメです!」