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悪と善と妹(仮)  作者: 結城コウ
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宿命-うえつけられたもの-

『アクト、君がこれを見ているという事は僕らの思いを継いでくれたという事だろう。

まずはその事について礼を言いたい、有難う。

もし、アクトではなく()(つき)、君が見ているのなら……計画の立案者としては大変残念ではあるが、親としてアクトが優しすぎる子に育ってしまった事と夫として君が生きている事を嬉しく思う』

菜月は母の名だ。

この台詞だけで判断するのなら、父と母の関係は良好だったのだろう。

『仮に何らかの理由でそれ以外の者がこれを見ているのなら、すぐにでも観る事をやめてほしい、この映像には二人のどちらかに伝えたい事を遺しているに過ぎない。恐らく望むような事は何もないだろう。……まぁ、それでも確認の為に最後までみるとは思うがね』

死者への冒涜(ぼうとく)だな、と()(ちょう)げに笑う父の顔がどことなく自分に似ている気がした。

『では本題に移ろうか、これから話す事はアクト、君のこれからの在り方についてだ。菜月は……多分理解しているとは思うが、ケジメとして聞いて欲しい。

この世界は悪と善がバランスよく存在しなければいけないという事は既に教わっていると思う。では、仮に君が何も事を起こさずに今の現状……悪が狩られ続け、善が増え続ければどうなるかをシミュレートしてみよう。』

画面の端に新しく折れ線グラフの画像が新しく開かれた。

そして、いつの間にかメモリーに画像データが増えていた。

「えっ」

『今出たと思うが仮にそうなった場合の悪と善の人口推移を予想したものだ。あくまで予想だがね』

それ以前にわざわざ映像に連動して画像を開くなんて手の込んだ事をしなくていい。

『仮にこの予想通りに進めば今現在……僕が健在の今の時点から二十年で悪の人口はほぼゼロになる。』

つまりは、後十年程という事か。

『何度も言うがこれはあくまでも現時点での予想だ。実際の状況に合わせて君が活動開始するタイミングは変わる。菜月の判断だがね。仮に君が十八歳より若ければそれだけ予想よりも早く阻止限界点が見えたという事だ』

「っ……!」

今の年齢は中学三年生の十五歳、三年早く計画が前倒しになった事を意味する。

『さて、仮に悪の人口がゼロになった場合、どうなるかという事だが……まぁ、有り体に言えば人類滅亡だ』

「……」

なんとなくだが、予想はついていた。

『具体的な事は提示出来ない、あまりにもパターンが多すぎてね……だが、要因については説明しておこう』

と、次は教科書の挿入絵のような“こうなればこうなる”といった小さ目の絵と矢印で構成された画像が開かれた。

『さて、また新しく画像が出たと思うがそれは今から述べる内容を簡略化したものだ。それを見ながら話を聞いてほしい、まず、前提として悪と善は概念であると同時に自然のエネルギーという事を説明しておこう』

「……」

『悪と善、所謂(いわゆる)善悪は元々、人が作り出された概念に過ぎない。だが、その概念も長い年月根付いた事により昇華され超自然的な力となった。元々概念にすぎなかったものが世界を動かす歯車の一つになったんだ。』

「歯車……」

『そう、歯車だ』

父はまるで此方の反応を予想していたように言った。

『だが、単なる歯車ではない。ある程度力が均衡する事で世界が正常に動く……だが、今はその均衡が崩され始めている』

現状の『善』と『悪』のパワーバランスを考えれば当然だろう。

『まず、原因の一つとなるのは人口の増加だ。人間が増えれば増えるだけ善悪は生まれる。そしてその結果善悪の量自体が増えた。その結果として余剰(よじょう)分が、人間に還元されヒーロー達と『悪』の者達が生まれた……この辺りは菜月から聞いているだろう』

確かに耳にタコが出来る程、聞かされた。

『本来はそれだけの力だ。争いあう必要はない……だが、人間というのは愚かな生き物だ』

よく聞かれる台詞だな、そう思った――次の言葉を聞くまでは。

『自ら破滅に向かおうとは』

「……は?」

『よく聞くといい、アクト。元々、ヒーロー達が戦う理由は悪への対抗手段と抑止力の為だ。それが今は積極的に争いあっている。ある一つの組織の思惑通りに』

「なんだ、それは……」

『悪の組織の目的は本来ただ、存在する事だ。ヒーローと互いに睨みあう事で互いの存在を守り、そういった力がある事で一般人の秩序が守られた』

それも初耳だ。それだと『悪』の組織が平和維持に貢献していたというのか。

『だが、悪の名を持つ者達の集まりだ。それで満足しない者もいた。中には人類滅亡を企む者も……そして彼らは真実に至ったんだ。争いあい、自分達でもヒーローでもどちらかが滅べば自分達の目的は達成すると』

つまり、未だ『善』の奴らはその真実に気付かずに残党狩りを続けているというのか。

『争いの中で奴らは決して悪と善が和解出来ない憎しみの因子を植え付けた。それにこの事実に気付きそうな聡明なヒーロー、ヒロインを優先的に殺していった……『善』の側から止まるのは不可能だろう』

「……」

『先程具体的な事は提示出来ないと言ったが、それは可能性が多種多様にあるからだ。しかし、いずれも結末は人類の滅亡。アクトにはこれを阻止してほしい』

「……簡単に言うんだな」

『アクトが生まれた時、初めて神の存在を信じた。アクトの能力はそれを成す事の出来る能力だったからね』

「……随分、買われているんだな」

でなければ、こんな計画は立てないか、と毒づいた。

『アクトの能力は他人の悪を奪う事が出来る……これは菜月の時に教えられただろう。この事が計画には重要なピースとなる』

「……なんだって?」

凄く重要な事をさらりと言われた気がした。

『アクト、仮に君がヒロイン達を倒していったところで同じ事の繰り返しだ。だから、アクト、君は悪と善の両方を倒せ』

「――――」

自分に向けられた言葉なのにひどく他人事に聞こえた。

『仮にこのまま善を狩り、悪を増やしたところで結果は同じだ。力が均衡になったところでまた争いあい、どちらかが追い詰められ、消える』

「親父、あんたは……」

『ならば、巨大な力を持った存在が争わずにいたらいい、そういう事だ』

「あんたは、俺に魔王にでもなれって言ってるのか?」

だが、父はその言葉に答えない。当然だ、これはただの映像なのだから。

『君に思想教育をしなかった理由はそれだ』

「……」

『それでも環境の中で悪寄りな思考をするようにはなっていると思うが……だが、本当はこんな事したくないと思っている』

「あんたがそれを言うのか?」

『自分を偽り、他人を……そして、僕を……菜月を……殺した』

「っ!黙れ……」

『しかし、それはあくまで使命感によるものにすぎない。本心は違うだろう?』

「黙れっ!」

『まぁ、僕の事は意識してなかっただろう。だけど、菜月を殺したところで止まれなくなった』

「……クソ親父っ!」

『止まるとその事実に押しつぶされそうになる。いや、押しつぶされそうなのはそれだけじゃないこの計画……その使命感からもだ』

「……親父、あんたは一体なんなんだよ?俺を追い詰めて何がしたいんだっ!」

『……そこから解放される方法は一つだ』

「あ?……っ!」

『それを成せ。唯一無二の巨悪になれ。そうすれば君は救われる』

思想教育をしなかったと言うが、これでは洗脳だ。

『そして、(ゆる)される。僕が保障する、僕から菜月からそして今まで殺した、これから殺される者達からも赦される』

それと同時に呪いでもある。

『なに、彼らは善だ。世界平和の為なら犠牲にもなる』

そう、『親殺し』以上の極上の呪い。

『そして、悪でもある。このまま滅ぶより巨悪の誕生の為を望むさ』

それがわかっていて、抗えない。抗えるはずがない。

『だから、アクト――人類の為に、人類全ての敵になれ』

既にこの身は選択を終えていたのだから。


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